豪遊! 数千円で買える幸福!?
編集履歴 2022/09/16
仕事の描写を追加(既読の方は読み直す必要なし)
御庭たちと別れて、店に向かう。
金はあるので働く必要はない。
だけど店は守る。
かつての俺の職場であり、トウコにとって大切な居場所だ。
金の問題じゃない。
新店長のヤマダさんと打ち合わせ。人員配置や今後の方針を話し合う。
店長の業務や店の運営についての引継ぎをする。
これは一朝一夕で終わるものじゃない。
うちの店はオーナーが無能なので店長の負担が普通より大きい。
オーナーは反省の色を見せたけど、あてにしてはいけない。
むしろ何かをやらせるとそれが足を引っ張ることになるだろう。
ソフト追放だ。
オーナーは君臨すれども統治せず!
傀儡政権樹立である!
もうけはスタッフに還元していくのだ。
ブラック労働を排して、働きやすい環境を作る!
ヤマダさんは社員待遇になってヤル気十分だ。
きれいな字でメモを取って、俺の言葉に頷いてくれる。
書類の整理をする。
とくに経理や給与に関する手続きを重点。
急いで処理しないとスタッフが困る。俺の給料も振り込まれない。
いつもは店のフロント系――ホールやキッチンをこなしてから業務後にやっていた作業だ。
かつての俺の作業量、ムリゲーだぜ!
集中してバック業務ができると捗るね!
うむ。時間が経つのが早い!
もう夕方だ。さっさと帰ろう!
「んじゃ、帰りますね!」
帰ろうとする俺をヤマダさんが二度見した。
珍しいものでも見るような顔だ。
「店長……じゃなくてクロウさんが私より先に帰る違和感がすごい!」
「はは……。ヤマダさんも無理せずやってください。俺は悪い例なのでマネしないように!」
法律とか人権とか守られてない系の中間管理職はダメである。
自分が嫌なことを他人にさせてはいけないね。
引継ぎはするけど、悪習は断つ!
「クロウさんのマネなんて、できるわけないじゃないですか!」
全力で否定された!
この調子なら安心だな!
「んじゃ、おつかれ」
「お疲れ様ですー!」
店を出る。
まだ太陽が出ている……。
夕日に照らされた駅前通り。
パンデミックの影響で人出は少ない。
それでも年末に向けて少し華やかな空気が漂っている。
普段は素通りするケーキ屋をのぞく。
クリスマスケーキの予約受付中! と大きなポスターが貼りだされている。
「はは……クリスマスか」
俺は暗い笑みを浮かべる。
クリスマス……店は忙しくなるし、バイトは休みたがる。
もちろん俺は休めない。
呪いのイベントだ。
だが、俺の黒き呪いは解けたのだ!
帰ってもいいんだ! 無理に働かなくていいんだ!
自由だ! そして金もある!
ケーキを食ってもいい! おかわりもいいんだ!
「いらっしゃいませー」
元気な声が入店した俺にかけられる。
殺伐としたダンジョン浸りな俺にはちょっと場違いな空間だな。
「……悩むなぁ」
俺はショーケースを眺める。
純真無垢なるショートケーキか?
大きな栗の乗ったモンブランか……?
黒光りするチョコレートケーキも捨てがたい……!
俺は選んだケーキを指さして注文する。
「モンブラン……と、チーズケーキをください」
「おいくつですか?」
「ホールで! ふたつとも!」
ふはは! 迷うなら二つ買ってしまえばいい!
金はあるんだ!
一緒に食う相手もいるんだ!
俺はいま、今年一番のイキりをみせている。
……落ち着こう。
会計を済ませて店を出る。
店員がやたらと微笑まし気に見送ってくれた。
ううむ……顔に出ていたかな。
ケーキをぶら下げて、家路を急ぐ。
朝はリンとイイ感じだった。
さあ、朝の続きをしよう。
おかえりのハグは夜の抱擁だ!
ダンジョンで検証しよう!
吸着と反発が生身でも発動するかを!
アパートの階段を駆け上がる。
足音は立てない。忍び足だから苦情も来ない!
日常生活に役立つ忍者スキル!
邪魔は入らないぜ。
……ん?
玄関のドアに手をかけたところで、リンの部屋から男の声が聞こえてきた。
次回、NTR展開!?
ないない。