難題! ゲームに疎い女子大生に収納スキルとはなにかを説明しなさい(配点:百)
収納の渋いルールに思いを巡らせている俺にリンが声をかけてきた。
「うおわっ! ってリンか……」
「あっ! 驚かせちゃってごめんなさい!」
気を抜いているところに……あせったぜ!
ダンジョンの拠点は一人の空間だ。
プライベートゾーンなんだ。
一人でこっそりやってる行為を見られたら驚くのである!
鍵とかかけられないし!
やましいことなんてしていませんけどもね!
それに、入ってくるなとは言ってないんだけどさ。
気持ちの上では個室みたいなもんなのだ。
「なにしてたんですかー?」
「……いや、ちょっと考え事しててね」
「考えごと?」
「忍具収納スキルを手に入れたから検証してたんだ」
「忍具収納? それってなんですか?」
「リンは収納とかアイテムボックスってわかる?」
リンは少し考えこむ。
わかってなさそうである。
「えーと……入れ物ですか?」
リンは小首をかしげている。かわいい。
ダンジョンの中で言ったら、不思議スキルのことなんだけどね!
くっ! 伝わらない!
「スキルの一種で、不思議な空間にアイテムを収納できるんだよ」
「不思議な空間ってダンジョンですか? あ、クローゼット!」
リンがわかりました! みたいな顔でガッツポーズをきめる。
ちがうんだ! かなり近いけど違うんだ!
収納って言ったら普通、クローゼットとかタンスのこと考えるよね。
ボックスって言ったら箱を思い浮かべるよね!
わかるよ! そうだけども!
「クローゼットやタンスみたいな収納じゃなくって……。カラーボックスみたいな収納じゃなくって……」
「はい……」
「ゲームとかでたくさん道具を持ち運べるアレよ! 不思議な空間にしまって持ち歩けるアレよ!」
「うーん……不思議な空間ってなんでしょうか。ダンジョンじゃないんですよね?」
くっ伝! 伝わらない!
リンはゲーマーではない。ファンタジー好きでもない。
一般的女子大生よりさらにそういうのに疎い。
オタクの基礎知識が履修されていないんだ。
テストに出る必修科目なんだがな!
いにしえのゲームではやくそうが八個くらいしか持てなかったりする。
この頃は収納なんてない。
渋くて現実的な数のアイテムしか持ち歩けなかった。
別のゲームでは同じアイテムを重ねて九十九個持てたりする。
なんでそんなに荷物持てるのかって問題を解決するのが【収納】だ。
ゲーム内でそういうスキルがあるわけじゃないんだけども。
あるいは安全な場所に置かれている大きな箱だ。
アイテム保管箱だ。
保管箱に入れておくと、別の保管箱からも取り出せる。
中身が繋がっているかのような不思議な感じになるのだ。
不思議な保存箱。
謎の空間にしまわれているかのように、アイテムが取り出せちゃうアレなんだ。
現実世界に近い舞台でも、そういう不思議なことが起こる。
こんな概念がスキルとなったのが【収納】なんだ。
このテンプレ的ファンタジー概念!
ゲーム脳!
伝われ! 一般人に伝われッ!
いや、ゲームやファンタジーの例で説明する俺が悪い!
リンにゲームで例えてどうする!
歩み寄るのだ! この情報格差を詰めるのだ!
「ゼンジさん? 急に頭を抱えてどうしたんですか! 苦しいんですかっ!?」
「いや俺は元気です! コミュニケーションって難しいよね!」
俺は気を取り直してリンに向き直る。
リンは申し訳なさそうな表情だ。
「……ごめんなさい。私がわからないばっかりに……」
「あ、別にリンは悪くないからね! 俺のたとえがマニアックなんだ!」
「そ、そんなことないですよ」
別に伝わらなくてもいいかもしれない。
なんとなくの理解で充分かもしれない。
だけどちゃんと伝えたい!
「でもリンと分かり合いたいので! 説明を続けるぞ!」
「……ッ! はい! よろしくおねがいします!」
俺とリンはがっしと手を組んだ。
さて、なんて言えば伝わるんだ?
ゲームを知らないリンに……。
届けこの思い!
「忍者漫画で懐から鎖分銅が出てきたり……。リュックサックから巨大な手裏剣が……」
「は、はあ……」
リンの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
ダメだわ! 忍者漫画なんて誰が読んでるんだよ!?
おっと暴言!
ちがう! 忍者漫画は偉大でみんなに大人気だ!
俺なら一発で分かるたとえなんだが!
普通の女子大生に忍者の道具はどこから出てくるの……なんてネタはつうじねえー!
くっくっぅ!
頭を抱えてもだえる俺を心配そうな目で見て困っているリン。
うぐう。
電波な人みたいな感じになってしまう!
俺は普通の常識的な忍者なんだ!
一般人には理解できないことをぶつぶつ言ってるヤツみたいになっちまう!
それでも信じて理解しようという必死の目線!
なんだこれ!
たとえ電波でも俺の言ったことなら信じるみたいな狂信的な信頼感で俺の解説を待っているリン。
これもなんかおかしい! なんかコワイ!
うぐぐ。
なにかないか……! どうにかなりませんか……!?
助けて! なんとかしてよアレエモン!
――あ、それだ!
国民的漫画であれば!
ネコ型のアイツならやってくれる!
「未来から来たロボットの! 少し不思議なアイテムを収納できる四次元のアレ!」
「あー! それならわかりますっ!」
リンは胸の前でパンと手を叩く。
表情に理解が広がり、目が輝いている!
大きな動作に胸に振動が伝わり広がって――チガウそんな場合ではない!
さすが国民的漫画のアレ!
一発で通じるねアレは!
偉大すぎる!
「四次元のアレみたいに忍者道具をしまえるスキルだよ。手の中からしまったり取り出したりできる」
「なるほどー! それは便利ですねー」
リンがこくこくと頷いている。
伝わった! 思いは届いた!
愛=理解!
相思相愛! 愛は地球を救う!
俺は満足した。
 




