ホワイト忍者は条件について話したい! その2
「それ以外の制限とか条件はありますか?」
「特にないよ。目立った行動を取らないのは当たり前だね」
どっちにしろ、目立てば禁則事項に触れる。
そもそも俺は目立ちたくないし。
基本はインドア派……インダンジョン派だからね。
「制限がないってことは、大河さんたちと関わってもかまわないってことですか?」
「彼らと関わるのはトウコ君の保護の件で協定済のことだしね。避けられない。君のほうで仲良くしておいてくれると僕らもやりやすいね」
他の集団と関わるのは嫌がるかと思ったけど……。
「あれ? いいんですか」
「友好的であるべきだと思っている。もともと敵ではないからね。立場は違えど悪性ダンジョンへの対処については一致している」
彼らも特別な力を持っている。
大河さんは防御力に関連する能力。
長身の女は匂いに関係する能力のようだった。
敵じゃなくてよかった。
いや……そもそも仲間だったりするのか?
「彼らは特異対策課の別チームってことですか?」
「いや、違う。彼らは旧家の関係者だ。僕らとまったくの無関係ではないけど、別の組織、別の団体だね」
「旧家……? また知らない単語が出てきたなぁ」
ちょっと、考えることが多すぎる。
御庭は大河さんたちが旧家の関係者だと知っていた。
昨日の時点で素性がわかっていた?
うーむ。
「ま、それはおいおいね。他に条件は? 細かい要望はあとでも聞けるけど」
「細かい条件はあとで。あと気になるのは報酬ですね」
「メリットについては前に少し話したね。情報もそうだ」
「情報はお腹いっぱいいただきましたね」
今日はもう満腹だよ。
でも聞きたいことは増える一方だ。
少し聞くと、新しい情報がどんどん出てくる。
知れば知るほどに渇いていくみたいだ。
「君はお金に執着がなさそうだけど、仕事を頼むときは充分な報酬を支払う。ケチってもろくなことはないからね。希望するなら住む家も提供できる……けどクロウ君の場合はダンジョンがあるからね」
危険はあるけどやりがいのある仕事。
充実した福利厚生。
下世話な話、あとはお金がどうかだな。
「金銭的な報酬ってどれくらいですか? 数字で知りたい」
「出動回数にもよるから前後するけど、最低でも月に百万円は保証する」
「百万……? なんかざっくりしていますね」
俺は冷静を装って答える。
思ったより多かった!
年収一千万超えるぞ!?
命を賭けるから、高くはないのか?
薄給ブラック社員の感覚からすると、動揺するくらい高いけど。
金銭感覚が狂うな。基準がわからなくなる。
確かに金に執着がなかったかもしれない。
具体的な金額は考えていなかった。
自分の命や技能の価値を考えていなかった。
妥当なんだろうか?
わからん……。
「足りなかったら言ってくれればいい。お金なんて重要じゃないからね。さて、これは契約金というか、準備金みたいなものだ。受け取ってほしい」
御庭が懐から封筒を取り出す。分厚い。
俺が手を出す前に、テーブルの上に置いてしまう。
俺はあやしいものでも見るような目を向ける。
「これは……現金?」
「二百万円ある。なんと税金のかからないクリーンなお金だ。自由に使ってほしい。別にそれで縛りはしない」
ポンと出しよる。
税金がかからないだと……!?
非合法忍者組織……恐るべし!
「おお……。なんか普通に、スゴイな公儀隠密!」
「お金の価値なんて、それだけのものなんだけどね。でもわかりやすいでしょ?」
「確かにわかりやすい。なんか現実的な感じになった……。普通に頂いておきます」
金で信頼は買えない。だけどモノは買える。
たとえば時間も買える。
働く時間が少なくなれば、ダンジョン攻略する時間が増える。
金で買えないものはいろいろある。
愛は金で買えない。幸せは買えない。
でも、大切な人と過ごす時間は買えるんだよね。
大事なのは使い方だな。
金だけあってもしょうがない。
金がなくても暮らせない。
うーん。哲学。
俺はずしりと重く感じられる札束を受け取った。
金に釣られるわけじゃないけど、貰えるんならありがたいね!
「よし! 契約は成立だ。改めて、これからよろしくね。クロウ君!」
「お手柔らかにお願いします!」
口約束だが、お互いに破ることはないだろう。