偵察結果と作戦会議!
元居た場所へ戻るのは簡単だった。
目印を頼りに進むだけ。
「戻ったぞ!」
俺は皆に声をかける。
判断分身はもう時間切れで消えてしまっている。
自律分身はまだ居て、御庭と話している。
「おかえりなさい。大丈夫でしたか?」
「おかえりっス! お土産は?」
リンは心配そうな表情を浮かべ、トウコは手を差し出している。
「ケガはない。土産もない!」
「クロウ君。なにか見つけたかな?」
「ああ、ボスらしきデカい鬼がいた。そっちはどうだった?」
「うん。転送門から外に出るのは問題なかったよ。ちゃんと帰れる」
「それなら安心だな。さて、見てきたものを話すぞ――」
大鬼と会話を試みた部分は省いて、ざっと偵察結果を伝える。
「その大きな鬼がボスと見ていいだろう。――クロウ君たちで倒せそうかい?」
「ま、倒せるだろう。ナギさんが手伝ってくれればもっと簡単だけど」
ナギさんは御庭のほうをちらりと見る。
御庭が言う。
「クロウ君たちで無理なく倒せるなら、戦いぶりを見たい。手伝うのはかまわないけどね」
「じゃ、俺たちだけでやるよ」
御庭は笑顔で頷く。
「さすがクロウ君! じゃあ、見物させてもらうよ!」
今回の悪性ダンジョン攻略は面談代わりのチュートリアルみたいなもの。
俺たちの実力を見せるのにちょうどいいのだ。
「さて、これから大鬼と戦う。作戦はあるが、まずは状況を聞かせてくれ」
「はい」
「リョーカイっス」
「まずはトウコ。弾丸は集まったか?」
「拳銃弾が二十発くらいで、ショットシェルが十発くらいっス!」
最初の戦闘でドロップさせた拳銃弾を拾ったのと、その後の戦闘で増えたんだろう。
「シェルは散弾か?」
「全部、バックショットっス!」
鬼をまとめて倒すなら、散弾を使う。
スラッグ弾のほうがよかったんだが、しょうがない。
「マグナムは出せるか?」
「いけるっス!」
「じゃ、出してくれ。少し遠めを狙って撃つことになる」
トウコがマグナムを出す。
「ふう……オッケーっス!」
やや疲労感が見える。やはりコストが重いようだな。
「次はリン。魔力はどうだ?」
「節約していたので、充分にありまーす!」
リンは元気よく答える。
ちゃんと予定通りに動いてくれているな。
冷蔵庫の時のような怯えはない。
慣れたのか? あるいは……。
ひとまずは安心と言ったところだ。
「じゃあ、このあとは節約しなくていい。デカい鬼が来たら本気でぶっ放してくれ!」
「わかりましたー!」
魔力が十分あるなら、もう勝ったようなもんだ。
……まあ、油断はすまい。
「俺はどうする?」と自律分身。
「二人の背後を守れ。万が一、近寄られた場合は頼む」と俺。
自律分身はあくまでフォローである。
「よし! じゃあ作戦を伝える。シンプルだ。遠くから撃つ! それだけ!」
「うえぇ? なんか雑っス! そういうの作戦って言うんスか?」
トウコはうさんくさそうな顔で俺を見ている。
まあ雑な作戦だけどな。それで充分なんだ。
「もっと言えば――近寄らせずに遠くから撃つ作戦だ。俺が敵を引きつけて、二人が遠くから撃ちまくる。簡単だろ?」
「それって……ゼンジさんが危ないんじゃないでしょうか?」
リンは心配そうに眉を寄せる。
でも心配無用!
「もちろん分身を使う。俺も距離を取って戦うぞ」
「それなら安心ですね!」
「ふーん。そんな簡単なんスか? まあ、楽なのは大歓迎っス!」
「楽に勝てる相手だと思うぞ。真面目に戦ったらちょっと面倒だけどな」
俺はさらに詳細を二人に説明した。
話を聞いた二人から異論は出なかった。
「あ、御庭。忍具作るけど見る?」
「見たい! さ、やってくれ!」
俺は偵察のついでに道中の敵を暗殺してきた。
それに、御庭と自律分身が回収していたから、魔石はそれなりにある。
素材は持ち込んでいないので、手持ちの品を使おう。
「まず、素材を用意する。とりあえず金属ってことで、ウォレットチェーンとカラビナを使う。それから魔石。これを使ってクラフトするんだ――忍具作成!」
「おお! 光が集まっていくね!」
「さて、クナイができたぞ!」
普段使ってるものよりはちょっと雑なつくりだ。
だけど、投げる分にはこんなもんで充分。
「おお……! ちょっと触ってみてもいいかな?」
「いいぞ。ほら」
俺がクナイを手渡すと、御庭は指でつついたり、振ってみたりする。
左右の手で持ち変えたり、指先で回したりしている。
刃物の扱いは巧みだ。
鬼と戦うときは素手だったけど、刃物使いなのかな?
「御庭って、武器は刃物を使うのか?」
「僕は刃物に限らず、なんでも使うよ。たとえば銃なんかもね!」
御庭はスーツの上着の下に吊るしているショルダーホルスターを見せる。
そこには自動式拳銃が収められている。
トウコがそれを指さして言う。
「銃! 実銃っスね!? ちょっと撃ってもいいっスか?」
「この銃はここでは使えない。引き金を引いても撃発しないんだ」
「え? なんでっスか?」
「あ、それは俺も聞きたい」
ダンジョンの中では銃が使えないとは聞いていた。
その理由が気になっている。
「いわゆる文明の利器、機械の類は使えなくなる。爆発物や銃弾も機能しないのさ」
「携帯電話や電池類もダメだよな? なんでなんだ?」
御庭は肩をすくめる。
「さあ? それは僕らにもわからない。異能が弱まるのと同じように、そういう場所なんじゃないかな」
「そうか……まあ、ダンジョン自体が謎のカタマリみたいなもんだしな」
異能だってスキルだって謎の力だ。だけど使える。
俺だって自分のスキルが動く仕組みは説明できない。
トウコが御庭の銃を指さす。
「じゃ、弾だけもらえないっスか?」
「弾だけ? あ、トウコ君の銃で撃つってことかな? ふむ。それは興味深いね」
御庭が拳銃のマガジンから弾丸を一発取り出す。
トウコがリボルバー拳銃に装填して引き金を引く。
――不発。
「あー、やっぱダメっスね!」
「トウコ君の弾丸を僕の銃で撃つのも試したいけど……口径が合わないね!」
御庭はトウコの拳銃――シングルアクションアーミー風の銃を見て言う。
トウコは首をかしげる。
「ピストルの弾なんて、同じようなもんじゃないっスか?」
「いや……そうもいかないよ。僕のは九ミリで――」
俺は手を上げて御庭の言葉を遮る。
トウコはピストルの弾丸を雑に考えているようだ。
その雑な意識がうまく作用して、口径の合わない弾丸を装填できている。
このへんは明確にしないほうがいい。
「――まあ、試すのは今度にしよう。さて、そろそろ始めるぞ。鬼狩りだ!」




