VSボス戦! 叫べ! 必殺技合戦!?
コウモリは叫びながら、大きく羽ばたく。
「キイイイイィィィィ…………」
耳障りな叫び声。
音量が大きいわけじゃない。
後半はかすれて聞こえないくらいだ。
だが、問題は音量じゃない――
「うあっ!?」
「ううっ」
人間の可聴域を超えた――超音波。
脳を揺さぶり、平衡感覚を乱す攻撃だ!
トウコがへたり込み、リンがよろける。
「くっ……」
大丈夫だ――俺はほとんど影響を受けていない!
一番遠かったのと分身の壁のおかげだ!
コウモリは超音波の叫びを上げながらも、ばさばさと羽ばたく。
そうしてリンが放った巨大な火球をかわそうとする。
火球は遅い――しかし、たやすく避けられないほどに大きい。
コウモリが大きく羽ばたき、その巨体が空中に浮かび上がる。
――火球がコウモリを捉えた!
かすめた火球がコウモリの片翼を焼き焦がす。
「ギィィィ!」
コウモリは傾き、地に落ちる。
片翼の飛膜は焼け焦げ、骨がむき出しになっている。
それでも、その翼と後ろ脚を使って着地する。
――そして勢いよく走りだす。
まるで四つ足の動物のように不格好に。
それでも力強く向かってくる!
巨体を活かした突進攻撃だ。
狙いは――
「――あ、あたしかっ!」
「避けろ、トウコ!」
この程度の速さならトウコは避けられる。
普段なら……!
トウコは飛び退こうとして――その場に尻もちをつく。
「……あ、あれっ? た、立てないっス!」
足が震え、体に力が入っていない。
完全に平衡感覚を失っている!
リンが動く。
ふらつきながらトウコのそばへと歩み寄る。
「と、トウコちゃん!」
コウモリが二人に迫る。
かろうじて動けるリンがトウコの前に立つ。
コウモリに手を向ける。
その手の中に炎が生まれ――
「ふぁ、ファイア……あっ!?」
炎は揺らめいて、かき消えてしまう。
超音波の影響か……!?
リンの表情に焦りが浮かぶ。
それでもトウコを守るように、両手を広げて立つ。
「り、リン姉! 逃げてっ!」
トウコは歯を食いしばって立ち上がろうとしている。
足ががくがくと震える。
「キィィィィ!」
コウモリが肉薄し、トウコの前に立つリンを襲う――
「ッ――!?」
「うわぁぁぁッ!」
リンが息をのみ、トウコが叫ぶ。
リンが手の中に再び火を生み出す――だが、弱々しい。
コウモリが走る。
勢いよくリンを押しつぶし、トウコを踏み砕こうと――
――それより早く、俺の術が完成する。
「入れ替えの術ッ!」
この術の対象は一人。
二人同時には救えない!
だが迷いはない。
――対象は動けずにいるトウコ。
術が発動し、後方の俺とトウコの位置が入れ替わる。
まだだっ!
両方を救う!
どちらか片方だけ助ける選択なんて、最初からない!
全身の筋肉を総動員して、俺は動く。
「――うおおああっ!」
間髪入れずに、目の前のリンに手を伸ばす!
無理な動きに足腰が悲鳴を上げる。
俺は大きく踏み切ってリンを抱いて跳ぶ。
コウモリが俺たちを狙って迫る。
加速した意識のなか、コウモリの顔がドアップで迫る……!
――くそ、避けきれない!
巨大なコウモリの突進から逃れるにはわずかに足りない!
――ドン。
コウモリの醜悪な顔が衝撃を受けて揺れる。
コウモリにぶつかったのは分身だ。
先ほど防御を命じて向かわせた分身が間に合った――!
体当たりをかけ、分身は砕け散る。
まずは最初の二体が連続して。
それに続いて、肉壁にしていた分身たちが突撃していく。
次々とコウモリにぶち当たっていく。
衝撃で分身は塵となる。
その衝撃はコウモリの勢いを削いでいく。
それでも……勢いを殺しきれない!
止まらない!
俺はリンを守るように抱き抱える。
――衝撃。
コウモリの突進が、俺の体をかすめる。
直撃ではない。
それでも車にはねられたみたいだ。
俺たちは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて転がる。
「ぐっ……!」
息がつまる。
肺に空気が入ってこない……!
リンは――どうなった?
腕の中にリンはいない。
俺は朦朧とする意識をつなぎとめ、リンの姿を探す。
いた――無事だ。
もう頭を振って立ち上がりかけている。
生命力のステータス。それに【美肌】。
俺よりも頑丈なんだ……! よかった……!
リンの向こう側……ぼやけた目の焦点が合う。
コウモリは突進を止めていない……!
あの方向は……!?
リンが起き上がりながら、驚きの声をあげる。
「――トウコちゃん! あぶないっ!」
「うあっ!?」
コウモリは走り続けている。
――その先にはトウコがいる。
震える腕でショットガンを持ち上げようとしているが……まだ動けない。
音響攻撃の効果はまだ切れていない!
マズイ!
再び【入れ替えの術】を――
だが、再使用可能時間が……!
ならばッ!
【分身の術】――届け!
なんとか分身を生み出す。進路に割り込ませる。
しかし分身は軽々と粉砕され、勢いは衰えない――!
「しまっ――!」
俺には打てる手がもう――!
そのときリンが立ち上がる。
その右手が激しい炎に包まれる。
「トウコちゃんから……離れてぇぇぇっ!」
炎が、さらに大きく膨れ上がる。
突き出した腕から炎が勢いよく放たれる。
それは――いつもの形ではない。
鋭い矢――いや、極太のそれはもはや槍だ。
炎の槍!
さっき見せた俺の槍にも似た、長く鋭い槍。
火球とは段違いの速さで空を割いて炎の槍が飛ぶ。
コウモリを背中から突き刺し、貫いた。
「ギイィィィ……!」
胸まで貫通した槍は炎を噴き出し、コウモリの体を包み込む。
コウモリがぐらりと体勢を崩す。
そして派手に転がるように倒れ込む。
トウコのすぐ目の前で動きを止め、ぶすぶすと煙を上げる。
「や、やったの……?」
リンが焼けた自分の腕を胸の前で抱えて、放心したようにつぶやく。
コウモリの背中からは煙が立ち上っている。
――コウモリがピクリと動く。
「ま、まだだ! ――トウコッ!」
「ギ……ッ!」
コウモリが最後のあがきとばかりに大口を開ける。
唾液と血を滴らせた鋭い牙がトウコの頭を狙う――
トウコは立ち上がれない。
気合の叫びをあげ、必死に体に力を入れている。
「んなろおお――!」
――がきん!
勢いよくコウモリの口が閉じられる。
鋭い牙が閉じあわされて嫌な音が響く。
その口にはトウコの黒い銃身が突っ込まれている。
「――吹き飛べぇぇぇッ!」
体の自由は戻っていない。
それでもこれを外す心配はない!
ゼロ距離でぶっ放されたスラッグショットが、轟音と共にコウモリの頭部を吹き飛ばす。
頭部を失ったコウモリの首から激しく血が噴き出す。
降りかかった血がトウコの体を赤く染める。
コウモリは絶命して塵となる。そして血の汚れも消えた。
「うおっしゃあっ! やったっス!」
トウコが勝鬨を上げる。
「あぁ……よかったぁー!」
リンはその場にへたり込み、安堵の声を漏らす。
俺はため息をついて身を起こす。
「――っ!」
体に激痛が走る。どこか、骨でも折れたか……!
体の節々が痛む……!
魔力の連続使用で頭もいてえ……。
収納から取り出したポーション手拭いが俺を癒す。
布にしみこんだポーションが手から吸収される。
これでケガは楽になった。
リンもポーション飲んでいる。
炎の槍を放つ時に、自分の腕までも燃やしてしまったのだ。
その傷も治っていく。
トウコも立ち上がっている。
もう平衡感覚も取り戻したようだ。
無事に勝利した!
「ふう……。リン、トウコ、よくやったな!」
「やりましたねっ!」
「やってやったっス!」
やっぱりコウモリは強かったな……。
だけど、二人はよく戦った!




