女子大生は相談したい!?
リンは相談事が二つあると言っていた。
朝の時点で一つは聞いた。
トウコの件。
俺がトウコのために死んだり食われたりしたこと。
リンと俺の距離感が遠く感じられること。
ひとまず安心してもらえたはずだ。
で、もう一つは帰ってからということだったんだよな。
「リン。相談事があるんだよな?」
「覚えててくれたんですね! いま、時間大丈夫ですか?」
「もちろんいいぞ」
飯を食い終えたからあとは寝るだけだ。
いくらでも聞ける。
ダンジョンの中では俺は疲れにくい。
【瞑想】して体力回復しているのだ。
徹夜しても余裕である!
朝まで付き合えるぜ!
「トウコちゃんも大丈夫?」
「大丈夫っスよー! 今日は泊ってもいいんスよね? お泊り準備してきたし、学校も直接行けるっス!」
さっきの話を今日から適用するのは酷だよな。
ウキウキで大荷物持ってきてるし。
長期的にズルズルしないなら問題ない。
「ま、いいだろ」
「やたー!」
「明日からはメシ食ったら帰るんだぞ」
「リョーカイっス」
リンが俺たちの顔を見て、口を開く。
「それで相談というか、ご報告というか……」
「うん。聞こう」
「事務所に行って営業さんと話したんですが――」
トウコの家にリンが助けに来たとき、事務所に行くって言ってたな。
「モデルのお仕事を別の形で再開しようって話になりまして……」
「うんうん。前から仕事増やそうかなって言ってたね」
険悪になってしまった元友達とも仲直りできるといいけど。
「でも、ゼンジさんたちとお仕事するなら断っちゃおうかと思います」
「そっか――って、断るの!?」
「はい。公儀隠密のお仕事で忙しくなりそうですし……お金の心配もなくなりそうですし……」
「公儀隠密の仕事は不定期で月に数回くらいだぞ?」
リンは苦学生だ。
家を飛び出してきているのでほとんど自活している。
モデルの仕事でなんとか暮らしていたんだ。
金の問題は公儀隠密で働くことで解決するはずだ。
俺と同じ額がもらえるのかはわからない。
でも、金持ちイケメンサングラスは金をケチらないだろう。
拘束時間も長くはない。
モデルの仕事もできるはず。
でもどうなんだろうな?
リンはモデルになるのが夢とかじゃなくて友達に誘われただけだ。
なら、モデルは辞めてしまっても問題ない……のか?
表の仕事を持つのはいいことだと御庭は言っていた。
俺もそう思う。
学校にしろ仕事にしろ、表の面を持つべきだ。
安定志向の俺。
「ちなみにリン姉。別の形ってどんな仕事なんスか?」
「それが……動画配信のお仕事らしいです。いずれはおうちでも働けるって」
「動画配信者っスか!? くわしく!」
トウコが食いついた。
モデルの仕事で動画配信か……。
「えっと……ファッション系の動画を取るんだって言ってました」
「通販みたいな感じ?」
商品を紹介して売る仕事だ。
日本だとあんまり一般的じゃない気がする。
海外で流行っていると聞いたが……。
企業とタイアップして商品を紹介するなんてのもある。
現時点では知名度のないリンがそういう仕事をもらえるとは思えないけど。
リンは首をかしげて言う。
「いろんな服を着て、それを流すだけみたいです。そんなのでお仕事になるんでしょうか?」
そりゃ、服を着ただけの動画なんて面白くもなんともない。
でもリンが着るんだろ?
雑誌の端っこに乗っている小さい写真じゃない。
動くリンの動画……。見たい!
期待に胸が弾むってもんだ。
「リン姉がいろんな服を着るんスよね! バズるっスよ! あたしが見たいっス!」
「あ、俺もそれ見たいわ。……ヘンな意味じゃなく!」
俺は食いついた。
「え? ゼンジさんも見たいんですか? じゃあやりますね!」
リンが食いついた。
「水着とか下着とかいいっスね!」
トウコも食いついた。
「ないですよ! 営業さんはさわやかな水着とか言ってましたけど断りましたし!」
断られた!
営業さん……。
あんたの目は正しいよ!
グラビアデビューしたら天下を取れる。
脱がなくたって全国目指せる逸材だ。
モデル仲間からのいじめとストーカー事件がなければモデルとして大成できたろう。
すでにここにもファンが二名いる。
熱烈なファン一号は世界から追放されたストーカーさんだ。
街を歩けばすぐに悪い虫がつく絡まれ体質。
フォロワーはあとを絶たない!
成功間違いなしじゃないか!
「えーっ! 見たいっス! さわやかな水着!」
俺も見たい!
……が、言わないでおく。
これ以上の好感度低下は避けたい!
忍ぶのだ……。
「水着はちょっと……。それにマスクありですし……あんまりしゃべらなくてもいいそうです」
「マスクありか。顔隠してファッションの仕事ってできるのか?」
「営業さんは問題ないって言ってましたよ」
営業さん……。
もしやできる営業だな!?
コミュ障で口下手なリンにセールストークなんて無理だ。
それをわかった上でのマスクありしゃべりナシの仕事。
マスクをしていても隠せない魅力があるんだ。
「アリじゃないっスか? ほら、顔をかくして胸かくさずって言うじゃないっスか!」
「言わねーよ! 頭隠して尻隠さず、だろ」
「同じっス! どっちにしろ見えてるっス!」
「意味が違ってくると思うの……」
リンは頭を抱えた。
トウコの猛プッシュと俺の陰からの援護によってリンは仕事を受けることに決めた。
公儀隠密の仕事を優先するように念を押す。
学業もおろそかにしないこと。
俺たちと過ごす時間を減らさない程度に留めることがリンの条件だった。