甘いケーキとクローゼットの秘密!?
大河さんが犬塚さんをなだめるように言う。
「まあ落ち着けよ姉さん。兄ちゃんがひきつってるぜ」
「あァ? ああ……そうだな。別にアンタに怒ってるわけじゃない。すまねーなァ」
犬塚さんは落ち着きを取り戻し、そっぽを向いて謝る。
案外素直だった!
「ところでアンタの持ってるソレ、いい匂いするじゃねーかァ!」
案外目ざとかった!
いや鼻が利く!
リンたちと食おうと思ったんだけど、いいか。
なんせ金はある!
心が豊かになるぜ! 奢ってやらあ!
俺はケーキの入った袋を掲げて言う。
「ケーキ買ってきたんだ。せっかくだし、食います?」
「おお、そりゃいいや! 食わせてもらおうぜ、姉さん!」
「話がわかるねェ!」
二人ともハラペコなのかよ!
もう晩飯時だしな。
俺も腹が減った。
空気もちょっと和んだしヨシ!
リンにケーキを手渡す。
「わあー! これ、駅前の美味しいお店のですよね!? 私、切り分けてきますねー」
リンは大喜びでキッチンへ向かう。
買ってきた甲斐があったぜ!
「俺はコーヒー淹れるかな」
紅茶のほうがケーキには合うかな?
でも俺はコーヒー派だ。
「あ、兄ちゃん。トイレ借りていいか?」
大河さんが手を上げる。
リンの部屋のトイレはダンジョンだからダメだ。
壁の穴――俺の部屋を指さして言う。
「じゃ、俺の部屋のトイレを使ってください」
「おう! ……しかしこの穴、なんなんだ?」
大河さんが怪訝な顔で俺の部屋に通じる大穴をくぐっていく。
大家にバレたら追放間違いなしの穴である。隠蔽せねば。
「じゃ、アタシはこっちを借りるよ」
二人ともトイレ我慢してたのかよ!
振り返ると、犬塚さんがトイレのドアに手をかけている。
リンが制止の声をあげる。
「あっ! そっちは……!」
「あァ? ダンジョンがあってもアタシは入れないから関係ない。借りるぞ!」
犬塚さんがトイレのドアをくぐると普通にドアを閉めた。
ダンジョンに引き込まれるような動きは起こらない。
「えっ?」
リンが不思議そうな顔をしている。
俺はさっき御庭から聞いた話を伝える。
「ダンジョンを持ってない人にはダンジョンは見えないし、触れないんだって」
つまり犬塚さんはダンジョン保持者ではなく異能者ってことだ。
トイレ判別法!
これは便利かもしれないぞ!
ダンジョンはダンジョン保持者にしか見えないし入れない。
だから判別に使える。
あやしい奴はとりあえずトイレに誘い込め!
……いやいや、いろいろムリあるな。
「ええと……トイレはなくなっちゃったんじゃなくて、あそこにあるってことですか?」
「そうらしい。ってことは俺のクローゼットの中身もあるのか……」
俺たちはクローゼットの中身に触れられない。
ダンジョンに入ってしまうからだ。
だけど、そこにあったものは消えていないってことだ。
トウコの冷凍庫の中身はいずれ腐っちゃうんじゃないの?
冷凍庫は電気が通っているのにダンジョンなんだよな。不思議だ。
「じゃあ、クローゼットの中身を出してもらうように頼んじゃいます?」
「いや……そんなことを頼む間柄じゃないだろう」
「そうですかー? いい人たちですよ」
リンは大河さんと犬塚さんのことを好意的に見ているようだ。
トウコを助けに駆け付けるときもリンに味方してくれたしな。
俺から見ても、味方に近い立ち位置ではある。
でも、トイレ掃除とかクローゼットの中身を出して欲しいと頼むほど親しくはない。
犬塚さんに中身を取り出してもらうのはナシだ!
俺のクローゼットの中身は腐るものは入っていない。
しかし……アレな本とか含まれる。男子の秘密である!