第五エリアと切り詰めたアレ……!?
エリアの境界の前で俺は立ち止まる。
足元にはハッキリとした境目がある。
目で見てわかるほど様相が違っているのだ。
第五エリアには水がある!
霧のような雨が降っている。
つまり、あちら側は雨季なのだろう。
少し先に土色に濁った川が流れている。
乾燥したサバンナとはうって変わって、草木も枯草色から緑色に変わっている。
「待て待て。入るなよ!」
「フリっスね!? 入ればいいんスね?」
「トウコちゃん待って!」
エリアの境界を超えようとするトウコをリンが後ろから抱きとめた。
「へへ。冗談っスよ! でも抱きしめててくれないと、体が勝手に動いちゃうかもー」
「トウコちゃん落ち着いて?」
トウコはニマニマしながらもぞもぞと動いている。
さてはコイツ……背中の感触を楽しんで……!?
うらやま――けしからん!
「この先は第五エリアだからおふざけはほどほどにしてくれ。慎重にいくぞ」
「わかってるっスよー!」
さらに境界線の向こう側を観察する。
乾燥したこちら側と植物や樹木は似ているが、より生き生きとしている。
遠くに見える『アカシアの木』も様子が変わっている。
葉はみずみずしく茂り、黄色の花が咲いている。
それを見て、リンは目をキラキラさせている。
「あ、咲いてますよ! あの花、食べられるかもしれません!」
「本物のアカシアと同じとは限らないぞ! それに、まだ入らないからな!?」
「わ、わかってますよ!」
リンが頬をふくらませて抗議する。
アカシアの花は天ぷらにして食べたりハチミツが取れたりするらしい。
でもこのアカシアは翻訳の都合で『アカシア』になっているだけだ。
ファンタジー植物なので、どんな毒があるかわかったもんじゃない。
害がないとしても花が食べられるかはわからない。
見た目には色鮮やかできれいなんだが……。
「俺のダンジョンだと五階層には扉があった。いかにもボス部屋って感じになってる。リンは通ったことあるよな」
「たしかに、広くて立派な部屋でしたねー」
リンはボスコウモリとは戦っていない。
リスポーン前だったから五階層は通っただけだ。
「あー! 二人だけズルいっス! あたし行ったことないのに!」
トウコは俺のダンジョンの入り口までしか見ていない。
「今度な。そろそろボスも復活した頃だろうし行ってみようぜ」
「やたー!」
ボスと戦うの嬉しいんだろうか?
俺はけっこう、強敵と戦うのは好きである。
死にたくないので、万全の準備をする前提でだけど。
「ちな、冷蔵庫だと食堂がボス部屋っス。カギをぶっ壊せばいきなりボス戦スけどね!」
「怖そうですねー」
あらためて俺は気を引きしめる。
「この先にはボスがいるかもしれないから、慎重に行くぞ。入ったら出られないとかになると怖いしな」
「ビビりすぎじゃないっスか?」
トウコがあきれたような顔を向けてくる。
コイツ……。
「慎重と言え! お前のダンジョンみたいに閉じ込められたくないんだよ!」
「ははっ。たしかに、そうっスね!」
「だろ。さてと――分身の術!」
俺は分身を歩かせ、エリアの境界を超えさせる。
とくに抵抗なく通り過ぎる。これは今までもそうだった。
今度は分身を呼び戻す。
第五エリアから第四エリアへの侵入も問題ない。
「よし。分身の出入りはできるな。次は俺だ」
「ゼンジさん。その……あぶなくないですか?」
「まあ、試さないことには進めないしな」
俺は手を差し込んで、引き抜く。問題ない。
一歩踏み込んで、半身を残した状態でまた戻る。問題ない。
リンはそわそわとそれを見ている。
俺は体ごと第五エリアに入る。
埃っぽかった空気が湿り気を帯びる。
涼しくはない。むしろじめじめして暑い。
「エリアの移動はいつもと同じ感じだな。戻ってみるが――出られるな」
「そこまでやるっスかねえ……」
「でも、これで安心ですね!」
地味だが重要な検証を終え、これで先へ進めるぞ。
あらためて三人で第五エリアへ侵入した。
「いちおう言っておくが、状況次第では撤退するからな。そのつもりでいてくれ」
「リョーカイっス! うあー。こっちも暑いじゃないっスかぁ……」
「ほんと、暑いわねー」
「店長。どういう場合に逃げればいいんスか?」
「そりゃ、ボスが強そうとか状況次第だな」
勝てそうか。危険そうか。
それは見てみないとわからない。
トウコが手の中に銃を生み出している。
「ちょっと見てくださいよ! レベルが上がってショットガン出せるようになったっス! これで勝つる!」
「お、ついにか。ちょっと見せてくれ!」
「へへー。これっス!」
トウコの手の中に現れたのは銃身の短いショットガンだった。




