壁走り忍法帖 ~地味スキル【壁走りの術】で最強を目指す?~
修行回とか、需要がなさそうなので走り込みはいつの間に終わっています。
<熟練度が一定値に達しました。スキルレベルが上がりました!>
<【壁走りの術】 1→2>
「キターッ!」
初の熟練度によるスキルレベルアップ!
やはり、熟練度は貯まる! スキルレベルも上がる!
いよいよゲームっぽい。
いや、使えば身につくってのはむしろ自然なことなのだ。
さっそく試してみる。
壁を蹴って駆け上がる。
「さて、【壁走りの術】レベル2の効果のほどは……っと。おお! 走りやすさが違う!」
壁にくっつく力……疑似的な重力のようなものが前よりも強い。
逆に、下方向へ働く通常の重力は弱まるようだ。
さらに壁に張り付ける時間が延長されたようだ。
これまでは10歩程度だったのものが、倍以上になる。
おそらく10秒~15秒程度の間、効果が持続する。
効果時間が切れれば術が解け、地面へ落下する。
この効果時間が、体感で倍以上に延長された。
そして、術が再使用可能になるまでの時間も短縮された。
いわゆるクールダウン時間だ。
術を解いて数秒たてば、再び【壁走りの術】を発動できる。
効果時間いっぱいまで壁を走る。
効果が切れたら術を解いて床を歩く。
使ったら少し休ませる必要がある。
連発できないというわけだ。
レベル2の場合、体感では2秒ほど。
前はもっと長かった。
クールダウン時間が短縮された意味は大きい。
「これ、工夫次第ではずっと壁にくっつけるんじゃないか?」
術が切れたら壁で術を使わずに耐える。
例えるなら……。
水に潜って息を止め、苦しくなったら息継ぎするようなイメージ。
スキルを息継ぎして、再度発動させる。
つかまる場所があればしがみついてもいい。
足場があるなら登ればいい。
そうしてクールダウン時間が過ぎるのを待つ。
そして再度、術を発動させるのだ。
幸いこのダンジョンの壁はデコボコとした岩肌だ。
壁に掴まることはたやすい。
ボルダリングの優しいコースみたいに、捕まる場所はたくさんある。
さらに【壁走りの術】にはコストがない。
疲れたり、魔力を消費しない。
実質、ずっと壁に張り付いていられる。
「これは……クモのスーパーヒーローに一歩近づいたな!」
ただ壁に張り付くだけと侮るなかれ。
高さは強さだ。
上を取るということは、それだけで強い。
手が届かない位置であればなおさらだ。
コウモリに苦戦する理由もそれだ。
こちらの攻撃の手が届きにくいからだ。
俺は手裏剣がある。
だから戦える。
もし飛び道具がなければ、もっとずっと苦労しているだろう。
今のところ、飛び道具を持った敵はいない。
高所へ登ってしまえば、かなり安全になる。
安全な場所から一方的に【投擲】で狙い撃ちにできるわけだ。
壁を縦横無尽に飛び回って、手裏剣攻撃する忍者の完成だ。
夢のスタイリッシュ忍者アクションがいまこそ!
これで、ゴブリンは完封できてしまうぞ。
高所からひたすら遠距離攻撃してやれば、ゴブリンは涙目である。
汚いなさすが忍者きたない。
コウモリは……飛ぶね。
壁に張り付いても、さらにその上を行きおる……。
やはり、天敵! 絶対忍者殺すマン!
汚いなさすがコウモリきたない!
<熟練度が一定値に達しました。スキルレベルが上がりました!>
<【歩法】 1→2>
「おっ! 歩法も来た!」
【壁走りの術】のための走り込みのおかげで【歩法】も上がった。
この二つはセット感がある。
【歩法】がなかったら【壁走りの術】は使いこなせない。
壁を走るのは難しい。
【歩法】の熟練度も自然と上がってくるわけだ。
【歩法】レベル1は、知識を与えてくれた。
足の動かし方、体重移動などが理解できるような地味な効果だった。
しかしレベル2は違う。
動きが補佐されるというか、身体が軽くなるような感じがある。
アシスト付き自転車みたいな感覚。
すいすいと無駄のない動きができる。
本来以上の加速がつくというか……。
重力とか慣性のような物理法則を無視している感じさえする。
オリンピックに出場したら競歩とかで上位が狙えるぞ。
壁走りでボルダリングも金メダル確実だな。
おそらく、不自然な動きにツッコミが相次いでしまうだろうけど。
世界初のスキル使いとして、全世界から注目を浴びてしまう。
……それは困る。オリンピックへの出場はなしだな。
いや、外でスキルは使えないからそもそも無理だけど。
使えたとしても、世を忍んで暮らすのが俺のモットーだ。
目立ちたくない。
ひっそりと暮らせればそれでいい。
これまではスキルポイントを使ってスキルを身に着けてきた。
1レベルあたり5ポイントしかスキルポイントは得られない。
熟練度でスキルレベルが上がるなら、貴重なポイントを節約できる。
「てことは、広く浅くスキルを振っていくべきか?」
新しいスキルはスキルポイントで取得する。
持っているスキルは熟練度で上げていく。
ポイントを節約しつつ、成長もしていく。
いいじゃないか!
でも、器用貧乏まっしぐらだ。
一人でダンジョンに潜っているから、しかたない部分だ……。
いろんな状況に一人で対応しなければならない。
しかし、手を広げすぎると中途半端になってしまう。
「ソロプレイの限界か。ぼっちにはキビシイ……」
全体の方針としては広く浅くでいい。
しかし、尖がった部分がないといかん。
強敵が現れたときに対応できる、一点突破の頼れるスキル。
そういうものが必要だ。
現状で最大レベルの【壁走りの術】で危機的状況をどうにかできるだろうか。
……怪しい。
【隠密】【暗殺】に特化するのはアリ。
だけどコウモリみたいに欺けない相手にはもろい。
振ったポイント分の強みが生かせなくなる。
【投擲】特化もいい。
【隠密】とも【壁走りの術】とも相性がいい。
長距離攻撃手段はこれに決まりだ。
近接攻撃は【打撃武器】を取っているが、これはいずれ刀などに乗り換えたい。
バットには愛着を感じている。
だがいつまでも野球忍者では締まらない。
今のところ、威力には満足している。
【打撃武器・威力強化】はこのままでいい。
熟練度でのレベル上げに期待して保留。
【身体強化】系も熟練度で上げたい。
ステータスの底上げは全体に関わってくるので地味に効果は高い。
攻撃にも防御にも移動にも関わってくる。
とはいえ、1レベルあたりの上昇幅は小さい。
ポイントを振るなら、不可能を可能にするようなスキルに振りたい。
ゼロからイチの差は大きいからね。
【回避】【危険察知】などを特化して、安全を確保するのもいい。
現状で、危うい部分はあっても致命的な被弾はしていないのは【回避】【危険察知】のおかげだ。
上げるのが望ましいが、火力も必要なので今はポイントをつぎ込めない。
ゲームみたいにヒットポイントとか防御力みたいなものがないからな。
当たり所が悪ければ死んでしまう危険はいつでもある。
忍者という職業では防御を高める類のスキルは選べないんだろう。
当たらなければどうということはないの精神で行くしかない。
忍者は全裸の方が強いと相場が決まっている。
レベルを上げてからの話ではあるけど。
【回避】系のスキルレベルを上げれば再現できるのかな。
【回避】を極めたら、全裸にマフラーってことになるか。
顔を隠したいから特別なマスクをかぶって……。
これが私のピロピロだ! とか言うんだな。
ないない。
頭に浮かんだ想像を打ち消す。
変態忍者仮面になってどうする。
仮に効果が得られても、服は着るぞ!
こんなにも壁にこだわる主人公、きっと他にはいないはず……。




