表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
四章 副業は公儀隠密で!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

397/1471

それドロップやない、魔石や!

「――トウコ、なに食ってるんだ!?」


 トウコは大鬼の魔石を口に放り込むと、もぐもぐと口を動かす。

 止める間もない。


「うまっ! なんスかコレ!? 口の中でとろけるみたいっス!」

「トウコちゃん……!? いま食べたの、魔石だよね? だ、大丈夫なの!?」


 リンはトウコの肩をつかんで揺さぶる。

 トウコはよくわかってない顔だ。


「うえぇ? なんかおいしそうな匂いがして……」

「ちょっと口開けろ!」


 俺はトウコのアゴを掴んで口を開けさせる。

 ……口の中に魔石はない。かけら一つも残っていない。

 もう飲み込んでしまったのか!?


「ちょ、店長!? 急にどうしたんスか? アゴクイっ!?」


 トウコはけろりとしている。

 腹を壊したり、体調が悪くなったりはしていないようだ。


「急にどうしたはお前だ! ……なんともないのか?」

「え? ……ちょっとドキドキするっス! 性的な意味で!」


 トウコは目をそらして顔を赤らめた。

 アゴクイじゃねーわ! 性的でもねーわ!


 うーん。いつも通りのトウコだ。

 いつも通り、おかしいだけだ!



 先を歩いていた御庭が振り向いてこちらへやってくる。

 怪訝(けげん)な顔だ。


「クロウ君、どうしたんだい? トウコ君がどうかしたのかな?」

「いや……」


 魔石を食った――なんて、言っていいのか?


 正常な行動ではない。

 当たり前だが、俺は魔石を見ておいしそうだとは感じない。

 アメ玉のようだが、食べられそうもない。


 トウコにはこれがおいしそうに見えた……!?



 リンはあたふたと慌てながら言う。


「たいへんなんです! トウコちゃんが魔石を食べちゃって……! だ、大丈夫でしょうか!?」

「……え? 魔石を食べたって? な、なんでそんなことを?」


 言っちゃったー!?


 御庭からはいつもの余裕が消えている。さすがに驚いたようだ。

 俺も驚いた!

 せっかくハプニングなしで終わると思ったのに、なにしてんだ!?


「なあ御庭。魔石って食えるものか?」


 御庭は顎に手を当てて思案顔になる。


「無理だろう。……いや、僕が知る限り食べた人がいないってだけだけど……。トウコ君、どうなんだい?」

「どうって……おいしかったっス!」


 トウコは口の端をゆるめる。よだれをすする。


「味の感想じゃないわ! なんか、変わったことあるか?」


「えーと……あれっ! その……レベルが上がったっス!」

「え? 今か?」


 トウコの様子は……なにかを隠しているな。

 とはいえ、今は御庭がいる。

 隠したままでいい。


 レベルのことだけ触れておこう。


 上がったのは、ボスを倒したからってことか?

 俺は上がらなかったな。


「ちょっと前! 店長がアゴクイしてクチビルを奪おうとしたときっス!」

「してねえよ!?」


 てことは、魔石を食べたときということだ。

 それによりレベルが上がった?

 【捕食】の効果か!?


「……!」


 リンが思いついたように、なにかを探し始める。

 ……なにしてんの?


 魔石か?

 魔石を食べようとしているのか!?


 そんなことしても、唇を奪ったりしないし……。

 そんなことしなくても……!



「トウコ君、魔石を食べて経験値を得たのかな? 他に身体に変化は?」

「変化……? えーと……な、なんもないっス!」


 トウコの目が泳ぐ。

 うっわ、なんかあるわ! あからさまになんかあるわ!


 ごまかせ! ボロが出る前に!

 なにか言わなければ……!


「へ、へえー。魔石をかじると経験値がもらえるのか!」


 そう言うと俺はとっさに、魔石を口に入れて、かじる。

 ガリッとした歯ごたえ。口の中で魔石が砕け散る。

 その瞬間、口の中に苦みとエグみが広がった!


「うっ……げほっ!?」

「ぜ、ゼンジさん!? 口の中からなにか……これは(ちり)ですか!?」


 味と言うか……感覚……?

 苦しい! なんだこれは……!?

 むせてしまって呼吸が……!


 リンが俺の顔を両手ではさみ込む。

 そして顔を近づけ――俺の口をこじ開けて――ふっーっと息を吹き込んだ。

 塵が吹き散らされて、口の中から消えた。


「な、なんだ!? あ……楽になった!」

「よ、よかったです!」


 リンはまだ俺の頬に手を当てて、じっと俺を見つめている。


「あー。ありがとうリン。助かったよ!」


 俺は両手を取って、感謝の言葉を口にする。

 変な雰囲気になってる場合じゃない!



「クロウ君!? なにをしてるんだ、君は……。いや、君たちは……」


 御庭はあきれ顔で俺を見ている。

 なにしてるんでしょうね……!?

 俺にも分からない! 忍べていない!


 リンがあわてて釈明(しゃくめい)する。


「口からなにか、あふれて苦しそうだったので……とっさに!」

「いや、リン君の行動はとがめていないよ。驚きはしたけど……」


 御庭が調子を乱しているのを見るのはちょっと面白い。

 いや、面白がっている場合じゃないか。


 ナギさんの冷たい目線が痛いぞ。

 これは引いてる……! アホだと思われてる……。


 トウコは半笑いだ。


「ははっ店長! なにやってんスかー? 口からチリ吹いてたっス!」

「お前……」


 面白がってる場合か!

 なにって、お前の異常さをごまかそうとしたんだよ!

 我ながら無茶したわ!


 当たり前だが、魔石は食えない。

 塵を吸い込むのは、体によくなさそうだ。


 御庭はじっとこちらを見ていたが、首を振って出口へ向かった。

 追及しないでくれるようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ