足音! ストーンサークル! ゴブリンラッシュ!
三階層は最短距離で進んでいる。
ドーム状になっている洞窟の中央を突っ切るコースだ。
ストーンサークルのような巨石が立ち並ぶ場所だ。
ここにはゴブリンの群れが住んでいる。
巨石で作られた迷路のようなもので、視界は悪いし道幅は狭い。
つまり射線が取れない。
「ここは狭いからトウコちゃんは戦いにくいんじゃないかなー?」
「そうでもないっスよ? ここを曲がるとゴブリンがいるっス」
そういうとトウコは曲がり角を飛び出し、腰だめに拳銃を連射する。
角を曲がってのぞき込むと、もう魔石が転がっているだけだった。
ゴブリンの位置がわかっていないとできない動きだ。
「トウコちゃん。なんでわかったの?」
「足音っス! ゲームじゃ常識っスよ!」
ゴブリンは足音を殺したりしない。
無意味にわめいたりもする。気配は大きいのだ。
耳をすませば、ある程度の位置はわかる。
トウコは【聴覚強化】を取得している。
このスキルは俺も取得できるが、見送ったんだよな。
スキルの説明によれば――聴覚が強化される。
耳がよくなるという効果だ。
ゲームでは足音を頼りに敵の位置を知る。
だからガチ勢はヘッドフォンをするのだ。
ここはストーンサークルの中心、宝箱のある広間だ。
宝箱の前でトウコが手をわきわきさせている。
「宝箱発見っ! 開けていいっスか?」
「開けていいぞ。ゴブリンが怒るけどな!」
この宝箱を開けると、ゴブリンが一気に襲ってくる。
仕掛けとかイベントみたいなものだろう。
「怒る……? まあ、問題ないっス! オープン! ……なんだ。草っスね」
「薬草ね?」
シソっぽい草が入ってるだけ。薬草だ。
トウコはそれをダンプポーチへと突っ込む。
「そうガッカリすんなよ。ゴブリンは大好きみたいだぞ? ほら来た!」
なぜかはわからないが、ここのゴブリンは薬草を狙ってくる。
「アギッ! アギッ!」
「アギャギャ!」
ゴブリン達が広間を囲む巨石の間からわらわらと現れる。
よだれをたらし、目を血走らせてやってくる。
その数、十匹以上。
さらに増えていく!
「な、なんスか!? 急にウェーブはじまったっスか!?」
「トウコちゃん……最初にゼンジさんが説明してたわよ?」
急に、じゃねーわ!
出発前に説明したし、今も怒るって言ったし!
宝箱開けると一斉に来るんだぞ。
やっぱ聞いてなかったな!
「んじゃトウコ、頑張れ!」
「うええっ!? や、やるっスよ!」
トウコは拳銃を抜き撃って、近くまで来たゴブリンを撃ち抜く。
一匹あたり一射、的確に倒していく。
しかし仲間が倒されてもゴブリン達はひるまない。
「アギャーッ」
わめきながらトウコへ殺到していく。
「……トウコちゃんばっかり狙われてますね。大丈夫かなぁ」
「薬草を持ってるから狙われてるんだろうな」
宝箱から取った薬草はトウコのダンプポーチに突っ込まれている。
それを狙ってゴブリンが襲いかかるわけだ。
ゴブリン、薬草大好き説……。
俺とリンは敵の少ない方向へ移動しながら観戦する。
近寄って来たゴブリンには手裏剣を打ち込んで仕留める。
ここでは周り中から敵が湧いてくるからな。
寄り道せずに中央広場まで来たので、周辺のゴブリンも集まってきている。
トウコは撃ちきった銃を取り換えながら応戦する。
しかし、だんだんと距離を詰められていく。
「頑張って、トウコちゃん!」
「うわわっ! 速いっス! 多いっス! ちょい待ちっ!」
トウコは走り回り、転がりながら銃を撃つ。
ゾンビに比べてゴブリンの動きは速い。
体が小さい分、的も小さい。
トウコはアクション映画みたいに前転しながら撃ったり、くるくると動き回っている。
元気だなあ……。
もう数も減ってきたので問題ないだろう。
「はあっ! ちょっ! うららぁ!」
ちょっと息が上がってきたな。
運動量がスゴイ。
俺が戦うときは分身を使うから、狙いは分散する。
俺ばかりが狙われることはないんだよな。
リンは走り回るトウコを心配そうに見ている。
「ゼンジさん。私も手伝ったほうが……」
「大丈夫じゃね? 【入れ替えの術】はスタンバってるからヤバくなったら助けるし」
「はあっはあっ! さ、最後っス! うらあっ!」
ショットガンが最後のゴブリンを塵に変える。
周囲にはもう敵はいない。
これで戦闘終了だ。
俺はトウコに歩み寄って声をかける。
「おー。助けるまでもなかったな。余裕か?」
「よ、よ、余裕っスよぉー!」
トウコはやけくそ気味に叫ぶと床に座り込んだ。
リンがタオルと水を手渡す。
「トウコちゃん。大変だったね。おつかれさまー」
「ほれ、これも飲んどけ。体力回復丸と魔力回復丸だ」
「あ、アザっス。疲れたぁ」
全部避けきったのでケガはない。
ケガ無く勝てたんだから完勝だな!
「ナイスファイトだったぞ!」
「かっこよかったです!」
俺たちの称賛を受けて、トウコはいい笑顔を浮かべた。




