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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
四章 副業は公儀隠密で!

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VSボス戦! 叫べ! 必殺技合戦!?

 コウモリは叫びながら、大きく羽ばたく。


「キイイイイィィィィ…………」


 耳障りな叫び声。

 音量が大きいわけじゃない。

 後半はかすれて聞こえないくらいだ。


 だが、問題は音量じゃない――


「うあっ!?」

「ううっ」


 人間の可聴域(かちょういき)を超えた――超音波。

 脳を揺さぶり、平衡感覚(へいこうかんかく)を乱す攻撃だ!


 トウコがへたり込み、リンがよろける。


「くっ……」


 大丈夫だ――俺はほとんど影響を受けていない!

 一番遠かったのと分身の壁(人垣)のおかげだ!



 コウモリは超音波の叫びを上げながらも、ばさばさと羽ばたく。

 そうしてリンが放った巨大な火球をかわそうとする。


 火球は遅い――しかし、たやすく避けられないほどに大きい。


 コウモリが大きく羽ばたき、その巨体が空中に浮かび上がる。


 ――火球がコウモリを捉えた!


 かすめた火球がコウモリの片翼を焼き焦がす。


「ギィィィ!」


 コウモリは傾き、地に落ちる。

 片翼の飛膜は焼け焦げ、骨がむき出しになっている。


 それでも、その翼と後ろ脚を使って着地する。

 ――そして勢いよく走りだす。


 まるで四つ足の動物のように不格好に。

 それでも力強く向かってくる!


 巨体を活かした突進攻撃だ。

 狙いは――


「――あ、あたしかっ!」

「避けろ、トウコ!」


 この程度の速さならトウコは避けられる。

 普段なら……!


 トウコは飛び退こうとして――その場に尻もちをつく。


「……あ、あれっ? た、立てないっス!」


 足が震え、体に力が入っていない。

 完全に平衡感覚を失っている!



 リンが動く。

 ふらつきながらトウコのそばへと歩み寄る。


「と、トウコちゃん!」



 コウモリが二人に迫る。

 かろうじて動けるリンがトウコの前に立つ。


 コウモリに手を向ける。

 その手の中に炎が生まれ――


「ふぁ、ファイア……あっ!?」


 炎は揺らめいて、かき消えてしまう。


 超音波の影響か……!?


 リンの表情に焦りが浮かぶ。

 それでもトウコを守るように、両手を広げて立つ。


「り、リン姉! 逃げてっ!」


 トウコは歯を食いしばって立ち上がろうとしている。

 足ががくがくと震える。


「キィィィィ!」


 コウモリが肉薄し、トウコの前に立つリンを襲う――


「ッ――!?」

「うわぁぁぁッ!」


 リンが息をのみ、トウコが叫ぶ。

 リンが手の中に再び火を生み出す――だが、弱々しい。


 コウモリが走る。

 勢いよくリンを押しつぶし、トウコを踏み砕こうと――


 ――それより早く、俺の術が完成する。


「入れ替えの術ッ!」


 この術の対象は一人。

 二人同時には救えない!


 だが迷いはない。

 ――対象は動けずにいるトウコ。


 術が発動し、後方の俺とトウコの位置が入れ替わる。


 まだだっ!


 両方を救う!

 どちらか片方だけ助ける選択なんて、最初からない!


 全身の筋肉を総動員して、俺は動く。


「――うおおああっ!」


 間髪入れずに、目の前のリンに手を伸ばす!

 無理な動きに足腰が悲鳴を上げる。


 俺は大きく踏み切ってリンを抱いて跳ぶ。


 コウモリが俺たちを狙って迫る。

 加速した意識のなか、コウモリの顔がドアップで迫る……!


 ――くそ、避けきれない!

 巨大なコウモリの突進から逃れるにはわずかに足りない!



 ――ドン。


 コウモリの醜悪な顔が衝撃を受けて揺れる。

 コウモリにぶつかったのは()()だ。


 先ほど防御を命じて向かわせた分身が間に合った――!


 体当たりをかけ、分身は砕け散る。

 まずは最初の二体が連続して。


 それに続いて、肉壁にしていた分身たちが突撃していく。

 次々とコウモリにぶち当たっていく。


 衝撃で分身は塵となる。

 その衝撃はコウモリの勢いを削いでいく。


 それでも……勢いを殺しきれない!

 止まらない!


 俺はリンを守るように抱き抱える。


 ――衝撃。

 コウモリの突進が、俺の体をかすめる。


 直撃ではない。

 それでも車にはねられたみたいだ。


 俺たちは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて転がる。


「ぐっ……!」


 息がつまる。

 肺に空気が入ってこない……!


 リンは――どうなった?


 腕の中にリンはいない。

 俺は朦朧(もうろう)とする意識をつなぎとめ、リンの姿を探す。


 いた――無事だ。

 もう頭を振って立ち上がりかけている。


 生命力のステータス。それに【美肌】。

 俺よりも頑丈なんだ……! よかった……!



 リンの向こう側……ぼやけた目の焦点(ピント)が合う。

 コウモリは突進を止めていない……!

 あの方向は……!?


 リンが起き上がりながら、驚きの声をあげる。


「――トウコちゃん! あぶないっ!」

「うあっ!?」


 コウモリは走り続けている。

 ――その先にはトウコがいる。


 震える腕でショットガンを持ち上げようとしているが……まだ動けない。


 音響(超音波)攻撃の効果はまだ切れていない!


 マズイ!


 再び【入れ替えの術】を――

 だが、再使用可能(クールダウン)時間が……!


 ならばッ!

 【分身の術】――届け!


 なんとか分身を生み出す。進路に割り込ませる。

 しかし分身は軽々と粉砕され、勢いは衰えない――!


「しまっ――!」


 俺には打てる手がもう――!


 そのときリンが立ち上がる。

 その右手が激しい炎に包まれる。


「トウコちゃんから……離れてぇぇぇっ!」


 炎が、さらに大きく膨れ上がる。

 突き出した腕から炎が勢いよく放たれる。


 それは――いつもの形ではない。


 鋭い矢(ファイアアロー)――いや、極太(ごくぶと)のそれはもはや槍だ。

 炎の槍(ファイアランス)


 さっき見せた俺の槍にも似た、長く鋭い槍。


 火球とは段違いの速さで空を割いて炎の槍が飛ぶ。

 コウモリを背中から突き刺し、(つらぬ)いた。


「ギイィィィ……!」


 胸まで貫通した槍は炎を噴き出し、コウモリの体を包み込む。

 コウモリがぐらりと体勢を崩す。


 そして派手に転がるように倒れ込む。

 トウコのすぐ目の前で動きを止め、ぶすぶすと煙を上げる。



「や、やったの……?」


 リンが焼けた自分の腕を胸の前で抱えて、放心したようにつぶやく。

 コウモリの背中からは煙が立ち上っている。


 ――コウモリがピクリと動く。


「ま、まだだ! ――トウコッ!」


「ギ……ッ!」


 コウモリが最後のあがきとばかりに大口を開ける。

 唾液と血を滴らせた鋭い牙がトウコの頭を狙う――


 トウコは立ち上がれない。

 気合の叫びをあげ、必死に体に力を入れている。


「んなろおお――!」


 ――がきん!


 勢いよくコウモリの口が閉じられる。

 鋭い牙が閉じあわされて嫌な音が響く。


 その口にはトウコの黒い銃身(ショットガン)が突っ込まれている。


「――吹き飛べぇぇぇッ!」


 体の自由は戻っていない。

 それでもこれを外す心配はない!


 ゼロ距離でぶっ放されたスラッグショット(熊撃ち弾)が、轟音と共にコウモリの頭部を吹き飛ばす。


 頭部を失ったコウモリの首から激しく血が噴き出す。

 降りかかった血がトウコの体を赤く染める。


 コウモリは絶命して塵となる。そして血の汚れも消えた。


「うおっしゃあっ! やったっス!」


 トウコが勝鬨(かちどき)を上げる。


「あぁ……よかったぁー!」


 リンはその場にへたり込み、安堵の声を漏らす。


 俺はため息をついて身を起こす。


「――っ!」


 体に激痛が走る。どこか、骨でも折れたか……!


 体の節々が痛む……!

 魔力の連続使用で頭もいてえ……。


 収納から取り出したポーション手拭いが俺を癒す。

 布にしみこんだポーションが手から吸収される。

 これでケガは楽になった。


 リンもポーション飲んでいる。

 炎の槍を放つ時に、自分の腕までも燃やしてしまったのだ。

 その傷も治っていく。


 トウコも立ち上がっている。

 もう平衡感覚も取り戻したようだ。


 無事に勝利した!


「ふう……。リン、トウコ、よくやったな!」


「やりましたねっ!」

「やってやったっス!」


 やっぱりコウモリは強かったな……。

 だけど、二人はよく戦った!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人数増えてもやっぱり手強いボス戦、閃く必殺技、新兵器 熱かったです
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