認識阻害者がこれ以上、記憶を失わない方法!?
明日で投稿を始めて一周年です!
ダンジョンなどの、世界が隠したい情報――禁則事項。
この情報を知ると隠蔽が起こる。
隠蔽が起こる条件は、それをはじめて知ること。
二度目に知る――もともと知っている場合は制限がかからない。
異能者とダンジョン保持者は認識阻害を受けない。
正確には、影響を受けにくい。
禁止されている情報を漏らした場合の追放は間違いなく受ける。
一般人には認識阻害が強く働く。
悪性ダンジョンが世界から切り離されたとき、その場に存在した者は世界から消される。
家や家族がそこに含まれれば、それに関連する記憶も消える。
これはたぶん「切り離された場所や人」が禁則事項になるからだ。
失った記憶を思い出そうとする行為は、禁則事項に触れるとみなされる。
隠蔽――隠した内容を暴こうとする行為だからだ。
だから認識阻害者は、関連する記憶を思い出せない。
思い出すためのとっかかりになる記憶さえも消されてしまう。
そうして記憶の修正範囲はどんどん広がり、やがては正常な人格を保てなくなる。
禁止されている情報をはじめて知ったときに認識阻害を受ける。
また、これは想像だが――「新しく禁則事項に指定された」場合にはその情報は即時に消されるのだ。
新たに知れば、また消される。何度でも知らない状態にされてしまう。
普通の場所では、これを阻止することはできない。
では、一般人は禁則事項を知ることができないのか?
そうではない。抜け道がある。
隠蔽の影響を受けない場所――霊場。
寺や神社の境内など、特殊な場所である。
この場所では、禁則事項に触れても記憶を奪われない。
これが、すでに認識阻害を受けてしまった人がこれ以上の記憶を失わない方法である!
俺は、その人達に与えるべき情報は、禁則事項そのものだと考えていた。
彼らにはダンジョンや隠蔽のことを説明するのだと思ってたんだが……。
「……なあ御庭。認識阻害者には、ダンジョンの話を伝えないのか?」
「うん。ダンジョンのことを知らせるのはリスクがある。ダンジョンのせいで家や記憶を失ったんだ! なんて言いふらされたら二次災害が起こるからね!」
「ダンジョンの持ち主が一般人に話してしまった場合と同じだな。そしてそれが人から人へ広がってしまう危険があると」
「その通りだよ。クロウ君」
言いふらした人はペナルティを受け、この世界から消えてしまう。追放だ。
聞かされた人は認識阻害を受ける。
これじゃ、せっかく助けた――助けようとした人が追放されてしまう。
元も子もない。
俺は御庭に問いかける。
「じゃあ、禁則事項そのものを伝えなくても認識阻害を受けないようにできる方法があるんだな?」
「うん、あるよ。ぼかして説明するんだ。例えばこう言う。――神隠しにあって、君の家と家族は失われた。そのせいで君の記憶はおかしくなっているんだよ――とかね」
「なるほど。ありもしない神隠しが本当にあると信じさせる。それなら、それを言いふらしても問題ないわけだ」
「そうそう。ちょっと誠実さには欠けるかもしれないけど、真実なんて知らないほうがいい場合もあるんだ」
御庭は片目をつぶる。
忍者汚い。でもやさしい。
「そうしてダンジョンや隠蔽については言わずに、認識阻害を受けていることを説明するわけだな?」
「そうすることで、いま受けている認識阻害の影響から脱するんだ。それにより、失ったことを納得できるようになる」
御庭の言葉に、リンは憤然として言う。
「ちょっと待ってください。御庭さん! 神隠しだなんて……ダンジョンのことを説明せずに、原因もわかってないのに、大切な人が居なくなってしまったことを納得できるんでしょうか!?」
御庭に対してというより、このひどい仕組みに対しての憤りだろう。
「大切な人のことはもう、忘れてしまっている。だから、大切だったことも忘れている。辛いと感じない人が多いんだ」
忘れたものは取り戻せない。それなら納得するしかない。
こだわっても、あがいても、もう戻ってこないんだ。
それに、忘れるだけじゃない。
認識阻害は、思考の方向も捻じ曲げる。考えないようになってしまう。
リンが顔を覆う。
「そんな……! だけどそんなの、辛すぎます! 大事な人がいたのに、もういない――それを受け入れるなんて!」
「辛いことだ。悲しいことだ。だけど、乗りこえなきゃならない」
リンは声を荒げる。
どうしても納得できないんだろう。気持ちはわかる。
忘れたくない。忘れられたくない。
どっちにしても、耐えがたい。
「なんで! 大事な人のことを忘れたままでいられるんでしょうか!?」
「リン君の言うように納得できずに原因を知りたいと願う人もいる。たとえばさっきの彼、ウスイ君がそうだ」
さっきお茶を運んでくれたウスイさん。
どこか悟ったような、達観したような態度。
まるで坊主のようだと思ったけど、そういうことか……。
彼は大事ななにかを失った人なんだ。
「ウスイさんの大切な人もダンジョンのせいで消えてしまったんですか?」
「そうだよ。そして今の彼は、家族がいたことを知っている。その上で新しい人生を歩んでいるんだ」
「納得するしかないってことっスねぇ……」
「でも……」
リンはまだ納得できていない様子だ。
被害者の気持ちに共感しすぎている。それはやさしさであり、弱さだ。
俺はそれを悪いことだとは思わない。
だけど考えすぎるのはつらいだろう。
リンは口を閉じて、考え込んでいる
消化するには時間が必要だ。
「なあリン。だから俺たちは悪性ダンジョンを潰すんだ。被害にあう人が少なくなるように!」
「はい……そうですね。そうですよね!」
「そうっス! やるしかないっス!」
「御庭。ウスイさんのような人が、公儀隠密で働いているってことか?」
「うん。一部は僕らと働いてくれている。社会に戻って働く人もいる」
御庭は言わないが、社会に戻れない人もいるんだろう。
トウコが言う。
「じゃあ、そういう人たちがお店で働いてくれるんスか?」
「そうなる。もちろん社会生活になじめるくらい回復した人だ。かまわないかな?」
「もちろん、オーケーっス! いいっスよね、店長?」
「ああ、ぜひ頼もう。彼らの働き口にもなるだろうし、俺たちも助かる」
表の仕事であるファミレス店。
俺たちにとっては大事な場所だ。
「話の通じる人がいたほうがスムーズだろうから、ウスイ君をつけるよ。ほかに数人、声をかけておくから会って決めてくれるかな?」
「ウスイさんには話が通じるってことだが、それはどこまでだ? 公儀隠密やダンジョンのことを理解しているんだな?」
「ああ、ウスイ君は納得できなかった人だ。ダンジョンについても認識阻害についても理解している。そして僕ら公儀隠密のメンバーになってくれた」
「じゃあ、他の数人は、詳しいことは知らないんだな?」
「うん。細かいことは伝えていない人たちになる。ウスイ君のような人は少ないからね」
「その人たちは御庭や公儀隠密のことをどう思っているんだ? 関わってるんだろ?」
「大部分の人は僕らを役人や介護職員だと思っている。僕らもそう振舞う」
いちいち正体を明かさない。要らない情報も与えない。
公儀隠密は非公式の組織だし、ダンジョンの情報が知られると害がある。
せっかく納得できた人達に危険な情報を知らせて苦しめることはない。
「でも、その人たちってちゃんと働けるんスかね?」
「トウコちゃん……言い方」
大事な記憶を失っている人たち。
正常ではないかもしれない。いつどうなるか、わかったものじゃない。
俺もそこは気になる。どう接すればいいかも考えなきゃいけない。
そりゃそうだけど、空気読まずによく聞けるなあ……。
トウコのサバサバ感、すごいな。
「問題ない人を紹介するから大丈夫だよ。彼らは普通の人たちと同じだ。仕事はきちんとできるはずだよ」
つまり、御庭が紹介する人は問題ない人。乗り越えた人。
問題ある人は……。今は考えないことにしよう。
「じゃあ、これで店の人手不足は解消できそうっスね!」
「彼らの働く場ができるから、僕らも助かる。さて、他に条件はあるかな?」
トウコは間髪入れずに答える。
「あと、銃が欲しいっス! 本物の銃!」
また、とんでもないことを要求したな!?
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