分身ゾンビトレイン作戦!
一ウェーブでトウコは死体の山を築いた。
だがショットガンの弾丸はなかなか手に入らなかった。
【弾薬調達】で手に入るのは、敵を倒したとき。
使った弾丸の種類に応じてドロップアイテムを弾丸に変える効果だ。
つまり、ショットガンで撃たないとショットシェルはドロップさせられない。
しかし、ゾンビ一体につき一発しか手に入らない。
一発撃って、一発手に入る。
これでは増えない。
あたりまえだけど、一発で二発以上手に入れなきゃだめなんだ。
それなら、ゾンビをまとめて吹っ飛ばせばいい!
この方法は俺のダンジョンで実証済だ。
コウモリの場合は十匹前後の群れが現れる。
耐久力も低い。
まとめて吹き飛ばすことで簡単にシェルが手に入っていた。
落ちる弾丸はコウモリでも同じなので、効率がいいのだ。
だが、ここではコウモリのような相性のいい敵はいない。
ちょっと工夫が必要だ。
ゾンビが密集してくれればいいんだが……。
ゾンビはふらふらと動いていて連携なんてしてこない。
都合よくまとまってくれない。
と言っても、三ウェーブ以降ならもっとたくさん出てくる。
じっくりやってもいいんだけど、リンが気の毒なくらいにおびえてしまっている。
早く終わりにしたいところだ。
というわけで、分身を使う!
分身ゾンビトレイン作戦だ!
「よーし、集まったぞ! 吹っ飛ばせ!」
分身が集めたゾンビをトウコがショットガンで吹き飛ばす。
まとめて三体。
「アザ―っス! こりゃ爽快っス!」
これで弾が増えた!
続けてどんどん行こう!
「んじゃ、次をまとめてくるぞー!」
「リョーカイっス! しかしこれ、いいっスねー!」
ここまで俺たちは一階のエントランスホールで戦っていた。
俺は分身を伴って、二階の各部屋を周る。
ゾンビを釣りだしてはエントランスホールへ運んでいく。
分身とゾンビの楽しい追いかけっこだ!
判断分身は自動的にゾンビから一定の距離を取る。
回避と移動の指示をしてあるのだ。
ゾンビを引き連れ、ホールを周る。
ゾンビは足が遅いので分身に追いつけない。
走るヤツもいるが、分身のほうが速い。
「ウゥゥ」
「アァ……」
呻きを上げるゾンビたちと無言の分身の追いかけっこは続く。
「判断分身の術!」
分身をさらに追加で出して、どんどんゾンビをホールへ集める。
俺は二階の階段上から同時に複数体を操作している。
条件による自動行動と、手動での操作の合わせ技だ。
全部を手動操作していては大変だ。
自動だけでは対応できずにやられてしまう。
こうして、何組もの分身とゾンビのペアが出来上がっていく。
今度は分身一体に複数のゾンビを連れ歩かせる。
そうして余った分身を再び送り出す。
ゾンビを集めすぎて制御できなくなるほどの数は引き連れないようにする。
ある程度まとまったらトウコが処分し、弾を拾う。
複数のゾンビが吹き飛ばされ、シェルがボロボロと転がる。
効率的に弾丸が集まっていく!
「シェルがざくざくっス! もうすぐ二ウェーブも終わりそうっスね!」
「よし! うまくいったな! じゃあ、ボス戦の準備だ!」
「でも……リン姉、大丈夫っスか?」
トウコは気遣うような目をリンに向ける。
リンは青い顔で頷く。
「だ、大丈夫。大丈夫よ!」
目がうつろだぞ……。
ぜんぜん大丈夫そうじゃないけど……。
「……やれそうか?」
結局、ボスを倒さないと出られない。
今は二ウェーブが終わったところだ。
ウェーブが進めば敵はどんどん強くなる。
長居しても状況は良くならない。
リンは自らを鼓舞するように言う。
「はい……やれます。やります!」
「よし! やっちまおう! さっさとボスを倒して帰ろうぜ!」
「さくっとやるっスよー! じゃあ、ドアを吹っ飛ばすっス!」
「おう!」
「はいっ!」
リンが魔法の集中をはじめ、手をつきだして構える。
トウコはショットガンで食堂のドアを破壊する。
デカい音をたてるが、コソコソする必要はない。
俺は中をのぞき込む。
食堂にボス――料理人ゾンビはいない。
予定通り。いつも通りの配置だ。
奴は厨房にいるはずだ。
今回は手加減抜き、万全の作戦で挑む。
正々堂々戦う必要はない。
扉の外から厨房へ魔法をぶち込むという作戦だ!
「リン! 頼む!」
「はいっ! ふぁ、ファイアボール!」
リンが詠唱するが、なにも起こらない。
――不発!
リンは呆然と、自らの手を眺めている。
「そんな……!」
作戦通りにはいかないみたいだ!




