草原ダンジョンの調査・第二エリア
第一エリアはスライムしかいないみたいだな。
モンスターも階層やエリアによって住み分けている。
「うす味スライムばっかりっスねー」
色も薄い。味も薄い。
ドロップアイテムも魔石やゼリーばかりだ。
ドロップ率は同じくらい。
「ぜんぜんポーション出ないな」
第一エリアでは出ないか、低確率なんだろう。
ドロップ率もエリアで違うのかもしれない。
俺のダンジョンだと常に魔石が落ちる。
だからドロップ率を考えることもない。
百パーセント魔石である。
魔石を集めてモノリスで好みのアイテムに変える方式だ。
シンプルでいいよね、俺のダンジョン。
コツコツやる俺には最適だ。
第一エリアと第二エリアの境界線を地図に書き込んでいく。
どうやら丘の大木が中心で、そこから離れると第二エリアに入るようだ。
「入り口から離れるとエリアが変わる感じっスねー」
「たぶん、このまま境界線に沿って歩いていくと一周まわるんだろうな」
円のようにエリアが形成されていることになるはずだ。
「回ってみるっスか?」
「いや、広すぎて時間がかかるから第二エリアに進もう。このまま進むと花蜜スライムの群生地だ。地図上でも目印になるから寄っていこう」
地図には境界線の予想を点線で書き込めばいい。
リンのダンジョンは一方向だけじゃなく、周り中に広がっている。
いつもは勝手のわかる同じ方向へ進んでいるだけだ。
今日もまずは同じ方向から地図を埋めていく。
調査がすんだら別の方向を埋めるつもりだ。
モンスターや植物の分布も書き込んでいこう。
食材集めに役立つぞ!
「かみつスライムってなんスか?」
「見たことあるだろ? っていうかのどに詰まらせて死にかけただろ?」
死因、スライムをのどに詰まらせて死亡……になるところだった。
そんな理由で死んでしまうとは情けない!
「ああ……あれがそうなんスね。たしかにワラワラと集まってきて密な感じだったっス!」
「ん……密? 花の蜜でかみつだぞ。密集してる過密じゃない」
草原ダンジョンは屋外だし、ぜんぜん密じゃない。
ここでは俺たちはマスクをしていない。
「へー。そうだったんスね!」
「正式名称じゃないし適当な呼び名だよ。花の蜜で育ったスライムだからそう呼んでるだけだ」
ゾンビの呼び名だって適当だったしな。
正式名称ってわけじゃない。
「正式名称ってどうやってわかるんスか?」
「俺のダンジョンならモノリスに魔石を入れれば推測できるけど……」
モノリスの表示が『ゴブリンの魔石』とか『大コウモリの魔石』となる。
ボスコウモリの正式名称は大コウモリだとわかる。
俺は巨大コウモリって呼んでたけど実際は違うわけだ。
「モノリス……?」
「自動販売機みたいに魔石で買い物できる板があるんだ。入れた魔石に対応したアイテムが選べるから、品物から正式名称がなんとなくわかる」
俺はモノリスの説明をする。
それを聞いたトウコがくやしがる。
「あたしのダンジョンにはそんなのないっス! ズルいっス!」
「ズルいって言われてもな。俺のダンジョンだと死んでも復活できないぞ。時間も外と同じに流れてる。壊れた服も直らない。トウコが俺のダンジョンで戦ってたら普通に死んでたかもしれないぞ」
「あーそれね。ありそうっス」
俺のダンジョンが復活ナシと決まったわけじゃない。
まだ死んだことはないからな。
でもトウコには復活ナシだと言っておく。
油断して死なれては困る。
安全第一。命を大事に!
「ある意味、トウコは冷蔵庫で良かったんじゃないか?」
「それは微妙なところっスねえ……」
何度も死ぬ思いをした。
でも、今ここに生きている。
「おかげでこうして生きてるんだ。俺はよかったと思うよ」
「へええ? それってあたしが居てよかったってことっスか? 大好きっスか!?」
トウコがいたずらっぽく笑う。
スキあらば狙ってきよる!
釣られてやろう。
「ああ。お前が居てよかったよ」
「うっ……急にさわやかな笑顔はズルいっス!」
トウコが赤面してうつむく。
俺はその頭を乱暴になでる。
「だから、ここでも無茶すんなよ?」
「……店長はけっこう、たらしっスね。急にやさしいっス!」
「え? 俺はいつでも優しいだろ」
「ツッコミばっかりであんまりほめてくれないっス! 普通にほめられたいっス!」
トウコは頬を膨らませている。
「ツッコミはご褒美だろ。ヨゴレ芸人にとってはさ」
「……もっと激しくツッコんでっ! ご褒美ほしいっス!」
くねくねと身もだえしてみせるトウコ。
俺は激しくツッコんだ。
「やっぱりヨゴレじゃねーか!」
「へへへー」
トウコは喜んだ。
花蜜スライムの群生地に到着した。
色とりどりの花が咲き誇っている。
この花にはわずかに回復効果がある。
ファンタジー花だ。
単品ではほとんど効果はないが【薬術】で回復アイテムの素材にできる。
スライムもこれを食べることで美味しいゼリーをドロップする。
たくさんの花を食べて消化して、濃縮される。
それにしても、ドロップアイテムの宝箱って仕組みが謎だよな。
スライムならゼリー。ウサギなら肉や皮になる。
その個体の体からはぎ取った感じなんだろうか?
なら、スライムのゼリーはどの部位なんだろう。
生きたスライムの体とは違う。
生スライムを食べてみる勇気はないわ。
あ、でもトウコは口に入れたよな。ていうか入られてた。
「なあトウコ、生きたスライムの味ってどんなだった?」
「味どころじゃなかったっスよ! しいて言えば血の味っスね!」
消化液に焼かれて大惨事だ。
自分の血の味を味わったか……。
うわあ。知りたくなかったな、それ。
「そりゃそうか……味なんて感じる余裕ないよな」
「もしかしてあたしがわざと食べたと思ってるんスか!?」
「そこまでアホじゃないよな。ごめんごめん」
「ちょっと思ってたっスね!?」
花畑の中には踏み込まず、外側に沿って移動する。
地図に書き入れながら、ついでにスライムを狩る。
今回はリンの索敵を頼れない。
数体の分身を先行させて露払いさせる。
一定の間隔で俺たちの前を歩かせ、スライムをあぶりだすのだ。
スライムが分身に張り付いたところを攻撃することで安全に倒せる。
安定のスライム狩りである!
「お、ポーション出たわ!」
「やっとスか! ここゼリーと魔石ばっかっスよねー」
「ここのゼリーは甘くておいしいぞ。……なにしてんだ?」
トウコは口を半開きにしてこちらを見ている。
スキあらば狙ってきよる……。
「あーん。ほら早く口に入れ――むぐっ」
「ほらよ」
俺は色の濃いゼリーを選んで――口中に投擲した。
投げ込まれたゼリーをトウコはかみしめて、表情を緩める。
「あまーいっ! うす味のとは大ちがいっス! もっと! もっとちょうらい!」
「欲しがるなあ……うりゃっ」
俺は次々とゼリーを放り投げた。
高く投げても早めに投げてもトウコはキャッチする。
「緊急回避キャッチっス!」
大きくローリングしながら飛びついてまでキャッチする。
うーん。ステータスとスキルの無駄づかいだな!
でも食べ物は無駄にしない。美味しく召し上がりました!
没タイトルシリーズ
■持ち主とダンジョンの特性って……!?
■スライムの味とご褒美!?




