無詠唱魔法と厨二病長文暗唱!?
俺たちは四階層を進んでいく。
並び順はそのまま。リン、トウコ、俺の順。
「そういやリン、試してもらいたいことがあるんだが……」
「はい先生っ!」
リンがいい返事を返す。
って、博士と助手の実験ごっこ続いてるー!?
トウコがけげんそうに片方の眉を上げて言う。
「なんスか? センセーって?」
「いや……」
「お昼にスキルの実験してたんですよー。私は助手してたんです!」
おうふっ!?
ごまかそうとする前に堂々と公表された!
トウコはジト目を俺に向ける。
「ふぅーん? 昼間っから二人で楽しそうっスね。センセー?」
ヤメロ!
白昼堂々、ごっこ遊びしていてもいいだろう!?
……ダメかな? アウトかな?
「――さて、リン。試してもらいたいのは無詠唱魔法だ。声に出さないでファイアボールを出してみてくれ」
話題を変えよう。
「はいっ! あっ!? 声出しちゃいけないんでしたね」
「今はいいと思うっスよ!」
リンは黙ったまま湖面に手のひらを向ける。
手の中に炎が膨れ上がる。
「……」
無言で火球が飛んで、湖面へ激突する。
小さな水しぶきを上げて、火は消えた。
「できたな! ナイス!」
「リン姉……まさか無詠唱魔法をッ!?」
トウコは大げさに驚いて見せる。
こやつ、基本的リアクションを心得ておる!
しかし……普通に無詠唱魔法ができてしまうのか。
すげえな!
「え? ええ? ヘンでしたか!?」
「いや、お約束というか……漫画とかでは無詠唱――無言で魔法を使うのはスゴイってことになってるんだ」
「なんですごいんでしょうか?」
「ツワモノ感が出るんス。普通みんなできない感じで……なんでスゴイんスかね。店長?」
なんとなくスゴイ……ってわけじゃない。
「そりゃ、声に出さなくていいからだ。バレないし、早い。口をふさがれたら魔法が使えないんじゃ困るだろ?」
「それは困りますねー」
呪文を叫べば、当然バレる。不意打ちはできない。
詠唱から効果もわかって対策される。
魔法じゃなくても技名を叫ぶのもどうだろうね。
俺も分身の術! とか言うけどさ。
声出したほうが、気合が乗る。
ちょっとだけ、気持ちとか勢いも影響するからな。
意味はあるんだ。
当然だけど隠密行動中は静かにしている。
叫ばずとも術は発動できる。
いわば、無詠唱忍術だな。
印を結んだり巻物をくわえたりしない。
そう思えば、無詠唱忍術もスゴイかも。
「銃で考えたらサプレッサーって感じっスね」
銃声を小さくするのがサプレッサーだ。
詠唱とは関係ない。
「近いような違うような……」
「火縄銃よりサプつきサブマシンガンのほうが強い感じっスよね?」
銃で例えるのにこだわるね!?
「ちょっと近いかな。火縄銃は一発ずつ弾丸を込めるから時間がかかる。サブマシンガンならすぐに連続で撃てる」
「わかった気がします! 早いから強いんですね!」
リンが頷いた。
銃の説明でも伝わったな。
「そうそう。長い呪文を唱えないと魔法が撃てないなら、早口言葉練習しなくちゃな」
「それはたいへんですねー」
「セリフを噛んだり、邪魔されたら魔法が使えない。沈黙魔法なんてかけられたら終わりだぞ」
「無詠唱ならいつでも使えるっス!」
魔法使いは口を閉じられると無力になる。
長い詠唱ほど強い設定なら、早口言葉合戦みたいになるのだ。
それを解決するために早口言葉を極めるヤツが現れる。
高速詠唱。カッコいい響きだ。
「で、高速詠唱とか詠唱短縮とか詠唱破棄とかが発達するわけ」
「タイパのいい魔法っスね!」
「時短ですね。ああ……だから無詠唱なんですね!」
動画の倍速視聴とか切り抜き動画みたいなものかな。
ファスト映画とか。
情緒というかロマンというか……なにかが失われている気はする。
ともあれ、途中を省略して結果だけ得る。
「そうだ。呪文を唱える工程を短くする。なくす。だから早くて強い!」
「よくわかりましたー!」
リンは納得してくれたようだ。
「でもあたしは長い詠唱好きなんスけどねー」
「アニメで見る分には俺も好きだぞ。実戦では使えないと思うが」
長い詠唱にも良さがある。
――ロマンだ。
「え? どういうことですか?」
「昔は長い詠唱が流行ってたんス!」
昔のアニメでは長くて大げさな呪文の詠唱があったものだ。
厨二病にはたまらない。
最近はすたれてしまったなあ……。
「長い詠唱ってどんな感じですか?」
「うーん。どんなって言われても……例をあげるのは恥ずかしいんだよな」
好きなアニメの詠唱は暗記してたりするけどな!
大人になったらなかなか……。
「じゃあ、試しにやってみるっス!」
「まさか……やる気か!?」
いい年してアニメの長セリフを暗唱する気か!?
いや、トウコは女子高生だから許されるのか?
トウコが両手を振り回してポーズを決め――なぜか片目を閉じる。
「わが手の中に現れるは地獄の黒き鉄――銃の支配者の名において命じる! 出でよ黒き銃!」
「なにい!? オリジナル詠唱だとぉ!?」
アニメのセリフをやるのかと思ったわ!
しかも日本語詠唱タイプ!?
ぶつぶつとつぶやくトウコの手の中に――黒いショットガンが生み出される。
銃身には大仰な刻印が施され、高級感――いや厨二感満載だ!
それをくるくると回してもったいぶってから、びしりと構える。
「わが指先は命の灯火を吹き消さん! うなりをあげて飛べ――スラッグショット!」
トウコが引き金を引く。
黒いショットガンが轟音を上げ、弾丸が放たれた。
別に誰の命もかき消さず、水面に穴をあけた。
「わあー。かっこいいねー!」
「でしょでしょ! リン姉もやるといいっス!」
リンには刺さったらしい!
黒とか地獄とか支配とか……ロマンあふれるワードだよな。
「おススメすな! ……実戦でやんないでよ!?」
「え? 詠唱魔法ってすごいんですよね? 私よりトウコちゃんの時のほうが驚いてましたし!」
違う種類の驚きだわ!
「いやいや! 驚いたけども! それはトウコのアホさに……」
「店長ひどくないっスか! センセー!?」
お前もひどいよ! 忘れろよ!
「無詠唱のほうが凄いんだって!」
「そうっス! お楽しみと実戦は別っスね!」
実戦で長々と呪文唱えてたら間に合わないしね。
ポーズつけてる場合じゃない。
「えーと。私はこれから詠唱しないほうがいいんでしょうか?」
リンは困惑気味だ。
脱線しすぎてよくわからなくなったな。
「ああ、ごめん。やりやすいようにやってくれ!」
「じゃ、かけ声ありにします!」
チームプレイでは、短いかけ声はあったほうがいい。
「無言だと連携しにくいっス! 声出して――あえぎ声だしていきましょう!」
「はーい!」
リンは後半をスルーした。
でもトウコはめげなかった。
「あぁん! リン姉はいけずっス!」
ひとりノリツッコミみたいな自己完結しよる!




