ホワイト忍者は条件について話したい!
編集履歴 2022/09/16
表現やジェスチャーの追加(内容は同じ)
公儀隠密という組織や悪性ダンジョンについては理解した。
これで、職場と仕事内容がわかった。
次は待遇と条件の話だ。
「それじゃあクロウ君が公儀隠密で働く条件について話そうか……」
御庭のテンションはまだ低い。
「まず、俺たちの保護です。俺、リン、トウコのことです。敵対的な勢力からの保護や、生活が脅かされないようにしてほしい」
俺が求めたいのは安全の保障である。
公儀隠密に所属することは別グループの敵になる可能性がある。
それに、忍者バレして普通の生活が送れなくなるのは困る。
隠蔽があるから、一般人にダンジョンのことはバレない。
だけど、異能者には知られる可能性がある。
完全な保護はムリだとわかっている。
それでも、できる限りの保護は求めてもいいだろう。
御庭は頷く。
「それは仲間として当然のことだ。ほかのメンバーも同様に保護しているよ」
「とくにトウコのことを配慮してほしい。変異だとか、なれの果てだとか言って変な目で見られたくない。御庭さんのチーム内であってもね」
俺は御庭をじっと見る。
御庭は俺の目を見返す。
「それはメンバーに言い聞かせておく。でもトウコ君の面倒を見るのはクロウ君の仕事になる。もちろん、きちんと管理するんだよ」
「もちろん面倒は見ます。他の誰にも任せられない」
俺以外の誰かがトウコの面倒を見ると言っても、断るだろう。
目の届くところに置いておきたい。
御庭であれ大河さんであれ、人任せにできることじゃない。
御庭は俺の目を見続けながら言う。
その目は強く問いかけている。
「変異したときは、わかっているね?」
「そのときは俺がカタをつける。その覚悟はできています」
俺は断言する。覚悟を決めて強い意志を目で示す。
冷蔵庫で俺がどうしようもないとき、トウコは俺にカタをつけた。
その決意を俺が持てなくてどうする。
「さすがだね。一晩でそれほど決意が固まるとは思わなかった。なにかあったのかな?」
「それは、秘密にしておきます」
御庭が頷く。
忍者に秘密はつきものだからな。
お互い、あまり探らない。
「そうかい。他に希望する条件はあるかな?」
「特別な条件としてはこれだけですね。質問はいろいろあります。たとえば仕事はどうやってはじめるんですか?」
悪性ダンジョンへの対処が主な仕事だ。
どのくらいの頻度で、どうやって集まるんだろうか?
「必要なときにはこちらから連絡する。普段は自由にしていてくれて構わないよ」
「フルタイムで働く忍者になるわけじゃないんですね」
出勤自由。拘束なし。
呼ばれたときだけ働く感じか。
「フルタイムを希望なのかい?」
「いえ、ぜんぜん」
「だよね。君は自由にしていたいだろうし」
当然そうだ。
あくまで公儀隠密は副業だ。
俺のメインは自分のダンジョン生活だ。
いちおう、店の仕事もあるけどこれは副業以下だな。
史実の忍者も副業や表の顔を持っていたという。
農民だったり薬売りだったりする。
ほとんど忍者としての仕事をせず潜伏していたりね。
場合によっては潜伏したまま動かないこともある。
忍者に副業はつきものだ。
「元の仕事……普通の飲食店の仕事をちょっとやる予定だけど問題ないですか?」
「表の仕事を持つのはいいことだ。こちらの仕事を頼むときに抜けれる程度にね」
どっぷり仕事に戻る気はない。
引継ぎや手伝い、補佐みたいなもの。本気の復職じゃない。
公儀隠密の仕事は人命に関わる。優先度は高い。
「ま、ちょっと手伝う程度の予定だから大丈夫です」
「ならオーケーだね」
「仕事の頻度はどれくらいですか?」
「月に数回くらいかな。不定期だよ」
それだけ? 少なくない?
仕事としては楽でいい。
だけど、悪性ダンジョンへの対処はそれで間に合うのか……?
俺はもっと多いものだと思っていたんだが……。
「あれ? 悪性ダンジョンってあんまり発生しないんですか?」
「悪性ダンジョンはかなりの数が生まれる。だけど全部に間に合うわけじゃないのさ」
俺は首をかしげて問う。
「トウコのダンジョンは前兆があったんですよね。だから潰しに来た。ダンジョンを見つける方法があるんじゃないですか?」
「トウコ君の件は、もともとクロウ君をマークしていたからわかったんだよ。毎回見つけられるわけじゃないんだ」
ああ、俺のことをスカウトしようと目をつけていた。
悪く言えば監視していたのか。
だから、周囲の異常に気付けた。
じゃあ、マークしていない場合は?
「見つからないで大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないよ。だけど隠蔽のせいで見つけるのが難しいんだ。時間制限もある。対処する前に切り離しが起こってしまう」
悪性ダンジョンは日々発生する。
だけど、ほとんどは対処する前に時間切れになる。
災害は起こるけど、発覚しない。
世界が悪性ダンジョンを切り捨てるからだ。
日々、被害が出ているわけだ。
「見つける方法はあるけど、限られているってことですか?」
「うん。日本全国を守り切ることはできないんだ。残念ながらね」
御庭は表情を曇らせる。
見つけられない。間に合わない。手が回らない。勝てない。
いろいろと問題があるってことだろう。
「それは人手不足だからですか?」
公儀隠密は人手不足だ。
異能者やダンジョン保持者は少ない。
「人手不足のせいもある。警察や消防みたいに全国をカバーしてるわけじゃない。当たり前だけど、火事や犯罪みたいに通報されるわけじゃないんだ。こっちから見つけて介入しなきゃいけない」
「全国をカバーしていない……人口密集地を重点的に守っているんですか?」
現代の通信網だって全国をカバーしていない。
電波の届かない地方はある。
過疎地にはインフラが行き届いていなかったりする。
「それすらできていない。僕らの組織は小規模だ。別のチームを含めても、ごく一部しかカバーしていない。救えない。……ガッカリしたかな?」
「いえ。考えてみれば当たり前ですね。そんなに異能者が多いわけはないんだ」
火事や犯罪とは違う。
警察や消防みたいに全国に拠点があるわけじゃない。
非公式で秘密組織だ。
規模が大きいわけはない。
実在する公安とか特殊部隊だって、そんなに人数はいない。
犯罪はなくならないし、火事で燃え尽きる家も多い。
人間は病気にも犯罪にも災害にも対処しきれない。
同じことだ。
ダンジョンの害をすべて防ぐことはできない。
「わかってくれるかい? 僕も全員を救えればいいと思う。誰も泣かない世界になればいいと願う。だけど現実には力が及ばないんだ」
「だからできる範囲でやるんですね。無理をせず、逃げもする」
「そうだよ。僕らは異能を持っている。だけどスーパーヒーローじゃない。できることには限界があるんだ」
「そうですね。俺も一人を救うので精一杯だ。この手が掴めるのは、手の届く範囲だけです」
「それでも僕らは諦めない。現実的な手段で、理想を追い求める!」
御庭が立ち上がって宣言する。
ナギさんも頷いている。
「わかりました。呼ばれたらすぐ駆け付けるようにします」
ちょっと脱線したけど、仕事のやり方はわかった。
月数回程度、呼ばれたときに駆け付ける。
最優先で駆けつける!
では次は現実的な条件だ。
お賃金の話である!
ご意見ご感想お待ちしております! お気軽にどうぞ!
「いいね」も励みになります!