検閲と遮断――認識阻害と切り離しに似たもの!?
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。
ハカセいわく、検閲システムを利用してダンジョンや異能者を割り出しているという。
これは検閲システムの本来の目的ではなくて、副次的な使い方だ。
公儀隠密では、特異関係の情報を拾い上げて利用しているのだ。
検閲システムと関連して、言論統制や思考誘導を行うためのシステムあるいは手段があるのだろう。
それを使うのが政府なのか公安なのか、特異対策課の別部隊なのか……それはわからない。
あんまり知りたくない気がするぞ。
知りすぎるのは危険だ。
権力者による検閲と言論統制は、世界による隠蔽に似ている。
知るべきでない情報を認識阻害する。遮断して情報を封じる。
知りすぎたり、情報を広めるものは消される。切り離しだ。
御庭め……ヤバいものを見せていいって言ってたらしいけど、限度があるんじゃないか!?
俺はダンジョンだけでお腹いっぱいだ。
社会の闇とか知りたくなかったぜ。
ハカセが言う。
「てなわけで、情報のチェックがここの主な仕事なのさー。ヤっバいだろー?」
「検閲システムを使って、異能やダンジョンの情報を集めてるんだな?」
ハカセは吐き捨てるように言う。
「そう。まさに悪のシステムを使ってね。他人の頭の中を覗いて回るようなものさ。コイツを悪用したらどうなるか、わかるよねー?」
「ああ。相当にヤバい代物だ。でも公儀隠密は……いや、俺たちはそれを使うしかない。そうだろ?」
他人事のようには考えられない。
「そうだよー? 足を使って聞き込み調査なんてやってらんないし、無理だよねー?」
ダンジョンの情報は隠蔽される。
認識阻害されるから、人づてに調べることは難しい。
一般人では知ることができないし、異能者の数は限られる。
リンがおずおずと言う。
「でも……これって、大丈夫なんでしょうか……?」
リンは難しい表情を浮かべている。
不安……あるいは、不信感だ。
別にハカセに向けて質問したわけじゃない。
つい口をついて出たという感じ。
一般的な常識で考えれば、これは悪いことだ。
通信の自由の侵害。法律で考えたって、いろいろマズい。
ハカセは皮肉げに言う。
「大丈夫ってなんだろーね? バリバリ違法だし、倫理的じゃないし、不適切で不平等だよー?」
リンは困惑を深めて、俺に問いかける。
「え、あ……はい。……でも、ダメってことですよね? あの、ゼンジさん、これって大丈夫なんでしょうか?」
「よくないけど、仕方ないと割り切るしかないだろうな。これは必要悪だ。使えるものは使う。忍者ってのはそういうものだし」
俺はこのシステムの存在を知っても、使用を止める気はない。
俺たちが使わずとも、既に存在するものだ。どうにかできるものでもない。
だったら、有用な道具だと割り切って使う。
忍者は情報を支配する。
人々の間にまぎれて情報を収集する。
うわさを集め、また流し、人々の心を操る。
それの現代版ってわけだ。
それに、公儀隠密が言論統制や思考誘導まで行ってるわけじゃない。
その前段階、検閲システムを利用しているだけ。
……そのはずだ。
いや、公儀隠密が使っているとしたら……。
俺の言葉に、ハカセが満足げに頷く。
「さすが御庭っちのお気に入りだ! 忍者っぽい考え方をするんだねー?」
「これはスパイでも警察でも悪の秘密結社でも同じ考え方だろ? 正論だけじゃ世の中片付かない。だったら汚れた力だって使うしかないんだ」
正しい意志で、力を使う。
自分が信じる正義のために動くしかない。
リンが頷く。
表情から、すっと迷いが消える。
「ゼンジさんがそう言うなら……そうなんですね!」
ハカセは少しあきれ顔だ。
「……オトナシっちって、素直過ぎじゃない?」
「そうですかー?」
さっきまでの迷いや不信感はどこへやら、今は上機嫌だ。
「リンは素直っていうか――」
――妄信的かもしれないな。
俺が間違ってても肯定してくれそう。
うれしいような、困るような……。
いや、俺がちゃんとしないといけないな!
「素直……っていうか?」
言い淀んだ俺に、リンが先を促す。
期待に満ちた目で俺を見ている……!
「――素敵だね?」
「……わあ、ありがとうございまーす! ゼンジさんもステキですー!」
リンは幸せそうな笑顔を浮かべる。
ハカセはそれを見てあきれ顔だ。
「……オトナシっちって、そういう感じなんだねー」
「えっと、そういう感じって……へ、へんでしょうか?」
リンは気後れした様子で、ハカセの顔色をうかがっている。
ハカセは皮肉げで――それでも悪意のない笑みを浮かべる。
「ま、素敵だねってことさー」
「ふふ、ありがとうございまーす!」
少し含みがありそうなハカセの言葉にも、リンは素直にうなずいた。
素敵で無敵である!




