ファミレス攻略! 日常も戦いだ!?
やたらと現代パートが続く……! スローライフ!
今日はリンの初出勤日である!
俺もトウコも職場のファミレス店に出勤している。
店のスタッフにリンを紹介する。
リンはコック服に身を包んで、恥ずかしげに立っている。
なに着ても似合うな! さすがモデル!
「こちらが俺の知人のオトナシさんです。人手不足なので手伝ってもらうことになった。今日からキッチンスタッフとして働いてくれるから、みんなよろしく」
「その……オトナシリンです。皆さん……よろしくお願いします!」
リンがうつむき気味で挨拶をする。
緊張しすぎて声が小さい。がんばれリン!
声は小さいが、スタッフには聞こえている。
というのも、みんな興味津々で聞いていたからだ。
キシダが驚いた様子で言う。
「店長の言ってた隣の女子大生ですよね? ……実在したんだ!?」
「実在するわ! なんだと思ってたんだよ!」
トウコやキシダには隣の気になる女子大生の話をしていた。
まさか連れてくることになるとはね。
キシダがリンを見て言う。
変な目で見るな!
「いや……うわさ通りスゴイな……」
「う、うわさ……?」
リンが少しひるむ。
いろいろあるんだよ……。
「余計なこと言うな! キッチンのことはキシダが教えてやってくれ。料理はできるから、うちの店のルールとかね」
「わかりました……なんか、やる気でてきたなあ!」
キシダは頷く。表情はゆるい。
トウコがキシダに指を突き付ける。
「キッシー、リン姉はあたしの嫁なんで手ぇだしたらダメっスよ!」
「お、おう」
キシダが微妙な表情で頷く。
「なにそれトウコちゃん……」
リンは少し引いた感じだ。
俺のだ! とは言えないので黙っておく。
ちなみにホールのトウコはメイド服風。
俺は執事風の制服である。
リンはすぐに店の作業をこなせるようになった。
うちはセントラルキッチン方式ではない。
大手のフランチャイズではなく独自の店舗だからね。
店の中で仕込みから調理まで行う。
料理ごとにマニュアルがあるので、誰が作っても同じ味になる。
人によってばらつきがあっては困るのだ。
しばらくして、キシダに様子を訊ねた。
「キシダ。オトナシさんはどう?」
「手際いいですよ。ちょっと丁寧すぎる感じはありますね」
「そうか。ほどほどにするように言っておいて」
店で出す料理はスピード重視である。
ちなみに俺が家で料理するときもそんな感じだ。
揚げたり焼いたり茹でたり。
シンプルでまあまあおいしい料理。
ファミレスとはいえ、料理はほとんどが手作業だ。
レンジでチンして提供とはいかない。
だから効率よく素早く作る。高級料理店ではないのだ。
それでも味は悪くない。
リンはやたら手間暇かけた料理をする。
それは家で食べる料理の作り方だ。
おいしいけどね。
俺は店の様子を少し見て、あとは裏方作業をする。
「店長……じゃなくてマネージャー。ちょっと聞きたいんですが……」
「おう。どした?」
現店長のヤマダさんが俺に声をかけてくる。
俺はマネージャーと呼ばれるようになった。
そういう役職があるわけじゃない。名目上のものだ。
偉いわけじゃない。
責任を増やされて働かされたくないし!
ご意見番とかお手伝いさんくらいの感じでいいのだ。
「席の仕切りのアクリル板が割れちゃって……これ、どこに発注したらいいんですか?」
「それは俺が自作してたんだよ。材料はホームセンターで買ったりしてさ」
買うと高いのである。
「そうなんですか……」
「予備の材料が裏にあるから直しながら説明するわ」
「説明されてもできる気がしませんが……」
ヤマダさんは困惑ぎみだ。
日曜大工は店長の仕事じゃないわな。
誰の仕事だかわからない謎の作業を俺がやりすぎている。
「まあ、たまになら俺が直すけどね。簡単な修理はよろしく」
「がんばります」
ヤマダさんは手順をメモした。
店を立て直すためにできることをヤマダさんと相談していく。
人手不足対策。募集と教育。
スタッフの給料や勤務時間に無理がないようにすること。
営業時間の見直し。朝と夜を短縮営業にする。
思いつく対策はぜんぶやる。
前まではオーナーが却下してきたことも今はできる。
すぐに店が回復するような手はない。
でも手を打てば良くなるはずだ。
いや、良くするのだ!
基本的には今いる従業員を大事にする方針でいく。
新しく雇って育てるよりいいに決まっている。
仕事はマニュアルがあって誰にでもできるかもしれない。
でも誰でもいいわけじゃない。
俺たちは歯車じゃない。代わりなんてない。
人間なんだからな!
問題があって、対策がある。
ダンジョン攻略と考え方は同じだ。
でも倒すべき明確な敵はいないのが難しいところ。
ゴブリンやゾンビよりもよほど戦いにくい。
それでもパンデミックに負けないように頑張ろう!
「店長ー! ちょっと来てほしいっス!」
「打ち合わせ中なんだが、どした?」
トウコがドアからいたずらっぽい表情をのぞかせている。
店長って呼ばれるとややこしいぞ!
「忙しいならいいっスけどー。リン姉にホールの制服着てもらったっス! エロメイドが降臨したっス!」
「すぐ行くわ!」
「あ、私もー」
ヤマダさんまで乗ってきた!
リンはホールの制服を着せられている。
服のサイズは小さめで、合っていない。
布が引っ張られてパツパツである!
「おお……コック服もよかったがこれはスゴい……!」
もっと大きいサイズもあったはずだが、さてはトウコの采配だな!?
けしからん。でかした!
「……ちょっとキツいです。もう着替えてもいいですか?」
「いいっスよ! 次はこっちの執事服で!」
トウコが男性ホール用の制服を持ってくる。
いいぞ! もっとやれ!
でも俺は口では止めておく。
「あんまりオトナシさんで遊ぶんじゃないぞ」
「まあまあ、減るもんじゃないっス!」
「ええ……?」
リンはトウコに服を持たされて更衣室に押し込まれる。
ちょっとしたファッションショーが始まった。
現場の士気が妙に高まったのであった。
忙しさに死んだ目になっていたキシダもこれにはニッコリだ!




