炎の料理人! 料理は愛情で作ります!?
草原ダンジョンの拠点に戻った。
料理はすっかり準備されている。
柔らかい草原の日差しを受けて、ほかほかと湯気を上げている。
「いただきます!」
俺たちは声をそろえて言うと、料理をいただく。
メニューはダンジョン産の素材をふんだんに使ったものだ。
野菜のツナサラダ。色とりどりで目でも味わえる。
ウサギ肉のから揚げの甘酢炒め。
まずは野菜を口に運ぶ。
ドレッシングはニンジンをすり下ろしたものだ。
「おお、うまい!」
トウコはから揚げから行ったー!
口いっぱいに頬張る。
「うまっ! いくらでも食べられるっス!」
「おかわりもあるので、ゆっくりたべてねー」
リンはにこにこと見守っている。
「これ……職業のおかげか? すげえ美味いな!」
「職業は取りましたー。だけどスキルは取っていないので……どうなんでしょう?」
リンは首をかしげている。
料理人を取っただけでは味に影響しないか?
「料理の腕だけでこれか……さすがリン!」
スキルなしでこの味!?
このうえスキルが乗ったらどうなっちゃうんだよ!
「ふふ。ありがとうございますー!」
リンは頬を染めて喜んでいる。
「まだ料理関係のスキルは振らないのか?」
「ポイントが足りなくて、まだ振れないんですー」
「あ、簡易モードだから必要なポイントが高いのか……」
「そうなんですー」
簡易モードでは、詳細モードの基礎スキルに相当するスキルしか取得できない。
基礎スキルを取ると、その関連スキルが全部使用可能になる。
特化できない代わりにいろいろできるのだ。
そして必要なスキルポイントが十ポイントになる。
「あとどれくらい必要なんだ?」
「あと三ポイントですね。次のレベルで振れると思います」
簡易モードは便利だけど、小刻みに触れないのは歯がゆいね。
「じゃ、頑張ろうな」
「はーい。がんばりまーす!」
リンは両手を胸の前で握って、頑張るポーズをする。
「ところでトウコちゃん。どうかな?」
「おかわり欲しいっス!」
すかさずトウコは空になったから揚げの皿を突き出す。
「――はい。どうぞー」
「サンキューっス!」
「いまリンが聞いたのは【捕食】の件だと思うけど、どうなんだ?」
「あ、そっちっスか。とくに変化はないっスねー」
捕食したとき、力を得る。
なんともあいまいな効果だ。
今回の食事での体感はないらしい。
「そうなんだー」
リンはちょっとがっかりした表情だ。
ダンジョン産の野菜や角ウサギの肉を食べただけでは効果がない?
「今は消耗してないからか?」
「そうっスねえ。あ、眠気は覚めたっス!」
たぶんそれは関係ないと思う。
「ま、ケガしたり疲れたときに試してみるか」
「やっぱ、生でモンスターかじらないとダメっスかね?」
「それも試してみるか……? 候補は角ウサギかな?」
スライムは生食禁止だ!
「うえぇー!? それはまた今度で……」
「生のお肉を使った料理もいいかもしれません。考えてみますねー」
ウサギ肉の刺身とか?
火を通したらダメ、なんてことあるんだろうか。
「あ、そうだ。リン。料理人の職業で上がったステータスを教えてくれ」
「はい! 上がったのは――体力でしたー!」
リンは両手を広げて発表する。
「お。ということはリンは体力、知力、魔力、生命力に補正があるんだな」
「ぜんぶBですねー」
筋力と敏捷以外は強化されている。
肉体的な戦闘には不向きだけど、全体に高水準だ。
「バランスいいっスね! ちな、ゾンビは生命力が上がったっス!」
アンデッドなのに生命力上がるんだな……不思議だ。
でもタフになる、死ににくくなるという意味では納得できる。
「知力下がったりしてないか? 大丈夫か?」
「疑いの目はやめてほしいんスけど!? ステータス上は問題ないっス!」
ステータス外では問題あるのかよ!
いや、影響はありそうだ。
トウコの口元がゆるくなってヨダレをたらしているのは、ゾンビになってから。
元からそうだったわけじゃない。
「トウコちゃんは敏捷と生命力がBね?」
「そうっス! なんか、あたしだけ少なくないっスか!?」
たぶんシューターは銃を扱えることに力を割いている職業なんだろう。
ゾンビは……。
「ゾンビで体力や筋力が上がってもいいのにな?」
「あー。でもそしたら、敵も強くなっちゃうっスね」
敵のゾンビと同じ職業だとしたら、そうなる。
「さて、そろそろ御庭に会いに行くか!」
「緊張しますー」
リンは自信のなさそうな表情だ。
最近は改善してきたとはいえ、コミュ障だもんね。
トウコはそわそわした様子で言う。
「あー。もう時間っスか? まだ【銃創造】を試したいんスけど……」
「あれ? マグナム以外にも出せるのか? てか、そろそろ出ないと間に合わないんだが……」
ご飯に夢中過ぎただろ。早く言え!
トウコはあせったようにスキルを発動させる。
「ちょっとだけ! ちょっとだけ見てほしいっス! こんな感じで――!」
「おお、水平二連ショットガンか!」
現れたのは短銃身の水平二連ショットガンだ。
銃口が横に二つ並んでいる。
「引き金も二つあって、どっちを撃つか選べるっス!」
「わあ。かっこいいねー!」
リンはトウコへ拍手を贈る。
「単純に二発撃てるから火力が二倍だよな」
「そうっス! 両手に持つよりリロードもしやすいっス! ……撃ってみてもいいっスか?」
トウコはねだるような表情を浮かべる。
「うーん。タクシーで行けば間に合うな。じゃ、ちょっと試し撃ちしてから行くか!」
「やたーっ!」
俺たちは拠点を離れて歩き出した。




