コウモリの皮でステキなアレを作るぞ!
料理忍者も目指すべき方向ではありません。
次は防具だ。
モノリスで引き換えてきたコウモリの皮を使う。
作るのは鉢金だ。
金属の板を布などで包んで額を守るハチマキのようなものだ。
金属の板が外に出ているとメタリックで格好よく、忍者感もある。
でも、俺が作るのは金属は露出しないタイプ。
ぴかぴか光を反射していては、忍べない。
黒い皮にくるんで、内側に金属部分を隠す。
ベースにするのは釘とコウモリの皮だ。
額を重点的に防御するように金属を配置し、それ以外の周りには小さな金属片をつけておく。
頭の形に添って巻くので、防御の薄い部分はできてしまうが、しかたがない。
ゴブリンの棍棒くらいなら、どこで受けても金属で防御できるだろう。
まあ、頭に棍棒を食らったら保護されていても脳震盪は免れないんだけどね。
首もいかれてしまうな。
防具はあくまで保険!
基本は回避で身を守っていく。
軽くて丈夫、金属同士がぶつかって音を立てない配置をイメージ。
マフラーの時は魔石が七つ必要だったので、今回は十個を用意しておく。
「【忍具作成】! ……あれ?」
スキルは発動しない。
どうしたっていうんだ【忍具作成】さん!
誰がどう見たって君の守備範囲内だろう!?
「作成の難易度か……!?」
【忍具作成】のレベル1は簡易な道具の作成まで。
鉢金はパーツも多いし、少し複雑になる。
本来の性能より贅沢なものをイメージしたし……。
レベル2の「普通の道具」の範囲なのかもしれない。
レベル1で何でも作れるというわけにはいかないか。
スキルレベルを上げる手もあるが……クラフト系のスキルは後回しだな。
上げるとしたら忍術にしたい。
いったん保留だ。
「しかたない。鉢金は保留にして……いや、まてよ」
難しいものを作ろうとするから失敗しているんだ。
シンプルな構造。作業工程を少なく。
レベル1の範囲で収めれば……。
どういう仕組みでクラフトされているかはわからないので予想になるが……。
まず、材料がよくない。
釘をベースにしているのだが、金属ならなんでもいいというワケではないだろう。
複数の釘が、額を守る鉄板になると考えていたが、そこにコストがかかりそうだ。
釘を溶かして、板状に加工して、冷やしたり曲げたりする。
現実的に考えたらとんでもない作業だ。
スキルが魔法のようにやってくれるとしても、きっと大変なのだ。
無理を言ってすまないね【忍具作成】さん。
なら、最初から鉄板に近いものを用意したらどうか。
ちょっとの加工なら簡単と言えるんじゃないか。
「理屈としてはいけそうな気がする……。部屋に戻って金属の板を探すか!」
部屋に戻って持ち物を物色する。
深夜なので、隠密行動が求められる!
ちょうどいい金属の板……あるいは金属のカタマリ。
「うーん……5キロの鉄アレイは重すぎる。案外、ないもんだな」
タマゴのカラみたいに手軽に使える素材ってわけには……って、タマゴか!
キッチンから玉子焼き用の小さな長方形のフライパンを取り出す。
「これならサイズ的に丁度いいぞ。あんまり使わないし素材にしてしまおう」
でもその前に、最後の仕事として玉子焼きを焼いておこう!
もったいないの精神で、最後に活用だ。
ささっと、だし巻き卵を作る。
味玉はしょっぱい系なので、こちらは甘口にしておく。
「よし、完成! フライパン君、お勤めごくろう!」
フライパンを持ち込んで、ダンジョンへ戻る。
「今度は簡単なイメージで……!」
額を守る最小限の鉄板。
横や後ろにはなにもなくていい。
頭の形に添ってずれにくく、軽い。
「さて、シンプルに頼むぜ……【忍具作成】!」
スキルは……発動した!
光が収まると、完成した鉢金が――
――なんだこれ?
コウモリの皮を使用したハチマキ……この部分はできている。
ああ、素材は布とかニットキャップでもよかったな。
そのハチマキの上に、フライパンから柄を取り除いたものが張り付いている。
一応、接着されているので取れたりはしないが……。
「フライパンかぶって戦えるかっ!」
一応かぶってみたが、重いしフィット感は悪い。
スキルとしては無理やり願いをかなえてくれたんだろうけど……。
拠点には鏡がないので分身の術を出して姿を確認する。
……うん。ダサい。
これは、不採用だな!
俺は深夜に何をやってるんだ……。
「……さて、なかったことにして。手袋を作るか」
革製の手袋を作成する。
壁走りの術で手を添えて走るので、擦り傷が絶えないのだ。
武器を振る手はマメだらけだ。
地味だが手袋は効果があるはずだ。
マフラーが作れるなら、手袋もできるはずだ。
オープンフィンガーの手袋をイメージ。
指先が出ていて器用さを損なわない。
【忍具作成】は問題なく発動し、手袋が完成する。
はめてみると、サイズもぴったりだ。
よし、変なものを作ろうとしなければちゃんとできる!
「あとは武器だな。これはちょっと、作る前から無理な気はしている」
フライパンの失敗もあるしな。
試したところ、やはりクナイも忍者刀もできなかった。
具体的なイメージはできている。
クナイも忍者刀も忍者道具であることは間違いない。
だが、ダメだ。
発動しない。
これもやはり、スキルレベル不足だろう。
無理に劣化版を作ってもしかたがない。
作れないことが分かるのも成果のうちだ。
忍者刀は……簡単なもんじゃない。
日本の刀鍛冶の技術力を再現するのはきっと、難しい。
刀への乗り換えは、遠い。
あと作れそうなのは……。
しばらくはバットを使うことになりそうだから、ケースを作ろう。
持ち運ぶためのケースだ。
特別な機能はない。ただの袋だ。
忍者道具を入れたりする袋なのだ。
入れるのがバットだからと、へそを曲げてくれるなよ【忍具作成】さん!
お、成功!
魔石の消費は三個。コウモリの皮が二枚。
素材があるから魔石のコストが安い感じか。
コウモリバットケースの完成だ!
出来上がり具合は想像通り。なかなかグッドだ!
たすき掛けのように斜めにかける。
背中側にバットを入れた状態で持ち運ぶ。
スリットがあるので、背中に担いだ状態からすぐにバットを抜くことができる。
これがないと、ダンジョンの中で常にバットを手に持っていないといけない。
片手がふさがっていると結構不便なのだ。
これで愛用のバットを肌身離さず持ち歩けるってわけだ。
この頃はナタを使うようにしているけど、バットがないと不安なんだよな。
ずっと使ってきた武器だ。
【打撃武器】や【フルスイング】の使い心地もいい。
愛着もある。
有名な悪役のバットキャラみたいに名前も付けたいくらいだ。
ルシー……。いや、ルーシーとかね。
スキルでは修理できないので、普通のテープを巻いて補強する。
グリップテープというやつで、握り心地がよくなる。
根本的に修理することはできないな。
新しいバットを買うというのも……いや、刀が作れるまではコイツを使おう。
作った装備を試すために二階へ行く。
投げモノは激辛目つぶしを試す。
持ち込んだアイテムはずっと消えない可能性もある。
クラフトしたアイテムの扱いは、どっちなんだろう。
ダンジョンに放置すると消えるのか。消えずに残るのか。
混ぜるな危険玉を使って、塩素ガスがずっと充満したりすると困る。
広がって薄まるとは思うけど、洞窟だからな。
自分で毒をまいて困ったことになりたくはない。
調味料なら、被害は小さいだろう。
主な道から外れた部屋で試す。
天井で休んでいるコウモリを、いつもの手順で数を減らす。
残った数匹の頭上、洞窟の天井に目つぶし玉を投げ当てる。
割れた玉の中から、刺激性の粉末がまき散らされる。
それを浴びたコウモリは、悲鳴を上げて飛び回る。
「キィィッ!」
エコーロケーションで周囲を探知していても、目や口はある。
当然、効果はあるんだが……。
「げほっ……! うえっ!」
少し吸い込んでむせてしまう。
離れた位置に避難していた俺のもとへも、刺激物が届いてしまったのだ。
無茶苦茶に飛び回ったコウモリが空気をかき混ぜたせいだ。
部屋を出て通路へ逃れて息を整える。
ふう……。
涙が出た。鼻水も出た。
部屋の中で上に向かって投げるのはナシだな!
よほどの強敵だとか、距離が離れているときだけ使おう。
でも効果は充分だ。
身をもって味わったんだから間違いない!
これをぶつけてやれば、たいていの奴は無力化・弱体化できるだろう。
装備品のテストをしながら【分身の術】の熟練度上げも並行している。
連続で使う場合に比べて、間を置きながら使っていると急激な体調悪化はない。
ある程度使うと緩やかに頭痛や吐き気がしてくるが、マシな程度だ。
「分身の術……はくしょーい!」
刺激物に目を充血させて、鼻水を垂らした分身が生み出される。
俺は深夜に何をやって――
<熟練度が一定値に達しました。スキルレベルが上がりました!>
<【分身の術】 1→2>
「来たっ! ついに【分身の術】が上がった!」
これで色々とはかどりそうだ!
グッドなバットバットケース!(言いたいだけ)




