女子高生はサボりたい!?
いらないリアリティかもしれない。
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2022/09/28 描写を追加
そういえばトウコの処遇も考えなきゃいけないんだよな。
今日もメシ食いに来てるけど、泊っていくんだろうか。
住み着いてしまう。
邪魔ってわけじゃないが、大丈夫かって話だ。
「そういえばトウコ、今日も泊ってくつもりか?」
「そりゃそうっス! ……え、ダメなんスか?」
「ダメじゃないさ。だけど、毎日は違うんじゃないか?」
「ええっ!? なにが違うんスかね?」
「ほら、壊れたキッチンの修理も終わったし冷蔵庫も普通の状態に戻った。家に帰るのは当たり前だぞ」
「えー! 帰りたくないっス! 今夜は帰りたくないっス!」
トウコが涙目で俺にすがりつく。
「今夜ってなんだよ……押し倒そうとするな!」
「いいじゃないっスかー! 減るもんじゃなしに!」
俺はトウコを引きはがす。
そのままトウコはリンにひっ付いていく。
リンが心配そうな顔で言う。
「トウコちゃん、もしかしておうちが怖いの?」
あんなことがあったあとだ。
冷蔵庫のそばにいたくない気持ちもわかる。
だがトウコはきょとんとした顔だ。
「え、コワい? なんでっスか?」
「えっ? 怖くないの……?」
「もうなんともないんじゃないスかね? たまに入って倒せばいいんスよね?」
あれ?
ぜんぜん軽く考えてるぞコイツ……。
怖いとか思わないのかよ!?
「そうだが……。なら、帰れるな?」
「いやっス! だって、つまんないじゃないっスかー! あたしも同棲生活に混ぜてくださいよー!」
「ええ!? そんな理由で帰らないの!?」
トウコはリンにしがみついたままいやいやと首を振る。
リンを揺らすな! もっとやれ!
「トウコちゃん……でも、大丈夫ならよかったね」
リンもちょっとげんなりしている。
なんか、心配が空回ったわ!
「まあ、混ざる云々はさておき……ずっと帰らないわけにはいかないぞ」
「そうよ。ご両親が帰ってきたら心配するんじゃないかなぁ……」
「どうせ親なんて帰ってこないっス!」
トウコの表情が陰る。
声も感情的になっている。
両親は家をかえりみず、トウコを放置しているのだ。
それでも……放任されているとはいえ一定の線引きはいる。
未成年が毎日泊まっていくのは問題がある。
ダンジョンには法律なんて及ばない。
でも、外ではそうじゃない。
「とはいえ……問題になってからじゃ遅いだろ?」
「問題ってなんスか!? あ、あたしが邪魔なんスか!?」
トウコが悲しげな顔で俺を見つめる。
トウコの居場所は俺たちのいる場所だ。
だけど、毎日一緒に住むという意味ではない。
「邪魔じゃないぞ。そういうことじゃなくて――」
「――じゃあなんであたしを追い払おうとするんスか!」
捨てられた猫みたいな顔で、トウコがかぶりをふる。
その目からは涙があふれそうだ。
追い払うつもりなんてない。
ああ、うまく伝わらないな!
前に話している途中で「わからずや!」と言って飛び出したことがある。
俺がクビ宣言された日だ。
トウコは店に一人取り残されていた。俺は閉店作業を手伝いに行った。
俺が仕事を辞めることにトウコは納得できずに飛び出したんだ。
そのときは追いかけることができなかった。
もっと踏み込んで捕まえるべきだった。
「トウコ――」
俺はトウコに手を伸ばそうとする。
びくりと身を震わせて、トウコは後ろにさがる。
後ろから、リンがそっとトウコを抱きしめる。
「――落ち着こうね、トウコちゃん」
「あっ……」
トウコは力を抜いてリンに身をゆだねた。
ちょっと落ち着いたようだ。
リンが捕まえてくれたので今回は話ができる。
リンがいてよかった!
リンに抱きしめられているトウコはおとなしい。
「別に俺も一緒にいたくないわけじゃないんだよ。ほら、毎日ウチに泊まり込むと家出みたいになっちゃうだろ?」
「家出じゃなくてお泊りっスよ!」
「外から見たら同じようなもんだ。ほら、条例とかあるだろ?」
家出少女を家に泊めるような状態になってしまう。
事案発生である。
本人の同意があっても、俺たちがそうしたいと望んでもダメだ。
気持ちの問題じゃない。
トウコの顔に理解が広がる。
「あっ!? それもそうっスね……」
「俺やリンが逮捕されちゃうかもしれないぞ?」
「うぐぐ……それは困るっス……」
「いちおう大人としての責任ていうか、そういうのがあるんだ」
現代は世知辛い。
「それに学校もあるでしょ? ご飯食べたらおうちに帰ろうね」
「学校……? じゃあ休みの日はいいっスよね? ね!?」
トウコは俺とリンの顔を交互に見る。
休みの日なら……友達の家に遊びに来るくらいの感覚だ。
それなら問題ないよな。
「土日ならいいんじゃね?」
「学校が休みなら泊ってもいいんスよね?」
「なぜ二回聞く。いいって言っただろ?」
トウコがガッツポーズでほくそ笑む。
「やったー! もうすぐ冬休みっスよ! 入り浸るっス!」
「……うぐぐ。やりおる!」
もうすぐクリスマス。そして年末年始だ。
学生は冬休みになる。
リンもトウコも当分休みってことだ。
「ご両親にはちゃんと相談しておいてね、トウコちゃん」
「適当に言っとくっス! 気にしないと思うっスけどー」
「いいのかそれで……」
雑ッ! 家への対応が雑である!
「いいんスよ! 帰ってきてほしいときに来ないのに、急に心配してももう遅いっス!」
トウコの家庭大丈夫かよ……。
まあ、そんな環境だからヤバいダンジョンが生まれるのかもなあ……。
家に置いておくのも心配だ。
現代日本の常識よりも、トウコの精神状態が安定するほうが大事かもしれない。
トウコの幸せのほうが大事だ。
今後は無理のない範囲で考えていこう。
「家はさておき……学校はちゃんと行くんだぞ。これは約束しろ!」
「えーっ! 学校なんて意味ないと思うっス!」
口をとがらせてそっぽを向く。
朝も言ったんだがな。
「トウコちゃん。ちゃんと聞いてね?」
「うう。二人してシリアス顔で言われても……まあ、行くっスよ」
ちょっと目をそらしたな。
あやしいぞ。
「行くふりしてサボるのもナシだぞ!」
「うぐっ……」
図星か。
学校行ったふりして制服だけ着てうちに来るとか、やりかねない。
「約束してほしいな。トウコちゃんはできる子でしょ?」
「うぐぐ……あたしはできる子っスよ! 約束するっス!」
トウコが頷く。
俺はガッツポーズでほくそ笑む。
「よしチョロい! ――じゃなかった。えらいぞ!」
「ああっ……はめられたっスッ!」
トウコが大げさに頭を抱えた。
ずいぶん嫌そうだな。
でも、お前のためだからね!
とりあえず学校くらい行けってのが大人としてのアドバイスなんだよ。
「学校で問題があったらすぐ相談しろ。どうしてもつらいことがあるなら無理しろとは言わないさ」
「店長は説教くさいっスねえ……」
でも言わないわけにはいかない。
トウコの人生を狂わせてしまう。
学校も仕事も、どうしても無理なら休んだっていいんだ。
無理のしすぎはいけない。
「ゼンジさんは心配して言っているのよ。私も学校とお仕事をお休みしてたけど……やっぱり行かないとね」
リンはいじめとストーカーのせいで大学をしばらく休んでいた。
引きこもっていたんだ。
学校も友達も仕事も、すべてから遠ざかって社会から消えようとしていた。
引っ越しまでして関りを断ち切った。
いまはオンライン授業だけど学生生活を取り戻している。
仕事も増やすと言っていた。
前に向けて歩き出しているところだ。
「リン姉がそう言うんじゃ、しょうがないっスねえ。ごはんを楽しみに学校くらい行ってやるっス!」
「おう! その意気だぞ!」
「一緒に頑張ろうね、トウコちゃん!」
リンがトウコの手を取る。
「リン姉がいれば頑張れるっスよ!」
トウコは頷いて、二人で励ましあっている。
あれ、俺は!?
説教くさい感じで終わってる気がするぞ!?
……まあいい。
二人の登校拒否児が更生してくれることが重要だ。
病まず、すこやかに頼むぜ!
俺も復職したし、副業もダンジョンも頑張ろうっと!
「わからずや!」のくだりは本作にありません。
スピンオフの「冷蔵庫・オブ・ザ・デッド!」の「責任と激情」にあります。
下にリンクがあるので、ぜひ!