最大効率の狩り……二兎を追う者は二兎を得る!
編集履歴 2022/09/22
描写を追加(既読の方は読み直す必要なし)
さて、気を取り直して狩りである!
「あそこよ、トウコちゃん!」
「うらっ! ――命中っス!」
「宝箱の中身は……お! 肉だ!」
宝箱の中にはウサギの塊肉が入っている。
スーパーで売っているようなサイズ感だ。
それを見てトウコががばっとリンを振り仰ぐ。
「成功っ! どうスか!? あたしもやればできるっス!」
「うん! えらいよ。トウコちゃん!」
トウコの銃撃無双により、ウサギ狩りはサクサク捗った。
リンの魔力検知による索敵で草むらに隠れるウサギを発見する。
トウコが銃撃する。敵は死ぬ。
俺の分身がせっせと宝箱を回収する。便利で安全だ。
効率的な狩りのコンビネーション!
【弾薬調達】をオンオフすることで弾丸と肉を交互に手に入れる。
これで弾薬は実質無限だ。
弾切れを気にせず撃ち放題のボーナスステージ!
俺は戦わずに見ているだけ。実に気楽だ。
もちろん遊んでいるわけじゃない。
なにかあれば【入れ替えの術】で対処できるように構えている。油断はない。
【引き寄せの術】を使えばウサギを引き寄せて倒すこともできる。
そういう狩り方法も考えていたが、今回は必要なさそうだ。
銃で撃つというシンプルな方法が最適だろう。
トウコのレベルも上がって一挙両得!
二兎を追う者は二兎を得る! 両取りだ!
しばらく続けていると問題も出てくる。
「うーん。狙える奴がいないっス!」
「みんな逃げちゃいましたねー」
「ふむ。ちょっと考えてみるか……」
銃声を聞いてウサギが巣穴に逃げ帰ってしまうのだ。
移動しながら狩ればいいが、効率は落ちる。
――というわけで、手順を改善していこう!
「その辺の草とウサギのフン……魔石とトウコの弾丸を少々――忍具作成!」
煙玉の完成だ。コストは安い。
現実素材で作るより簡単だ。弾丸が万能素材である!
御庭は銃がダンジョン内で使えないと言っていた。
トウコの銃と弾丸はスキルで生み出されたものだから例外なのだろう。
「ウサギが逃げこんだ巣穴にこれをぶち込んで、っと」
地面に開いた小さな穴――巣穴にモクモクと煙が満ちる。
「キュウゥッ!」
涙目のウサギが飛び出してくる。
飛び出した勢いのまま、角を突き出して突進してきた。
狙われたのは煙玉を投げ込んだ分身なので危険はない。
分身が串刺しになるより早く、トウコがそれを狙い撃つ。
「――そこっス!」
「ウッ!」
これで、銃声と巣穴の問題も解決だ!
「よし! 充分な肉が集まったな」
「保冷バッグも満杯です!」
ドロップしたウサギ肉は、リンがひとつずつラップで包んでいる。
一食では食べきれないほどだ。
冷蔵庫がないし、持ちだせないから取りすぎても仕方がない。
それでも拠点に置いてあるクーラーボックスに入れれば数日は持つ。
電力は無理でも、冷えた保冷材は有効だ。
食べ物は無駄にしない。食べる分だけ狩る。
それがこのダンジョンの暗黙のルールだ。
角ウサギの肉、皮、魔石が大量に手に入った。
角は一本だけだ。レアだね。
「この角って、なんに使うんスか?」
「システムさんが言うには素材らしいけど、使い道はわからん」
「誰っスか?」
システムさんは基本は見えない設定だ。
リンが空中に目線をやって言う。
「いま見えるようにしますねー! これがシステムさんですよ」
リンの視線の先にハチマキを巻いたタコウインナーが現れる。
ふよふよと浮かんでいる。
見た目はあれだが【サポートシステム】というスキルの可視化された姿だ。
鑑定や索敵、魔法の補助まで行う万能マスコットである!
「うわっ! ヘンなの出たっス!」
「ヘンって……かわいくないですか?」
「微妙っス……」
<――リン。不評のようです。アバターを変更しますか?>
「うぇっ!? タコがしゃべったっス!?」
電子的で中性的な声でシステムさんが答える。
これは肉声として耳に聞こえている。
コミカルな見た目に反して、事務的な声だ。
「システムさんも不満げな感じしないか?」
「えー? かわいいですよ! アバターはこのままで!」
このやり取りも二回目だが……断固として変更する気はないらしい。
まあ、気に入ってるならいいんじゃないの。
「あ、せっかくだからシステムさんに聞きたいことがあるんだ。リン、通訳して」
「はい」
トウコが首をかしげる。
「通訳ってなんスか?」
「俺の言ったことをそのまま聞き直すってことだ」
「ゼンジさんの言ったことをシステムさんに伝えるだけですよー」
「なるほどっス!」
リンがくり返すように言う。
いや、トウコには直接でも伝わるわ!
「あくまでもリンのスキルだから、俺が聞いても答えてくれないんだよね」
「システムさんは私の質問にしか答えてくれないんですよー」
「そうなんスねー」
止めないとずっと続くのかなコレ?
面白いからそのまま様子を見よう。
リンもトウコも自然に会話してるけど、違和感を覚えないのかよ。
「リン、悪性ダンジョンってなにかシステムさんに聞いてみて」
「悪性ダンジョン? て、なんですか?」
リンは初出の単語に疑問を覚えながらも、そのまま聞く。
<不明です。または、権限が不足しています>
やっぱり答えは返ってこないか……。
そりゃそうだろうな。この用語は御庭たちが呼んでいる用語だ。
ダンジョンの公式な呼び方じゃない。
質問を変えてみよう。
「ダンジョン内で死亡するとダンジョンの持ち主はどうなりますか?」
<不明です。または、権限が不足しています>
「ダンジョンには持ち主がいますか?」
<類似の条件で回答します――ダンジョンには管理者が存在します>
おっ!?
珍しくシステムさんが融通をきかせたぞ!
やはりダンジョンには持ち主……つまり管理者がいるんだ!




