VSボス戦! ぶちかませ! 綺麗な花火!?
「うらららあっ! あーっ! イラつくっス!」
銃撃を続けるが、コウモリへのダメージは小さい。
ほどんど有効打になっていない。
空中にバラまいた紙吹雪はもう落ち切ってしまった。
ボスコウモリは動きのキレを取り戻し、自由に飛んでいる。
「トウコ、残弾は大丈夫か?」
「拳銃弾ならまだまだあるっス! リロッ!」
つまり、ショットガンの弾は残り少ないわけだな。
撃ちすぎだ。
トウコが拳銃を装填する。
攻撃の手がやむ。
すると、コウモリがその機を逃さずに急降下して向かってくる。
「――来たわよっ! ファイアウォール!」
「キッ」
炎の壁が立ちふさがる。
コウモリは身をひるがえして上昇していく。
戦況は膠着している。
トウコが射撃している間、コウモリは距離を取って逃れる。
手を止めるとまた攻撃を仕掛けてくる。
だが、リンが火球や壁を出すと離れていく。
やはり、火が苦手なのかもしれない。
コウモリは最初よりも余裕をもってコースを変える。
悠々と飛び去って、スキをさらさない。
もうくす玉はない。
「かーっ! なんスかアイツ! 逃げてばっかっス!」
「それでも、じわじわ削ってるんじゃないか?」
地味な展開にトウコはいらだっているが、俺は悪くない状況だと評価している。
膠着してみえる状況だが、こちらが押している。
ヒットポイント。
いわゆる耐久力。攻撃を防ぐ膜のようなものだ。
冷蔵庫のボスである料理人ゾンビも持っていた。
まるで攻撃が通用しないように思えるが、ちゃんと減らすことができる。
攻撃を弾かせたり命中させるたびにすり減っていく防御膜。
攻撃は少しずつ敵を弱めている。
「ゼンジさん。このまま続けていれば倒せるんですよね?」
「そのはずだ。頑張れ!」
俺は二人を励ます。
しかし……今回のコウモリはいつもより消極的だ。
逃げてばかりいる。
俺と戦ったときはもっと積極的に攻めてきた。
ボスにも個体差……性格の違いがあるんだろうか。
それとも火を嫌がっているのか?
飛び道具を警戒しているからか?
トウコが気を取り直したように銃を構える。
「まあ、ある意味作戦通りっス! 結局は撃ちまくるだけ! ――数うちゃ当たるっス!」
トウコは拳銃弾を腰だめで連発する。
もはや狙いもつけない。
ハズレは多くなるが、たくさん撃った分だけ命中も増える。
こうやって削っていくつもりだな。
我慢比べみたいなものだ。
それを嫌がったのか、コウモリが滑空して攻撃モーションに入る。
「お、釣れたな!」
トウコが迎撃のためにショットガンを構え――かっと目を見開く。
「ここっス! くらえッ!」
――いつもより遠い距離で引き金を引く。
この距離では全弾命中は望めない。
だが、やけくその攻撃ではない。
トウコのショットガンは拡散が強い。
とにかくばらまかれる!
まさに、数撃てば当たる作戦!
「キイィッ!」
これまで繰り返した攻防とは違う距離感に、コウモリが迷うようにコースを変える。
弾がコウモリの羽をかすめる。
コウモリはバランスを崩して失速しかけ――
いや、力強く羽ばたいて体勢を整えた!
――そこへ、リンが火球を放つ。
「ファイアボォールッ!」
だがコウモリにとって火球は遅い。
「キッ!」
まるであざ笑うように、身をよじってコースを変える。
「ああっ! ハズレっス!」
だが、まだだ!
リンの目は諦めていない。
なにかを狙っている……!
コウモリは火球をくぐるようにしてリンを狙う――
「今よっ! ――はじけてっ!」
リンが手を振る。
コウモリのすぐそばで――火球がふくらむ。
そして、膨れ上がった火球が弾け――小さな火の玉が無数に飛び出す。
まるで大玉の花火のように。
まるでショットガンの散弾のように。
――コウモリの間近で、いくつもの小さな火花となって爆発した。
コウモリの顔面に弾けた火花がぶち当たる。
「ギッ……!」
顔面を焼き焦がしながらコウモリが墜落していく。
それを見ながらリンが言う。
「たくさんの弾! 撃たなきゃ当たらない! トウコちゃんの言う通りだわ!」
「顔面にぶち当ててやったっスね! ざまぁ!」
トウコは、やりいっ! という感じで腕を振る。
「打ち上げ花火のイメージか! やるなリン!」
「えへへっ……うまくいきました!」
練習なしに実戦でいきなりできるとか、天才かよ!
この調子なら、俺が練習した槍は使わずに済みそうだな。
手を出さずとも二人で倒せそうだ。
コウモリはぶすぶすと煙の尾を引きながら落下し、洞窟の床に叩きつけられる。
飛膜の一部も焼き焦げて穴が開いている。
これは効いたな!
と、その時――コウモリが大きく息を吸う。
まずいぞ、あの動作は――!
「――超音波だ! 阻止しろッ!」
俺は短く警告の声をあげる。
「はいっ!」
「ど、どうすりゃいいんスか!?」
どうすれば超音波を防げるかは俺にもわからない。
やらせないのが一番の対策だ!
二人が自力でどうにかできるか……!?
いや、安全第一!
経験を積ませるなんて言ってる場合じゃない!
手を打っておく! 空振りでもかまわない!
俺が様子を見ていたせいでピンチになるなんて許されない!
危機感に、俺の脳は高速で回転し始める。
前のようにコウモリの口中に目つぶし玉を投げ込むには――角度が悪い!
防御を命じた分身を二体放つ。
分身は二人のほうへと走っていく。
さらにコウモリと俺の間を遮るように分身で壁を作る。
人垣――肉の壁だ。
これで多少の音を遮ることはできるはず!
術の連続使用に汗が噴き出す。
だが俺はさらに次の術を練り――深く集中する。
警告を受けたトウコはわずかに逡巡して――銃を構える。
その銃口はぴたりと迫るコウモリを照準している。
「とりあえず――ぶっ放すっス!」
迷いを捨て、引き金を引く。
連射された拳銃弾がコウモリに向かって飛ぶ。
命中。だが角度が浅く弾かれる。
それでもわずかにコウモリをひるませる。
――それと同時に、リンは両手をコウモリに向けている。
火球が手の先へ生み出される。
リンは火球を放たずにどんどん魔力を込めていく。
火球はリンの全身を隠すほどに膨れ上がり――
「――ファイアボォォォォルッ!」
特大の火球をコウモリに向けて放つ。
炎の熱量に空気がゆらめき、風が巻き起こる。
巨大な火球はうなりを上げて一直線に飛んでいく。
洞窟が赤く照らし出される。
離れている俺の顔まで熱くなるような、遠慮のない一撃だ!
だが、弾速が遅い。
届かない!
そのとき、コウモリが叫ぶ。
「キイイイイイイィィィィィ…………」
「っ! 備えろ!」
音響攻撃だ!
くそ、阻止できなかった……!




