モンスターの食物連鎖……弱肉強食の掟!? その2
砂スライムが角ウサギを襲うシーンはそのあとも見られた。
そのたびに俺は結果を観察する。
「店長、こんなの見てなにが楽しいんスか? ここ暑いんスよー!」
トウコは暑そうに手でパタパタと顔をあおいでいる。
ペットボトルの水をごくごくと飲み干す。
喉を伝った水滴がシャツの中へと滑り込んでいく。
「別に楽しかないが……」
俺は興味があるのだ。
モンスターがどう動くのか。
単純に珍しくもあるし。
トウコはつまらなそうにモンスターの争いを眺めている。
飽きちゃってるね。
トウコがシャツをつかんで空気を送り込む。
シャツが張り付いて体のラインがあらわになる。
たしかに、ここは暑すぎる。
「ふうん? ところで、あたしの胸元を見るのは楽しいっスか?」
「――さて、ウサギの観察を続けようか!」
俺は目をそらした。
その先でリンが胸をそらせながらペットボトルを一気飲みしていた。
対抗してんの!?
スライムとは違って、その軟らかいふくらみは擬態も隠密もしていなかった。
「ぷはっ……ど、どうでしょうか?」
「――さて、スライムの観察を続けようか!」
どうもこうも。最高だ!
スライムがウサギを襲っているさまを観察する俺。
リンが不思議そうに問いかける。
「なんでそんなに熱心なんでしょうか。ウサギさんを助けたい……とか?」
「いや、助けないぞ。ただの興味だよ。モンスターの行動を知っておけば役に立つかもしれないだろ?」
別にウサギがかわいそうだから見てるわけじゃない。
モンスターだしな。
攻略のため。ダンジョンの特性を知るためなのだ。
「そうですかー。さすがゼンジさんは真面目ですね!」
「社畜ならぬダンジョン畜っス!」
「なんだよダンジョン畜って!」
サバンナの炎天下。
わざわざモンスターの生態を調査している俺はダンジョン畜かもしれない。
持ち込んだ水でのどを潤す。
リンは涼しげだ。
【モデル】の効果で日差しに強い。便利である。
モデルや女優は汗なんてかかないってやつ。
もっと汗かけばいいのに。
……じゃなかった。
でもモデルでもトイレには行くのだ。リンは確実にトイレに行く。
……本人が言ってたんだ。
俺はトイレに詳しいヘンタイではない!
リンはレベルが高い。いま十九だ。
それは俺よりも前からダンジョンを持っていたから。
ダンジョンに潜る回数が多かったのだ。
これはトイレがダンジョンに変わったためである。
毎日数回、必ずダンジョンに入る。そしてついでに敵を焼き払う。
トイレの邪魔されたくないからね。
俺だってそうする。
トイレがダンジョンになっていなかったら、リンはダンジョンを放置したかもしれない。
好戦的じゃないし、ファンタジーやゲームにも興味が薄い。
でも、こうした切実な理由からモンスターを倒し続けた。
おかげで間引きを行うことにもつながった。
悪性ダンジョンに傾くこともなく、健全なまま維持されたってわけ。
さて、観察を続けよう。
スライムの狩りの成功率は高いようだ。
砂スライムは動かずに待つ。
そして角ウサギが近づいてきたら襲いかかる。
角ウサギは俺の【隠密】にも気づくほどに臆病だ。
なにかの察知系スキルを持っているのかもしれない。
砂スライムも隠れるスキルを持っている。
これはスキル同士の争いなのだ。
生存競争である。
俺の【隠密】よりも砂スライムのスキルが強いわけではない……はず。
環境のせいだろう。
サバンナは明るく見晴らしがいい。人間が隠れる場所がない。
一方で砂スライムは身を低くして砂に隠れられる。
そう。条件の問題だ。
別に俺の【隠密】が悪いわけじゃない!
ほんとうだ。
待ち伏せを回避したウサギが巣穴に逃げ込む。
砂スライムはそれを追っていく。
万事休すか。
「あ、ウサギさんが逃げ切りましたね!」
リンが別の方向を指さす。
俺は首をめぐらせる。
すると入ったのとは別の穴から角ウサギが飛び出してきた。
巣穴の出入り口は一か所ではないんだな。
ウサギは周囲を警戒するようにぴくぴくと耳を動かしている。
スライムは追ってこない。地中で迷ったか、移動速度が違うからか。
今回はウサギの勝利か。
おもむろにトウコが銃を抜き、ウサギを撃ち抜いた。
「うらっ! よし、倒したっス! ――あれ? あたしなんかやっちゃいましたか?」
俺とリンは呆然とトウコを見つめる。
「お、おう。別にいいけど……身もフタもないなお前」
「トウコちゃん……ウサギさん、せっかく逃げたのに……」
「モンスターじゃないっスか! やるっスよ!」
銃弾からは逃げられない。
生存競争である。
諸行無常のことわりだ。
トウコの経験値として生きてくれ。ウサギ。
「あ、でも宝箱の中身はお肉ですよ!」
リンはそれを見て機嫌を直した。
身もフタもない。
リンの栄養として生きてくれ。ウサギ。
こうしてスライムやウサギを狩りながら俺たちは奥へと進む。
「なんだあれ……?」
「エリアの切り替わりですよね」
「あっちは涼しいかもしれないっス!」
エリアの境界に達したことが、俺たちにはすぐにわかった。




