ところで、俺のマフラーを見てくれ。こいつをどう思う?
すごく……ピロピロです……。
「あ、そうだった。忍者マフラーを作ろうと思ったんだった!」
いまは【忍具作成】のレベル1だけ取得した状態だ。
スキル取得はいったん中断。まずはマフラーを作る。
これができたら、つぎに熟練度システムの検証をやろう。
そのあと、スキル取得の続きをやる。
一つずつこなしていこう。
「うーむ。やる事が山積みだぜ」
やりたいことがたくさんある。
素晴らしいことだ!
意味のない仕事はつまらないものだ。
クソオーナーの下で働いたり。
そういうものとは違う。
でもこれは意味のある仕事だ。
意味とは、お金ではない。
なにしろ俺のダンジョンは金にならない。
外にダンジョンの品物は持ち出せない。
だから売ることもできない。
ダンジョンの中で金銀財宝を得ても、大金持ちにはなれない。
金儲けの手段にしたいわけじゃないから、いいのだ。
求めているのはやりがいだ。
誰かに搾取されるものではなく、自分で味わうものだ。
自分で望んで、自分で決める。
やりたいことが多すぎて手が回らないこの感じ。
いや、楽しいね!
これまで趣味ってものがなかった。
今ではもう、ダンジョン探索が俺の趣味なんだ!
山登りだって、そこに山があるから登る。
楽しいからやる。それだけだ。
ダンジョンはお金を生まない。
苦しいことも痛い目を見ることもある。
でもいいんだ。
俺は趣味でダンジョンをやっている忍者だ!
それでいい。
よし! それじゃあ、忍具作成にとりかかるとしよう。
とりあえず試してみるしかない。
【忍具作成】を使おうと念じてみる。
すると、スキルから情報が流れてくる。
不思議な感覚だ。
【歩法】の時と似ている。
頭に直接、働きかけてくる感じ。
言葉ではなく、ふわっとした情報だ。ニュアンスのような……
レベルアップしたときのシステム音声みたいに、明確な文字や声が響くわけじゃない。
スキル取得みたいにウィンドウ表示はされない。
どう使えばいいかの情報が頭に浮かんでくる。
「作りたい品物を強くイメージすればいい……のか」
イメージは具体的であるほどいい。
あいまいだと、品質は落ちる。
「イメージか……」
材料があれば用意して、ベースにする。
材料が足りない分は魔石で補うこともできる。
全く材料がなくても魔石だけで作ることも可能だ。
その場合はコストが増えてしまう。
作成できるのは忍者道具だけ。
それ以外は作成できない。
「マフラーは忍者の装備品だから大丈夫だ!」
大事なことなので、何度でも言う!
マフラーは忍具だ。いいね?
「じゃあ、さっそくやってみるか」
アパートの部屋から持ってきた黒いマフラーを手に持つ。
長さが二メートルに満たない、普通のマフラーだ。
これだけだと少し短い。
逆の手に魔石を持つ。
どれだけ必要かわからないので、今ある分だけ。
三階層で得た魔石はモノリスに貯金してしまったので、手元には帰り道で狩ったゴブリンの魔石が7つある。
足りなかったら、狩りに行けばいい。
作りたい品物を頭に浮かべる。
できる限り詳細に。できる限り強く思い描く。
黒いマフラー。暗闇に溶け込めるよう光を反射しない艶を消した黒。
首に巻いた時に地面につかないギリギリの長さだ。
走るときにはためくイメージ……。
マフラーをつかまれたり攻撃されても首が締まったりしない。
自分で踏んだりしない。動作を阻害しない。
強度は弱くていい。トカゲのしっぽのように千切れる。
あとは……軽く、音を立てない。
漫画やゲーム、特撮に登場する先輩忍者たちの姿を思い描く。
都合のいいイメージをふんだんに盛り込む。
別に実現しなくても構わない。
思った通りにできればラッキー、くらいの気持ちだ。
スキルにイメージを伝えていく。
さあ、頼むぜ!
「【忍具作成】!」
スキルが発動する。
材料と魔石がぼんやりと光を帯びる。
「おおっ」
光が強まって、変化が起こる。
「できた!」
光が収まると、俺の手の中には新たな忍者道具が生まれていた。
長く、黒いマフラーだ。
見た目はイメージ通り。
ベースにしたマフラーの安っぽい光沢は消え、質感のいい黒に仕上がっている。
暗い場所に潜むのにうってつけだ。
「なかなかいいじゃないか……どれどれ」
さっそく首に巻いてみる。
二本の先端が後ろに流れる巻き方だ。
感触はなめらかで、肌に刺激がない。
もとにした安物のマフラーよりもずっと上質だ。
たなびいたマフラーの先端は、立ち上がった時に地面すれすれの長さになる。
しゃがみこめば足元に垂れて地面につく。音は立たない。
ステータスと【歩法】のおかげもあってか、走ったり止まったりしても、自分のマフラーを踏みつけるような間抜けは晒さない。
体にまとわりつくこともなく、絶妙なバランスを保っている。
オシャレのためにちょっとくらい努力はする。
実用性ばかりを求めて、現場系野球忍者になっていた姿を思い出す。
あれじゃあダメだ。
誰にも見られないとはいえ、自分のテンションが上がらないからな。
見た目にもこだわっていこうじゃないか!
「さっそく、お披露目といこう!」
単にマフラーをなびかせたいだけじゃない。
ないったらない!
もう一つの作業も並行させるのだ。
スキルの熟練度稼ぎを兼ねて、ゴブリンに見せつけてやるのだ!
できたての忍者マフラーをなびかせて、ダンジョンを疾走する。
洞窟の壁を、天井を駆け抜ける。
左手を壁にそえてバランスを取る。
三点で身体を支え、右手にはバットを握る。
進路上にゴブリンを発見。
勢いを落とさずに走り寄り、バットをお見舞いする。
「うりゃあ!」
「グエッ!」
くわぁんと、バットがいい音を立てる。
ゴブリンが吹き飛び、塵となる。
【壁走りの術】を解いて床へ降りたつ。
着地した俺に続いて、ふわりとマフラーが舞う。
「ううむ。なかなかいいじゃないか!」
ゴブリンに対してマフラーのかく乱効果は期待できない。
ただの目立つ布だ。
艶消しの黒色で目立ちにくくした、目立つ布だ。
つまり、さりげないオシャレだな。
マフラーは、なかなか気に入った。
【忍具作成】スキルで生み出した第一号の忍者道具だ。
コウモリの攻撃を引き付けるデコイとしての働きを期待している。
普段は忍者らしいさりげないオシャレ感を演出する小道具だ。
安全性もバッチリなはず。
イメージ通りにできていれば、首が締まることはない。
いざという時は、プッツリとちぎれてくれるにちがいない!
マフラーは忍者道具だと思った方! ブックマーク、評価をお願いします!




