現代忍者の隠れ家に行ってみたら……想像と違った!?
御庭の事務所にやってきた。
と言ってもここは想像していた事務所――オフィスとは縁遠いイメージの場所だ。
「なあ御庭。ここって……寺だよな?」
「ああ、そうだよ。廃寺だったものを買い取って整備したものだ」
俺たちが立っているのは荒れた寺の境内だ。
御庭は両手を広げて、誇らしげに建物を示す。
小さな寺院である。
古びていて、あまり整備されているとは言えない。
境内には雑草が生い茂り、掃除も行き届いていない。
建物の木材は痛んでいるし、窓は割れている。
リンが不思議そうに尋ねる。
「お寺って、買えるものなんですか?」
「買える。神社も教会も売りに出ていれば買えるよ。普通の物件よりはややこしくなるけどね」
「そうなんですねー」
「神社や寺院はコンビニエンスストアの数より多いからね。使われていない物件はあるものさ。結局は土地と建物だ」
公儀隠密の資金力はなかなかのものらしい。
俺への賃金だってポンと大金を積んでくるしな。
「しかしなんで、わざわざ寺を事務所にしているんだ? もしかして、御庭って信心深いのか?」
俺はなんとなくうさん臭さを覚える。
別に宗教が悪いわけじゃないが、いきなり連れてこられると構えてしまう。
「ああ、別に宗教心でやってることじゃないよ。都合がいいからさ。ちゃんと意味はある」
「忍者っぽい隠れ家だから、とか?」
「そうそう。忍者の隠れ家っぽいからね! ……いや、冗談だよ!」
「本気かと思ったよ」
俺のとがめるような目線に、御庭は話を戻す。
「寺や神社のような霊場には力があるんだ。あ、これは冗談じゃなくて本気だよ!」
「……どうもうさんくさいが、続けてくれ」
「そもそもこの世界には霊能力者や超能力者がいるって話はしたよね。霊能力があるんだから、霊もいる。あたりまえだよね?」
「たしかにそうなるが……。それがどう関係するんだ?」
ダンジョンやモンスターは存在する。
霊や霊能力が存在したって、驚かない。
前に聞いていたしな。
特異対策課には霊能力部隊がいると御庭は言っていた。
超能力も霊能力もこの世界にもともと存在している。つまり在来種。
俺のようなダンジョン保持者は外来種って話だった。
「霊場……つまり特殊な土地だね。そこに意味があるんだ。普通じゃない場所だから、僕らの事務所にふさわしい」
「普通じゃない……つまり、ダンジョンに似ているってことか?」
御庭は大仰に手を叩く。
「そうとも! さすがクロウ君は飲み込みが早い! ここは世界の隠蔽の影響を受けにくい場所なんだ。監視の目がゆるいとでも言うか。少し世界とズレているというと伝わるかな?」
「隠蔽の影響を受けないことが都合がいい?」
「そうだ。ダンジョンや異能について話しても、一般人は隠蔽の影響でそれを覚えていられない。だけどここでは違う。異能の力を使っても切り離し《パージ》が起こりにくいし、認識阻害もされないんだ!」
これは……たしかに事務所にふさわしい場所だ。
認識阻害が強すぎると、ダンジョンについて調べたり考えたりすることは難しい。
ダンジョン保持者である俺でも影響を受ける。
「つまりここでは、一般人でも隠蔽に邪魔されない?」
「そういうこと! 僕ら公儀隠密のメンバーは全員が異能者ってわけじゃない。普通の人間もいる。彼らにダンジョンの話をできないんじゃ、困っちゃうからね!」
異能者やダンジョン保持者の数は少ない。
公儀隠密にも一般のメンバーがいる。
ここでは、隠蔽の影響なく会話することができる。
そして、力を使ってもパージされない。
「おお……抜け道があったんだな」
「こういう霊場で異能やダンジョンについて先に知っておけば、外に出ても大丈夫だ。だから僕らはメンバーをこうした場所で教育する。彼らが外でうかつなことを言わないようにも言い含めておく」
禁則事項を破らせないための教育。それは重要だ。
知ったことを外で不用意に話せば切り離し《パージ》の対象となってしまう。
トウコが目の前の建物を指さす。
「でもボロくて住み心地が悪そうっス!」
「トウコちゃん……言い方!」
実際ボロい。虫やネズミがいそうだ。
事務所にするならもっとちゃんと整備しないといけない。
「ああ、この本堂はあえて手を加えていないんだ。僕らの事務所は裏手にある。ついてきてくれ」
御庭のあとについていくと、この場にそぐわない近代的な建物が現れた。
寺の境内よりはオフィス街にあったほうがしっくりくるような、少ししゃれた建物だ。
御庭が入り口の横のパネルを操作して、ドアのロックを解除する。
「さて、ここが僕の事務所だよ。いくつかある拠点の一つだ」
「へえ……思ってたよりちゃんとしてるんだな」
もっと忍者屋敷みたいな感じかと思っていた。
そして、現代忍者の隠れ家へ俺たちは入っていく。
 




