ハイテク忍者屋敷!? 高セキュリティエリアに潜入しよう!?
隠し扉の先は廊下になっていた。
長い直線の廊下に監視カメラがある。
カメラは首を振らない固定式で、死角のない配置。
俺は、隠れ潜む隠密忍者の目線で見る……これは、デキる!
バレずに潜入するのは難しいだろう。
回転扉とか落とし穴はないが、これはハイテク忍者屋敷だ!
スキルを使ったら、どうだ?
そういえば、【隠密】を使った状態でカメラに映るとどうなるんだ?
ぼやけて映るのか? 効果がないのか?
試してみたい……!
いや……隠蔽の影響を受けるとすればマズいぞ?
あとで御庭に聞いてみよう!
廊下の先にも電子錠がある。
また別の番号を入力して、ウスイさんがドアを開く。
厳重である。
「――さて、中へどうぞ。ここがオペレーションルームです」
ドアをくぐる。
「こんにちはー」
「ど、どうも、おじゃましますー」
俺たちが声を上げても、返答はない。
誰もいないわけじゃない。
パソコンに向かって、五人の男女が作業をしている。
誰もこちらに注意を払わずに黙々と作業を続けている。
「……あれ? もしかして超忙しいとか?」
死んだ目で仕事をしている感じ……。
ここは社畜の巣窟なのか!?
しゃべりかけちゃまずい雰囲気?
いや、そうじゃない。
ウスイさんが説明してくれる。
「いえ、彼らはあまり私語を好みませんのでお気になさらず」
「あ、そういうことですか」
彼らは認識阻害者なんだ。
「……なんだか、会社みたいですねー」
「たしかに、情報系のベンチャー企業みたいだな」
リンの言う通り、室内は会社のオフィスのようだ。
打ち合わせスペースにホワイトボード。
観葉植物なんかも置かれている。
もっとこう……スパイの作戦指令室みたいなものを想像していたんだけどな。
ディスプレイだらけの机に座っている男が声を上げる。
「やあ、来たねー。御庭っちから聞いてるよー。ヤバいものでも見せちゃっていいってさ。ちょっと作業のキリが悪いから待っててくれるかなー?」
こちらを振り向かずに、ディスプレイを見たままだ。
指先はキーボードの上で踊っている。
やせ型で背の低い男性だ。
十代後半だろうか。
責任者にしては若いが、彼の机だけ他と違うから特別な待遇の人物だろう。
机の上にはアニメキャラのフィギアが飾られている。
美少女系とロボット系が混在するカオスな空間だ。
「よし、終わりっと。さて、おまたせー」
男はゲーミングチェアに座ったまま回転して、こちらに向き直る。
彼はほかの人たちと違って表情がある。
ウスイさんが彼に向って俺たちを紹介する。
「ハカセさん。こちら、クロウゼンジさんとオトナシリンさんです。御庭さんに言われて案内しています」
「よろしくクロウっち、オトナシっ……ち?」
ハカセさんは俺たちを眺める。
リンに視線を送って……その視線が揺れる。
うん、そりゃそうなるだろう。
生理現象のようなもので、回避不能の罠のようなものだ。
目線はバレるというけど、正面から見ると……バレバレだな。
十代の若者には抗えまい!
いや、俺も抗えないけど!
スレンダー巨乳女子大生なんていうファンタジーの存在を目にすれば当然そうなる。
魔法使いより希少種なんじゃないの。
俺は硬直してしまったハカセさんに助け舟を出す。
「……よろしく。ハカセさん」
「あの……ハカセさん、よろしくおねがいしまーす」
続いてリンがややぎこちなく会釈すると、ハカセは顔を赤くしながら復帰した。
「うわあ、リアル美少女が三次元世界に降臨しているよー。いや、これは現実か!?」
「え、三次元って……?」
「間違いなくここは現実だぞ。俺も最初は二次元の存在かと疑ったもんだ」
そういう時期が俺にもありました。
「あー。いや、ごめん。俺っち、ずっとここに居るからさ、対面で人と会うのは久しぶりなんだよねー」
「ずっと? ここに住んでるのか?」
ハカセさんは頭をかいて笑う。
「まあ、ちょっとワケありでねー。ま、ここは居心地いいよー」
「そうか。ハカセさんはここの――」
「あ、ハカセはあだ名みたいなもんだからサンはいらないよー」
ハカセは手をひらひらと振っている。
俺は軽く頷いて呼び名を改める。
「そうか、ハカセ。君はここの責任者なのか?」
落ち着きなくイスを左右に回しながら、彼は言う。
「そうだよー。ここは公儀隠密の情報戦部門で、俺っちはまとめ役だよ。別に役職とかはないけどねー」
「へえ。そういえば俺も役職なんてないな」
ファミレス店では店長だったけど、今はマネージャーと呼ばれてる。
だけど、そういう役職があるわけじゃない。
「まあ、呼び名なんてどうでもいいよー。偉そうにしたって、やってることはみんな同じなんだ」
「そうだな。なにをやるのか、できるかが大切だ」
「ここでは情報収集、分析、連絡調整なんかをやってる。あっちの彼らは無口だけど、仕事はしてくれるよー」
「彼らは認識阻害者なのか?」
俺たちに興味を示さず、作業を続けている人たち。
ウスイさんは達観した坊さんみたいだけど、もっと機械的と言うか……。
「ご明察。深めに記憶を失っちゃって、自我が薄い感じだねー。だけどそのぶん物覚えがいいから、ここで働いてもらってるんだよー」
認識阻害者、しかも重度。
そんな状態でも働ける人たちが、ここで仕事をしているんだ!




