知りたがりの陰謀論者……!?
俺は無言で作業する人たちを示して、ハカセに訊ねる。
「彼らはどんな作業をしているんだ?」
「たとえばニュースやSNSのチェックだね。AIがヒットさせたリストを、人の目で詳しくチェックするって感じー」
「チェックするのはどういう内容なんだ?」
「異能やダンジョンについての情報が主だねー」
特殊対策課の中で異能やダンジョン関連について担当しているのが公儀隠密だ。
仕事はダンジョンを潰すだけじゃない。
その前段階、調査から始まっているんだ。
「なあハカセ。ダンジョンについての情報って探せば見つかるのか?」
ハカセは口の端をゆるめて言う。
「探しても見つからなかったっしょ? これは相当に難しいんだよねー」
「つまり、難しいけど可能なんだな?」
ハカセは得意げな表情で、端末を示す。
「そうさ。俺っちにはできる。特殊な情報源を使っているからねー。それを使えば、特定の用語に興味を持っている人間を突き止めることができるんだよー」
特殊な情報というのも気になるが――
「――特定の用語って?」
「ダンジョンとか超能力とかー。クロウっちだって検索しちゃったでしょー?」
わからないことがあったら、インターネットで調べる。
現代の常識だ。
自分の部屋にダンジョンができたら調べちゃうよな。
「たしかに検索したな。ぜんぜんヒットしなかったけど」
「現代人のサガだよねー。調べずにはいられない。クロウっちも気をつけたほうがいいよ。ヤバいワードで検索するとバレちゃうからねー」
「俺、最近ヤバいワードで検索しすぎてる気がするぞ……」
ハカセはキーボードを叩いて、ディスプレイに目を走らせる。
「クロウっちは勤勉だよねー。銃とか爆発物について調べすぎるとヤバいやつらに目をつけられるよー」
話が具体的すぎる。
ハカセの言うように、トウコの関係で銃関係を調べている。
ディスプレイをのぞき込むと、身に覚えのある単語が並んでいる。
「これは……俺の検索履歴を見ているのか?」
「そうそう。それから忍者関係の調べもの……あと、女子大生と仲良くする方法とか?」
後半は小声で俺に耳打ちする。
「おい……やめないか!」
「ど、どうしたんですかゼンジさん?」
リンは驚いている。
ということは、聞かれてないな。セーフ!
しかし、ここにプライバシーはないのか!?
「なんでもない。男同士の会話だよ!」
「そうそう。男同士は猥談して仲良しになるのさー」
俺の検索履歴をもとに猥談するな!
「ちなみにハカセ。もしかして御庭が俺たちに興味を持った理由はこれか? 検索履歴か?」
「俺っちが調べて候補者リストを御庭っちに渡す。それだけじゃ情報の確度は低いし、かなりの数になる。でも御庭っちは正解を引き当てちゃうのさー」
御庭はなぜか俺が忍者だと確信していた。
精神感応や読心能力ではないと断言していた。
偶然じゃない。タネも仕掛けもある。
検索履歴から俺がダンジョン保持者であり、忍者であると目星をつけたんだ!
「つまりハカセがこの部屋から俺のパソコンをハッキングした、のか?」
「いんや違う。いくら俺っちでも、日本中の端末を個別にハックなんてできないよー。もともとある仕組みを使ってるんだ。――検閲システムさ!」




