五階層到着! レベルが上がったらしいぞ!
俺たちは第五階層へやってきた。
大きな扉の前、作戦会議中である。
「あ、そういえばレベル上がったっス!」
「お。いくつになった?」
「ハチ! これで下がった分は取り戻したっス!」
「おめでとう。トウコちゃん!」
レベル八か。
デスペナで下がった分を取り戻したわけだな。
「スキルはどうなった?」
「前に振ったままっスけど……【射撃威力】【装填】のスキルレベルを上げてるっスね」
「トウコちゃんはいろんなスキルは取らないの?」
リンは魔法使いとモデルの二つの職業がある。
簡易モードだからスキルの数は少ないが、できることは多い。
「あたしはほとんど銃関係っスね!」
「攻撃的なスキル構成だよな。それもアリだろう」
レベルが上がっても、スキルを増やさない。
すでに持っている銃関連を強化していく方針だ。
「店長はやたらスキル多いっスよね」
「まあな。ソロを前提として鍛えてきたし、器用貧乏路線だ」
隠密や暗殺では正面きっての戦いができない。
攻撃だけに偏ってもダメ。
クラフト系スキルも多い。
ダンジョンの外で使うことも考慮して……。
器用貧乏まっしぐらだ。
「店長はダンジョンすら一人で何でもやろうとするんスねえ……さすが社畜忍者っス! ヘンタイっス!」
「社畜いうなや! ヘンタイじゃねーわ!」
もうブラック労働は卒業したわ!
リンが俺の手を取る。
その手はあたたかく、やわらかい。
「もう一人じゃないんだから、無理しないでください。……私にも手伝わせてくださいね!」
「天使かよ! かわいいかよ!」
リンは顔を赤くする。
おっと心の声がだだ洩れだ!
「リン姉……自然なイチャつきへの移行……すげえっス!」
「お前の強引な下ネタへの脱線もなかなかだけどな」
いい雰囲気なんて流れないって。
「違うんスっ! これは体が勝手に! 我慢できない体に……」
「ほら、それよ」
別にダメじゃないんだけど。
面白いと可愛いは違うからなぁ……。
「ちがっ! あたしもホントはふつーにイチャつきたいんスよぉー!」
トウコがすがりついてくる。
「素直かよ!」
「もう一声! もう一声ほしいっス!」
欲しがるね!
自然さって、大事なんだなぁ……。
「トウコちゃん、かわいいよ!」
リンはトウコの手を取って微笑んだ。
女神かよ!
「うへへー。カワイイいただいたっス!」
トウコへ顔を緩める。
まあ、かわいいよ。
言わんけど。
俺はトウコの髪をくしゃくしゃと撫でる。
「うへへ。癒やされたっス――いやらしくされたっス!」
「お前、スキあらばぶっこんでくるな……」
懲りないやつ!
なんかリンがモジモジしている。
しゃがみこんで頭をつきだしてきた!
「わ、私も……!」
上目遣い! ちょっと目が潤んでいる!
自然に高得点をたたき出してくる!
「お、おう」
俺はリンの頭をなでる。両手に頭……。
物理的に両手に花という珍しい図式。
「リン姉もなかなか強引にねじこんでくるっス……!」
「ふふっ……あ、ゼンジさんもどうですか?」
「仕返ししてやるっス!」
リンが俺の頭にやさしく触れ、トウコが俺の髪をかき乱した。
円陣を組むように頭を撫でる三人組という謎の図式。
なにしてんだコレ!?
ロマンティックでもないし、素敵な絵面じゃないが……。
悪くないな!
「あー、ボス戦の準備するぞ!」
いちゃついてる場合じゃないぞ。
目的はボスの討伐。
「はいっ!」
「ちぇー! なんならこのまま全身撫でまわし――」
トウコは口をとがらせて手をワキワキさせている。
「そういうとこな! ほら、気持ち切り替えろ! ボスは巨大なコウモリだ! デカくて速くて強い!」
俺は無理やり話題を変えた。
俺がツッコまないと脱線が終わらない!
「でもコウモリっスよね? 飛んだとしても銃なら楽勝っス!」
「トウコちゃん! 気をつけないとダメよ!」
「そうだぞトウコ! ザココウモリと一緒にするな。ステータスもあるし頑丈だ。力も強い――」
俺はけっこう苦戦したからな。
激戦だったし、死にかけた。
俺は前に戦ったときの話を伝える。
「ボスコウモリさん……こわそうですね……」
「超音波攻撃がヤバそうっスねえ」
あんまり説明するとリンが怖がるし、長い説明はトウコが飽きる。
塩梅が難しいぜ!
「超音波は食らうと立てなくなるから注意してくれ」
「でも、どうやって注意すればいいんでしょうか?」
「避けたりできるもんっスか?」
「……わからん。攻撃が見えるわけじゃないしな。やらせないのが一番だ」
当たり前だが、音は見えない。
「料理人ゾンビの咆哮は避けようもなかったっスからねえ……」
声だからな。周囲全体へ届く。
超音波なら、もうちょい指向性があるかもしれない。
「耳を塞げばいいんですか?」
「単に耳から入ってくる音が問題なのかどうかわからんが……試してみるしかないな」
超音波攻撃はボスコウモリしかやってこない。
事前に練習するすべはない。
「予定では俺は手を出さないつもりだったけど、手伝おうか?」
「うーん。不安な気もしますけど……」
リンは迷った様子だ。
トウコが口を開く。
「店長がボス倒したとき、レベルいくつだったんスか?」
「一桁だったはず。八くらいかな? 今のトウコと同じだ」
戦闘力だけでいえば、トウコは悪くない。
レベルだけでいえば、リンは倍以上だ。
「リン姉は十九っスよね。そしたら二人でいけるっスよ!」
「まあ、数字の上ではそうだが……ゲームじゃないからな?」
火力やレベルだけがすべてじゃない。
事故ったら大ケガ――最悪は死ぬ。
危機感が足りないのがトウコの悪いところだ。
いいところでもあるんだけどね。
リンは怖がりすぎる。
まあ、それが普通なんだけどな。
「でも、やってみましょうか。だめだったらゼンジさんに助けてもらう……でいいですか?」
お、リンがやる気出した。
自発性、自信。
そういうのを身につけてもらいたい。
そのためのボス戦だ。
ここで尻込みしていては、もっと強いワニには勝てない。
「よし! じゃあ二人で戦って、ヤバいときは俺も手伝う方針でいこう!」
「はいっ!」
「リョーカイっス!」
リンが手を上げる。
なにかな?
「あ、ゼンジさん! けっこう魔法使っちゃったので、休憩したいです!」
「じゃあじゃあ! あたしは宿泊したいっス!」
トウコがはいはいっという感じで何度も手を上げる。
「休憩しながら、戦いかたを相談しようか!」
「はい!」
俺とリンはトウコをスルーした。




