さすがだ! 惚れたわ! そちらこそ!
没タイトルシリーズ
■ボス戦を終えての帰り道――振り返り!
ボスを倒して今日の目的は果たした。
目的その一。
リンにボス戦を経験させて、自信をつけさせること。
――達成!
必殺技をいくつも編み出し、トウコを守った。
想定以上に活躍してくれた!
自信もついたし、戦う気持ちも盛り上がってきた!
目的その二。
トウコをボスと戦わせて、危険を認識させること。
――まあまあ達成!
ゴブリンの群れとの戦いや超音波攻撃を食らって大変な目にあった。
巨大な敵は強い。ワニ戦に向けて危機感を持ってくれただろう。
ケガしたのはなぜか俺だけど……本人も反省したしヨシ!
ボス戦が目的なので、次の六階層へは行かずに引き上げる。
先へ進むのはまたの機会に。
あとは帰るだけだ!
俺は【瞑想】や体力のステータスのおかげでまだ動ける。
しかし二人には疲労が色濃く見えている。
疲れている二人に代わって戦いまくるぜ!
帰路も反省会は続く。
「コウモリさんは思ったよりコワかったです。ぜんぜん動けませんでした……」
「ていうか、速すぎるっス! デカすぎるっス! なんスかあれ! ひとりであんなのと戦ってたんスか店長!?」
デカい! 速い! コワい!
三拍子そろった強モンスターである!
「ひとりっていうか、たくさんの分身を使ってだけどな。実際、死にかけたし……」
最初の討伐時は、ポーションがなければ死んでいただろう。
腕が折れてたから【分身の術】がなければ使うこともできなかったし。
うん……ギリギリだった。
「ちょっ店長!? マジっスか!」
「マジだよ! さんざん危険だって言っただろう!」
言ったよな?
俺の小言は無視されがちなのか!?
再戦した時はもうちょい余裕あったけどね。
対策バリバリで行ったからな。
今回も俺が攻撃に参加していれば余裕をもって勝てただろう。
鎖分銅やワイヤーが有効だ。
「いつもの小言かと……。すいませんっス」
「いやいや! 小言親父扱いかよ!?」
オオカミ少年みたいになっちゃってるよ俺!
ちゃんとした忠告が通じない状態ヤメテ!?
リンは聞いてたよな。
うんうん頷いてたし!
「私はゼンジさんがいたから、安心して戦えましたー」
危険を把握したうえで安心してたの!?
全幅の信頼だよ! うれしいけどヤメテ!?
そんなに完璧にできないよ!?
「信頼してくれるのはうれしいけど……俺、超人じゃないし……限界あるんで……」
「――今回だって危ないとき助けてくれました! やっぱりヒーローですね!」
スルーされただとッ!?
いや限界がね? 毎回助けれるとは限らないし……。
俺、けっこうやられてるんだけどな。
今回もコウモリにはね飛ばされて動けなかったし。
格好悪い部分もあるんだけどスルーされる。
謎に信頼ばかりが高まってしまう!
リンはさらに信頼感が増した目で俺を見つめている!
「まあ、うん……。次はもっと楽に勝てるようにしよう」
「コウモリは楽勝じゃなかったっスね……ガチっス!」
コウモリさんはガチ! 強敵! 間違いない!
見直すがよい!
「だろ? 言っただろ? 次は助言をスルーすんなよ?」
「リョーカイっス!」
「無事に済んでよかったね!」
おいおい! 軽い!
誰も話を重く受け止めてくれないよ!?
実は俺、けっこう無事じゃなかったよ!?
吹っ飛ばされたとき骨とか折れましたけど!
もうポーション手拭いで治っているけどさ。
ポーション手拭いは便利だった。
手の中に出して握ることで、手のひらから吸収される。
瓶を開けたりといった動作がいらない。
ピンチでも使えることが実証されたな!
ポーションの瓶をあけて手拭いに振りかけ、また収納へしまっておく。
補充も簡単だ!
すごくね!? 便利じゃね!?
今回の戦闘で一番ダメージを受けたのは俺だったと思う。
でも、格好いいことになってるし、黙っておくか……。
トウコが不思議そうな顔でリンに訊ねる。
「そういえばリン姉。あのとき、なんで動けたんスか? あたしはぜんぜん動けなかったのに……」
音響攻撃のことだな。
俺も疑問に思っていた。
「見えないけど超音波は音の波ですよね? だから火で防いだんですー」
音は空気を伝わる波だ。
それを火で防ぐ……?
「俺の分身の壁と同じ考え方かな? 音を遮るってことだよな?」
「え? どういうことっスか?」
強力な超音波――特定の周波数の音を浴びることで三半規管が狂う。
おそらくそういう原理だろう。
なら、遮ればいい。
分身には質量がある。
触れる。つまり体で音を遮ることができる。
火は……熱と光を発する現象だ。
火に質量はない。
火の玉が大きくても、質量で遮ることはできないはず……。
でも熱によって空気は膨張したり対流が起きたりする。
音の伝わり方を狂わせるだろう。
なるほど。リンはそういう計算で――
「炎をぶつければ消せるかなって思って! こう……波を押し返すみたいな感じでやってみたんです!」
リンはにこにこ笑いながら言う。
両手でなにかを押すような動きをしている。
計算じゃなかった! フィーリングだった!
あたかも音波が見えているような感じで!?
魔法! イメージ! そういうのだったー!?
でも……リンほどじゃないけど、俺の分身の壁もそうかもしれない。
防ごうというイメージが重要なのかも。
「二人ともすごいっス! あたしはああいうの、どうしようもないっス」
トウコの場合はどうすりゃいいんだ?
【緊急回避】で大きく飛び退くとか?
できるだけ離れれば効果は減るはずだ。
俺は遠い位置にいたから無事だったってのもあるし。
「銃ではどうしようもないな。遠くに離れればいいんじゃないか?」
「じゃ、次はそうするっス! あたしの逃げ足を見せてやるっスよ!」
トウコは走っていく。
どこ行くんだよ!
「いや、いま見せないでも! まあ、次の機会に試してみてくれ」
「逃げて撃つ! 引き撃ちってやつっス! ヒットアンドアウェイ!」
「距離を取って撃つのは強いよな」
「でも今回はまんまと超音波を食らっちゃったっスからねー」
トウコがしょんぼりと肩を落とす。
「そんなことないわよー。トウコちゃんがスキを作ってくれて助かったんだから」
トウコは超音波を防ぐ方法がなかった。
そう判断して、すぐに攻撃に切り替えた。
判断が早い。ひるまない。
その攻撃でコウモリの動きを遅らせた。
「思い切りいいよなあ、トウコは」
「おっ? もっと褒めてくれてもいいっスよ! さあどうぞ!」
調子のんな。
「トウコちゃんはすごいと思う。私はとっさに動けなくて……あせって魔法失敗しちゃった……」
「ああ、超音波を防いだあとのファイアボールが不発だったやつか」
「そうなんです! うまくイメージできなくて!」
「ちょっとふらついてたしな。超音波を打ち消すのが完全じゃなかったのかもしれないな」
ある程度は防いだ。多少の影響は受けたんだろう。
「あたしを助けてくれたとき、手も燃えちゃってたのは大丈夫なんスか?」
「炎の槍のときだな。あれも魔法の失敗なのか?」
ポーションで治ったとはいえ、かなりの火傷を負っていた。
【火耐性】【防火】で自傷を防いでいるはずなんだが……。
防ぎきれないほどの火力だったのか?
「イメージ通りではあったんですけど……制御しきれない感じになっちゃいました」
「気を付けてほしいっス! あせったっスよー」
自分の技でケガするとか……厨二病ポイントが高い!
これで邪とか龍を技名に組み込めば完璧!
いや、ケガはしないでほしい。
「トウコちゃんがやられちゃうって……必死だったの! 火傷ぐらいなんてことないよ!」
主人公力がスゴイ!
身を挺して守る! 覚醒必殺技で敵を倒す!
「リン姉……! 惚れたっス! 抱いて!」
そう言いながらトウコがリンに抱きつく。
「トウコちゃんが無事でよかった!」
リンはトウコを抱きしめ返した。
天使かよ!?




