【閑話】クリスマスはドキドキで!?
本日二話目。クリスマス話です!
駅前通りは飾り付けられて華やかだ。
ケーキ屋で予約していた品を受け取る。
ううむ……。
こんなものを買う日が来るとは考えてもいなかった。
半額で投げ売りされているコンビニの品ではない。
それなら安いからと仕事帰りに買って一人で食ったこともあるが……今年は違う!
そもそも今日は仕事を休んでいる!
かつて、こんなクリスマスがあっただろうか? いやない!
一緒に過ごす人がいる……。
いいのか、そんなことがあって……!?
爆発しちまうんじゃないか、俺。
俺はアパートへ戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい。ゼンジさん」
壁の穴からリンが顔を出している。
俺はケーキを手渡した。
「ケーキ買ってきた」
「ありがとうございます! さっそく開けさせてもらいますね……わあー! 可愛いケーキですねー!」
ファンシーな飾りがついたイチゴショートケーキだ。
買うときはちょっと恥ずかしい感じがしたけど……リンの笑顔を見れば報われた気がする。
リンはキッチンで手際よくケーキを切り分ける。
「あれ? 静かだと思ったらトウコはまだか」
「遅いですねー?」
噂をすれば、騒がしく階段を駆け上がる音が聞こえる。
静かにしないとシモダさんに怒られるぞ!
ドアが派手な音を立てて開く。
「ただいまーっス! やたらと混んでたけどチキンゲットしたっスよー!」
「おう。おつかれ」
「おかえりなさい。トウコちゃん。料理はもうできてますよー」
草原ダンジョンへ移動する。
いつもの食卓にはテーブルクロスが敷かれ、整えられている。
ダンジョンの出入り口のある木を即席のクリスマスツリーに見立てて飾りつけしてある。
モミの木ではないけど、それなりの雰囲気は出ている。
草原ダンジョンは天気が良く春のように温かい。
季節感はないけど、まあいいだろう。
地球の裏側では真夏にクリスマスを祝うんだ。
どこに居たって、平等に訪れる。
ダンジョンだってかまわないだろう。
リンが鍋からシチューをよそう。
「はい、どうぞー」
「おお、うまそうだ。いただきます」
「おぉー! クリスマスっぽい色っス! いただきー!」
シチューからほかほかと湯気がたち、食欲を刺激するいい匂いがする。
白いクリームシチューにニンジンの赤。ブロッコリーの緑。
クリスマスカラーが映える。
肉はツノウサギのものだろう。
野菜は飾り切りされていて、手が込んでいる。
「ツリーの形のニンジンに雪だるまを模したジャガイモか……。すげえな!」
「ジャガイモは固めにして形が崩れないようにしてます」
小ぶりのジャガイモを重ねて、雪だるまになっている。
顔のパーツまで作りこむ力作だ。
「うまっ! あちちっ!」
「落ち着いて食べろよ!」
「チキンとコーラもスタンバイオッケーっス!」
定番のフライドチキンだ。
ポテトやナゲットもあるセット商品で、なかなかのボリューム!
食いきれる気がしない!
「ケーキはあとでな。なんか、これだけで腹いっぱいになりそうだけど」
「え? ケーキはいくらでも食べれますよ?」
「甘いものは別バラっス!」
「そ、そうか」
料理を食べ終え、一息ついた。
二人はケーキまでぺろりと食べてしまった。
俺はちょっと無理して食べ切った。
「ふう……うまかったな」
「リン姉の料理はいつでもおいしいっスけどね!」
「ふふ。ありがとう!」
「じゃ、プレゼント交換はじめるっス! あたしはこれー!」
トウコがおもむろに紙袋を取り出す。
二つある。
え……? プレゼント交換って、なに?
「わあ! これは……入浴剤? ありがとう、トウコちゃん!」
「店長にはアロマキャンドルっス! 店長の洞窟はじめじめしてるからマシになるっス!」
「お、おう。ありがとう」
俺は挙動不審になりながら受け取る。
クリスマスって……プレゼントを用意するしきたりがあるのか!?
ぬかった……! 用意してないぞ!
ケーキを食うイベントだけで俺の許容量を超えていた!
バカな……。いや、調べればわかることだ。
そもそも常識のレベルじゃないか!
自分の身に起こるイベントだと考えていなかった……認識が甘かった!
「私はこれ……似合うといいんですけど」
リンははにかみながら、ラッピングされた包みを俺に渡す。
「あ、開けてもいいかな?」
「はいっ!」
めっちゃ笑顔だ!
俺は引きつった笑顔で包みを開ける。
入っていたのは――
「――手編みのマフラー?」
「これ、リン姉が編んだんスか! 大変だったんじゃないっスか!?」
「ううん。大変じゃないよ。喜んでくれるかなって思って作る時間も楽しいから……」
手編みって時間かかるよな。
てことは、何日も前から準備していたってことだ。
学業にモデル業にダンジョンに公儀隠密……その合間を縫って!?
色は黒。シンプルで主張しないが、よく見ると縄の様な複雑な模様に編まれている。
俺は震える手でマフラーを首に巻く。
「どうかな?」
「わあ! 思ったとおり似合いますね!」
「いいなあー! あったかそうっス!」
実際あったかい。
気持ちがこもっていてちょっと重……じゃなくて愛を感じるね!
「ありがとう。うれしいよ!」
「ゼンジさんがいつも着てる服に合うようにしたんですよー!」
俺は黒系統の服が多いので、組み合わせを邪魔することはない。
よく考えられている……!
「毎日使ってもらう作戦っスね!」
「ふふ……。トウコちゃんにはこれね」
リンはトウコに小さな袋を渡す。
当たり前のようにトウコの分も用意している!?
「これは軽いっスね? 開けていいっスか?」
「どうぞー」
「クッキーっスね! あざっス!」
袋の中身は手作りのクッキーだ。
トウコは中身を確認して笑顔になる。
……。
リンがこっちを見ている。期待のまなざし。
無言の圧力……! ボス級だ!
「店長……? まさか用意してないなんてことはないっスよね?」
トウコはズバリと切り込んできたー!
俺は動揺を抑えて言う。
「ま、まさか用意してないなんてことはないさ! あっちに置いてある! ちょっと待っててくれ」
ねえけど!
「はーい」
「なんかぎこちなくないっスか、店長?」
リンは絶対の信頼の笑顔。
トウコは疑いの視線を送ってくる。
俺は気持ち速足で資材置き場に向かう。
拠点で使う装備品や資材、魔石を保管してあるのだ。
脳が高速で回転して、時間の流れが遅く感じられる。
ボス戦より緊張するぜ……! 失敗は許されない!
いま作る! それしかない!
資材置き場にある材料ですぐに作れるもの……。
なにを作ればいい!?
【忍具作成】君! お前にすべてがかかっている!
プレゼントは忍具じゃない?
贈り物をして人心を掌握するのは忍者の常套手段!
間違いなく忍具! 違ってもやれ! 頼むぜ!
――術は成功!
俺の手の中に、二枚のチケットが生み出される。
紙に文字を書いて、豪華に見えるよう装飾しただけの紙切れである!
大丈夫、気持ちはこもっている!
俺はなんとか笑顔を浮かべてそれを二人に手渡す。
「ありがとうございます。これは……?」
「なんか書いてあるっス……なんでも作る券?」
文字通り、なんでも作るチケットである!
肩たたき券みたいな苦し紛れの品である!
「欲しいものをもらったほうがいいだろ? 装備でも、日用品でもなんでもいいぞ!」
「わあ、そうなんですね! では、なにを作ってもらうか考えておきますね!」
リンは疑いなく、笑顔で受け取ると少し考えこんだ。
よし! 通った!
「なんでもっスか? そしたら……」
「あ、常識的なもので頼むぞ。金銀財宝とか、無茶ぶりはよせよ?」
トウコが口をとがらせる。
「まだなんも言ってないっス! じゃああたしも、ちょっと考えてからお願いするっス」
「な、なんでもいいんですか……?」
リンはなぜか顔を赤くしてうつむいた。
な、なぜなんだぜ!?
「いいけど……俺が作れるものだぞ?」
「ゼンジさんと作るものならなんでも……はあ……」
「リン姉? おーい」
しばらくリンは妄想の世界へ旅立ってしまった。
プレゼントはなんとか成功したようだが……大丈夫だろうか!?
良い週末を!




