本業と副業と学業……さらにダンジョン業!
ここまでは主に悪性ダンジョンの説明をした。
御庭や公儀隠密のことは、まだ詳しく説明していない。
やはり気になったのか、リンが俺に問う。
「御庭さんは公儀隠密の人なんですよね?」
「そうだ。あのイケメンサングラスがリーダーらしい」
「ゼンジさんはこれから御庭さんの仕事をするんですか?」
「そうだ。俺は公儀隠密の仕事をする。忍者として陰ながら世界を守るんだ!」
あれ、口にすると陳腐な感じがするぞ!?
俺はちょっと照れた。
「でも、危なくないですか?」
リンは心配そうだ。
そりゃそうだな。先に悪性ダンジョンの説明をしたんだし。
「うん。危険はある。けど、間引きでダンジョンに潜るのだって危険だ。なら、味方は多いほうがいい」
「そう……ですね。でも、あの人は信用できるんでしょうか?」
リンもあやしいと思ってるのかな。
どう見てもあやしいよなぁ。
でも話してみれば――
「うさんくさいけど、悪い奴じゃなかったよ。人を助けようとしていることは間違いない」
「そうですか……ゼンジさんがそう感じたなら、きっといいひとですよね!」
「うん。それで公儀隠密ってのは――」
俺は公儀隠密について説明する。
ダンジョンの害を防ごうとする組織であること。
御庭は忍者組織にしたいこと。
条件や給料のこと。
リンやトウコも誘いたがっていること。
「御庭さんはゼンジさんのことをずいぶんと買っているんですね!」
「忍者だしダンジョン保持者だからね。ちょっと気持ち悪いくらい褒められたな」
「褒められて当然ですよ! ゼンジさんの良さがわかるなら、あの人はいい人ですね!」
基準が……。
まあ、褒められて悪い気はしない。
思えばリンは大河さんのことも信じてたよな。
俺の知り合いだからってことか……。
防御が甘い!
甘いのは俺に対してだけにしてくれ!
簡単に詐欺に引っかかってしまいそうだ。
オレオレ詐欺ならぬ、オレ詐欺に!
守ってやらねば!
「ということは私もゼンジさんと一緒に働いてもいいんですよね!?」
「うん。リンを危険にさらしたくはないんだけど……」
リンは首を振る。
その表情に迷いはない。
「ゼンジさんが危ない目にあうのは嫌です! 近くにいて守りたいんです!」
あれ……俺が守るほうじゃないの!?
まあ、リンのほうが強いしな。
お互いを守りあったほうがいい。
安心できるね。
「リンがいいなら……そうしてくれると助かる」
「もちろんやります! ゼンジさんと一緒なら!」
リンが俺の手をがっちりと掴む。
おおう、食いつきがいい!
トウコがその手に飛びついてくる。
ぶんぶんと手を振りながら言う。
「もちろんあたしもやるっス!」
「ちゃんと話を聞いてたんだろうな?」
トウコは自信満々で頷く。
「もちろん聞いてたっス! 悪のダンジョンで敵を撃つお仕事っスよね!」
「そうだが……そう言うと陳腐だよな」
陰ながら世界を守る! よりは現実的に聞こえる。
あれ? 俺のほうが中二病度が高いのか……?
「陳腐で結構っス! それよりお賃金についてくわしく!」
「……お前はお金に困ってないだろ?」
家は金持ちだ。
それにまだ高校生だ。
バイトしているのは金のためじゃなくて居場所を求めてのことだし。
「親の金には困ってないっス! でもあたしのじゃないっスからね!」
「それもそうか」
自分で自由にできる金はあったほうがいいからね!
トウコがもみ手しながら言う。
「で、おいくら万円いただけるんスか?」
「俺の場合で月に百万だ。年収だと千二百万だぜ!」
どうだ驚け!
公儀隠密は金払いがいいのだ!
……詐欺じゃないよな?
「せんにひゃく……!? それ、時給でいくらっスかね……」
「時給で考えんな。店よりアップするのは間違いないぞ」
零細ファミレスは金払いが悪いのだ!
……悲しくなるね!
実際、金銭面の条件は驚くほどいい。
拘束時間も短い。
……でも危険はある。
トウコが手に力を込めた。
金に目がくらんでいる!
「御社に決めましたぁ! 早めの就職活動終了っス!」
「うわぁ……お前、人生の進路を即決すなや!」
大学に行くという選択肢もある。
公儀隠密なんてあやしげな仕事で大丈夫か?
いや、俺もそうなんだけどさ。
俺はさんざん考えて決めたんだよ。
でもトウコは悩んでいる様子はない。
即断即決だ。
「悩む理由なんてないっス! 今やりたいことやるんスよ!」
「言い切りよる……!」
まあ断る理由もないかな?
どうせトウコは冷蔵庫と付き合っていかなきゃならないし。
「あたしは店長とリン姉と一緒がいいっ! それがあたしのやりたいことっス! ついでに世界も救ってやるっスよ!」
「世界はついでかよ!」
いいのか……そんな動機で。
動機がどうであれ、敵を倒せば害は減る。
行動を起こせば結果がある。
問題はないんだけど……。
「ついでっスよ! だって、誰もあたしのことを助けてくれなかったじゃないっスか! 来てくれたのは店長とリン姉だけ。あたしにはそれだけが大事っス! だから、あたしも店長とリン姉を助けるっス! そんで、ついでに世界も助けちゃうっスよー!」
トウコはへらへらと言ってのけた。
家庭にも学校にも居場所がなかった。
公儀隠密は悪性化したらセオリー通りに処理しようとしていた。
犬塚さんは変異者だとわかったら始末しかねない勢いだった。
もし手遅れになってダンジョンが悪性化したなら、世界はトウコを切り捨てただろう。
――救いがない。
人々からも世界からも見捨てられていたんだ。
そのトウコが人々を守ろうとか世界を救おうと考える義理はない。
俺はなにか説教じみたことを言おうと思ったが、うまい言葉が見つからない。
「そっか。じゃあ一緒に頑張ろうな」
「三人一緒がいいですよねー!」
「でしょでしょ!」
リンが笑顔で頷く。
リンも世界や人々がどうとか考えてないのかもしれないな。
俺が真面目に考えすぎなのかもしれん。
いや、俺くらいは考えなきゃいかんな。
「んじゃ、決まりだ。御庭には連絡しておくよ。なんか条件とか聞きたいことある?」
「三人一緒でないとだめですよ!」
「もちろん、言っておくさ。それは絶対の条件だ!」
「あたしにもお賃金出るっスよね!」
「出るだろそりゃ」
バイトじゃあるまいし高校生不可ではないだろう。
交渉は必要だろうけど、それはあとで。
トウコは小躍りして喜んだ。
「やったー! おちんぎんっ! おちんぎんっ!」
「ソレ、言いたいだけだよね!?」
悪ノリしよる。
そういうの、リンは疎いからな。通じないぞ。
「リン姉もご一緒に! おちんぎんっ!」
「おちん……」
「やめい! いわすなや!」
真面目なリンを汚さないでくれる!?
ご意見ご感想お待ちしております! お気軽にどうぞ!
「いいね」も励みになります!




