忍者らしい投げモノを作ろう! 作れる限界は……おや?
タマゴのカラが入ったボウルとバットを持って、ダンジョンに入る。
ボウルは当然、調理器具のほうだ。
ダンジョンにこんなもの持ち込んだ奴は史上初かもしれん。
いや、ダンジョンで料理する人は結構いるのかな?
創作の世界じゃ、モンスターを解体して調理とか、結構するもんな。
ここではモンスターの死体は塵になって消えてしまうから、食べ物は手に入らない。
モノリスで引き換えられる食料って、なんなんだろうね。
味に興味はあるけど、まずは薬草からだな。
脱線したわ。
タマゴのカラを使ってクラフトするんだった。
……と、そこで気づいた。
調味料と組み合わせて投げモノを作ろうと考えていたけど……。
「別にタマゴのカラじゃなくてもいいんじゃないのか、コレ!?」
タマゴのカラを壊さずに穴を開け、刺激物を入れて目つぶしを作る……というのをやろうとしていた。
古典的、現実的な手法なんだが……。
スキルを使えばそういう手間は要らなかったな。
投げたら割れる素材をイメージして、紙とかガラスをベースにすればよかったかもしれない。
ゆで卵を剥いた時点でカラは形を保っていない。
俺の頭もスキルを前提にしていたんだな。
「ま、いいか。これはこれでやってみよう!」
拠点には机はない。
手に持って作業するのは難しいので、床に置く。
……いずれ机も準備したい。
【忍具作成】は手に持っていなくても使用できる。
ベースとなる卵のカラと調味料を床に置く。
からし、わさび、とうがらし、ハバネロ、コショウだ。
魔石もその横に並べる。とりあえず五個。
クラフトで使用されなかった素材はちゃんと返却される。
分量は適当でいい。
まず作るのは目つぶしだ。
素材は刺激の強い調味料たち。
コショウ玉やハバネロ玉のように個別に作ろうと思っていたが、この際まとめてしまう。
ベースにする品物の数に制限はない。
出来上がる品が簡単なものであれば作れる。
目つぶしは構造的には簡単なものなので、中身が何であっても変わりはない。
ベースの数に制限があるなら、事前に手動で混ぜてしまえばいい。
作りたい品をイメージする。
持ち歩くときには割れず、投げてぶつけた衝撃で、割れて中身が飛び散る強度。
普通の卵のカラより硬い。
タマゴのような楕円形ではなく、ボールのような丸い形。
サイズも少し小さい。ピンポン玉くらい。
重さは投げやすいように少し重めに。
辛み成分などを煮詰めて濃縮したようなイメージ。
バラエティ番組の罰ゲームに使われるようなものだ。
水分は飛ばして、粉状に。
目や鼻、口に入りやすいように軽い粉が散るように。
「さて、イメージは固まった。目つぶしを作成!」
【忍具作成】が発動する。
洞窟の床に、ピンポン玉サイズのモノができあがる。
拾い上げて振ってみると、さらさらと音がする。
「できてるっぽいな。この部屋で試すと大惨事になりそうだから、あとで確認して問題なければ量産しよう」
かかったコストはどうだ?
数えてみる。
卵のカラ一個分。魔石一個が減っていた。
調味料の減りは……わからん。
大量に減ったりはしていない。コストとしては問題ない範囲だ。
買い足せばいいだけなので、これは気にしないでおく。
「続いて、混ぜるな危険と書いてある洗剤類だ……」
よい子もそれ以外もマネしてはいけない。
作るカラは先ほどとほぼ同じ。
違いは二種類が混ざらないように、仕切りがあることだ。
殻が割れると二種類の液体……酸性と塩素系が混ざるイメージ。
有毒な塩素ガスが発生して、刺激臭や目の痛み、呼吸困難を引き起こす。
決して人間に使ってはいけない。
もちろん、掃除などで使う際も気を付けなくてはいけない。
あ、カラの表面に区別がつくように「混危」と書いておこう。
書くというか、刻まれているようなイメージを付与しておく。
「さて、混ぜるな危険玉……行けるか?」
【忍具作成】が発動する。……きちんと発動した。
毒使い系の忍者にはならないと思っていたが、結局作ってしまうな。
しかし、作れるのか。
失敗する可能性があると思っていたんだが……。
いいのか、化学物質。
スマホや時計はダンジョン内では機能しない。
俺は機械や現代文明の利器みたいなものは禁止なのだと思っていた。
今作ったのは、二つの薬品が混ざることで起こる化学反応を利用したものだ。
「基準がわからなくなってくるな……。毒を使うのが忍者っぽいから許されるのか?」
【忍具作成】が許してもダンジョンが許さん! みたいになるのかと思ったが。
そういえば、前に持ち込んだライターも使えていたな。
ライターのガスも許されているし、燃料や化学物質みたいなものは許されているのかもしれない。
いまさらだけどプラスチックやペットボトルも持ち込めているな。
服の素材だって石油由来だったりするし。
うーむ。境界はどこにあるんだ?
「じゃあ、さらなるグレーゾーンを攻めてみるか。火薬による煙玉だ」
現代文明の品がダメだとするなら、火薬はかなりダメだと思う。
……成功。煙の文字が刻まれた玉が完成した。
同じく火薬をもとにして、音を立てるカンシャク玉、光を放つ閃光玉が完成した。
材料の花火はこれでなくなった。
「……できちゃったな。おいおい、いいのか?」
火薬がいいなら銃も使えちゃうのか?
これまでの感じ、ダメだと思ってたんだが。
銃を作るスキルはないから、試すことはできない。
外で資格を取って購入するというのも、なしだな。
忍者は銃など使わない。
忍者ガンマンになる気はないのだ。
残りの品も作ってしまおう。
香水を入れた匂い玉。
適量つけるからいい匂いなのであって、分量を間違えた香水はヤバいからな。
たまに電車とかで隣の席に香水つけ過ぎた人がいると……つらい。
これは小さな香水の瓶の半分ほどを消費した。
アルミホイル片を入れたチャフ玉。
タマゴのカラではサイズが小さいので、紙の雑誌を材料にした。
サイズも野球ボール大にしてある。
電波をかく乱する目的なのだが……電波を使う敵はきっと出ないと思うな。
魔法とかも妨害できるんだろうか。
アルミホイルの代わりにチラシを入れたクス玉。
これもサイズはチャフ玉と同じだ。
割ると色とりどりの紙片が舞っておめでたい。
「チャフ玉とクス玉は、超音波対策にはなるかもしれないな」
気休め程度かもしれないが、三階層で試してみるか。
投げモノはこれでよし!
【追記】
銃魔法も当然あり。忍者は無限の可能性を秘めている!
主人公の目指す方向ではないということです。




