ワニ対策を考えよう!
ダンジョンを出て部屋へ戻る。
「うわっ。もうこんな時間かよ」
「ずいぶん長居しちゃいましたね。中は、ずっと昼間だから時間忘れちゃうんですよねー」
「うえー。帰るのめんどいっス。今日はお泊りで……」
こちらをチラチラとうかがってくるトウコ。
結局入り浸るじゃねーか!
でも、深夜に帰らせるのも危ないか。
しかたない。
「まあ、こんな時間だしなぁ。いいんじゃないか」
「そうですねー」
「うぇーい! やたーっ!」
リンが頷く。
トウコが跳びあがって喜ぶ。
「やめい! 深夜に跳ぶんじゃない!」
「店長もツッコミの声デカいっス!」
おっと。
シモダさんコワさに大声が出たわ。
程度をわきまえんとな!
「トウコちゃん! じゃあお風呂入りましょうかー」
「ういっス! いっぱい汗かいたからベタついてんスよー」
ダンジョンの汚れは外に出れば消える。
砂などの汚れは転送門を通れない。
敵の血は塵になって消える。
でも自分の汗は消えないからな。
「あ、俺も風呂入って寝るか……ん、どしたリン?」
リンがずいっと近づいてくる。
な、なにか?
「すはぁー。いえ、おやすみなさいゼンジさん!」
「……おう? おやすみ」
なぜ深呼吸!?
トウコは早くも風呂の用意をしている。
自宅みたいにくつろぎよる!
「早くお風呂しましょーよリン姉! はよはよ!」
「はーい」
トウコが脱ぎ始め、いたずらっぽい表情でチラリとこちらをみる。
それに気づいたリンが一拍遅れて服に手をかけて――
「んじゃまた明日!」
――俺は急いで自室へ戻る。
ひとりで風呂に入って汗を流す。ふう……。
翌日。
朝食を食べ、トウコはしぶしぶ学校へ行く。
リンはオンライン授業だ。
俺は調べ物をはじめる。
現実のワニについてだ。
ワニの足の速さはどれくらいなんだ?
ふむふむ。
ワニは種類によるが……二十から四十キロ毎時。
さらに足の速いワニなら五十キロ毎時以上か……。
人類最速のトップスピードなら四十四キロ毎時ほどだ。
とうぜん俺は生身でそんな速度は出せない。
人間の平均は二十キロ毎時。
とても逃げれそうもない!
俺は生身では人類最速には到底及ばない。
もちろん日本記録もムリである。
当然だ。俺は陸上選手じゃない。
でもステータス補正を含めれば……。
普通のワニよりは速く動けるか?
きわどいところだ。
環境も不利に働く。
ぬかるんだ川べりでは足を取られて動けないのだ。
川の中なら当然、なすすべもない。
ワニの泳ぐ速度は三十キロ毎時
原付バイクの法定速度である。
勝てるわけねえ!
水の中では確実に負ける。
思えば自律分身は水に浸かってたけど、危険すぎたな。
体を張った偵察だ。
生身じゃあんなマネはできない。
さらにワニには瞬発力もある。これは実際見た。
川から岸に上がってくるのは一瞬のことだった。
水中で直前まで気配を消している。
あれだけの巨体でも目立たずに潜んでいる熟練の狩人だ。
俊敏なウサギですら回避できなかった。
音で察知することもできていない。
対策をせずに川べりに近づいたら死ぬってわけだ。
偵察しておいてよかったな。
川に潜んでいるワニを見つけるのが最初の課題だな。
見つけないことにははじまらない。
これは分身で釣りだせばいいだろう。
自律分身ではなく普通の分身を使う。
おとりにするには便利な分身よ。
システムさんを先行させて魔力を探るのもいいな。
遠くは離れられないが、攻撃される心配はない。
システムさん、ズルい。
まずはワニより先にこちらが見つけないと始まらない。
そして陸に上げる。
これでやっとスタートラインだ。
さて、どう戦うかも考えないとな!




