表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

289/1461

晩御飯はダンジョンで!

編集履歴 2022/09/21

描写を追加(既読の方は読み直す必要なし)

 御庭とナギさん。

 大河さんと犬塚さん。


 案外、世の中には異能者がいるんだなあ。


 これまでの俺はそうと知らずに暮らしていた。

 隣に住んでいるリンがダンジョンを持っていることすら知らなかった。



 御庭の話では悪性ダンジョンは日々生まれている。

 犬塚さんの仇は人を犯して動物を殺して食うらしい。


 思ったよりもこの世界は危険に満ちている。

 そしてそれは隠されている。



 考え込んでいた俺の顔をリンが覗き込む。

 距離が近い!


「どうしたんですか、ゼンジさん。難しい顔をして」

「いやあ……考えることが多くてね」


 話すべきことがいろいろある。


 悪性ダンジョンのこと。冷蔵庫や自分たちのダンジョンの間引き。

 世界による隠蔽のこと。知らないと危険だから重要度は高い。


 公儀隠密に加入したこと。臨時収入を得たこと。

 金銭的な問題はほとんど解決してしまうだろう。


 今後のトウコの生活や立ち位置も話しておくべきか……。

 今日も晩飯食いに来ているけど、このまま毎日そうするのか?


 トウコが俺の視線に気づいて振り返る。


「ん? あたしの顔になんかついてるっスか?」

「鼻にクリームついてるぞ」


 俺はトウコの鼻の頭についたクリームをティッシュで(ぬぐ)う。

 くすぐったそうな表情でトウコが言う。


「こういうときは指ですくい取って()めると高ポイントっスよ!」

「そんなことするの漫画のイケメンだけだろ!」


 それをやっていいのはイケメンに限る。

 衛生的(えいせいてき)に大丈夫なのかよって話でもある……!


 リンが顔を赤らめてぷるぷる震えながらこちらを見ている。 


「で……リンはなにしてんの!?」

「え? わ、私のクリームがなにか?」


 さっきまでついていなかったクリームが鼻についている。

 わざとつけたよね!?


 俺はティッシュで拭い去る。

 リンはがっかりした表情を浮かべる。


「あっ……」

「しないよ! 指ペロなんてしないよ!」


 期待しても無駄である!


 なぜかトウコもがっかりしている。


「ああ……あたしがペロペロしたかったのに店長、ひどいっス!」

「ええ……? っていうか、他に話すべきことがあるだろ! ケーキはもういいよ!」


 話が進まんぞ!

 リンが俺の話を引き取るように言う。


「そうですよ! いま考えるのは晩御飯のことですっ!」

「そうそう! 晩御飯の話……うん?」


 リンが当然のように宣言したのは、晩御飯のことだった。

 思ってたのと違う!



「リン姉、今日の晩御飯はなんスか?」

「それが……お客さんが来ちゃったから準備できてなくて……どうしようゼンジさん?」


 リンが俺のほうに困った顔を向ける。

 俺も晩飯の準備は考えていなかったな。


 適当にありもので作ってもいいけど……。

 今日は話ばっかりしていたから、そろそろ体を動かしたい!


「んじゃ、ダンジョンでウサギでもとって食うか!」

「いいですね! そうしましょう!」

「ウサギ? モンスターを食べるんスか? 美味いんスか!?」


 そういうわけで、草原ダンジョンで狩りをすることになった。



 トウコが草原ダンジョンの入り口――トイレへと向かう。

 俺はそれを引き止める。


「んじゃ、さっそくいくっスかね!」

「ちょっと待て、その格好でダンジョンに潜るつもりか?」

「え、ダメッスかね?」


 トウコが自分の服装を確認している。

 学校の制服姿だ。

 別におかしな格好ではないが……ダメなのだ。


 冷蔵庫ダンジョンなら服もケガも外に出れば元に戻る。

 でも、草原ダンジョンだとそうはいかない。


「ここでは汚れたり破れたら直らないんだ。ボロボロの制服着て帰るとか、絵面(えづら)がやばいだろ?」

「ヤバいっスねえ……! なんかエロいっス!」


 俺の部屋からボロボロの服を着た女子高生が出ていくのは困る。

 世間体ってやつがあるんだ。

 リンの部屋のドアから出たとしても、どっちにしろダメ。


「私の服でよければ貸しましょうか?」


 リンが申し出る。トウコはそれに飛びつくように答える。


「あ、お願いするッス!」

「じゃあ、私の部屋で着替えてきましょう」

「一緒に着替え……脱がせっこするっス!」


 手をワキワキさせて鼻息を荒くするトウコ。

 リンはスルーした。


「では、すぐ戻りますので待っててくださいね。ゼンジさん!」

「おう、待ってるわ」


「店長、のぞいちゃダメッスよー」

「誰が覗くか! はよいけ!」


 二人はリンの部屋へと向かう。

 ……覗かないぞ。



 俺も準備を整えるとしよう。

 俺はクローゼットからダンジョンに入る。


 俺のメイン装備はクラフト済。ダンジョン産のアイテムという扱いになる。

 忍者刀などの装備は持ち出せないのだ。


 これも世界による隠蔽の力……あるいはそれに似た力だろうか?

 それともダンジョン側が出さないようにしている?

 どっちもありそうだな。


 システムさんは「規格が異なる。または持ち込み、持ち出し制限されている」と言っていた。

 どっち側が制限しているのかはわからないな。


 忍び装束は持ち出せないので、洋服のままだ。

 冷蔵庫と違って、今回は準備して武器も持ち込める。

 普通の品物なら持ち込み自由だ。


 腰袋にナタを吊る。

 手裏剣にするクギも充分な量を入れておく。


 忍者刀やクナイが持ち込めればいいんだけどなぁ。

 そろそろ草原ダンジョン用の装備も整えたい。


 ホームセンターや通販で物資を買いあさるか。

 買えるだけの金は手に入ったし、爆買いしてしまうか……?


 ダンジョンの拠点化計画も進めたいな。

 俺のダンジョンは洞窟風で住みにくいから、もっと整備したい。

 やりたいことが渋滞してくるぜ!


 住みやすいリンのダンジョンをもっと充実させるのもいい。

 狭いアパートの部屋で暮らさず、ダンジョンで寝泊まりしちゃえばいいんじゃないの。

 毎日キャンプ生活だ。きっと楽しいぞ!


 アパートの部屋じゃ、騒音に気を使って過ごさなくちゃいけない。

 でも気を使えないからな、トウコは。

 騒ぐなと言っても無理である。


 うーん。アリだなキャンプ生活計画!


 自分のダンジョンより先に人のダンジョンを整備するのも変な話かもしれないけど……。

 あとでリンに相談してみよう。希望を聞こう。


 遅いな二人……。

 隣の部屋からは楽しげな声が聞こえてくる。


 ……覗かないぞ!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ