異能者とダンジョン保持者……在来種と外来種!? その2
御庭は立てた三本の指を振りながら言う。
「こうしてダンジョン保持者は生まれては消えていく。だからクロウ君みたいに無事でいるのは貴重なんだよ!」
「な、なるほど……」
貴重な外来種みたいな扱い。
喜べばいいのかな?
「慎重で、忍耐強い。私利私欲のために力を使わない。そういう君だからこそ無事でいられたんだ。僕はそこを評価しているんだよ!」
「そ、そりゃどうも」
無事に存在しているダンジョン保持者であり、忍者。
だからこんなに御庭の評価が高いのか。
両方の条件を満たすのは、レアかもしれない。
「ところで御庭さんは異能者なんですよね? 異能者は隠蔽によって消されないんですか?」
俺はこの世界に超能力や霊能力があると信じていなかった。
異能者がいるというニュースなんて見たことがない。
なら、同じように隠されていると考えるのが自然だろう。
「基本的には異能力もダンジョンと同じで異物だ。だから人前で使うのは避ける。バレないように気を付けるのは同じだね。だけど、ダンジョンほどは厳しくない」
「異能力も異物……。程度の違いですか」
「そう。切り離しよりも認識阻害が強く働く感じだよ」
「異能者は追放されないってことですか?」
身内に甘いってことかな?
一応はこの世界にもともとある力らしいし。
「そうとも限らない。これも程度の問題だ。大きな力をこれ見よがしに使ってバレれば、消されるだろう」
「じゃ、ルールは同じなんですね」
「そうだね。ちょっと甘めにルールが適用されると思っておけばいい」
「不公平だなあ……」
なにそれズルい。
「異能者にも認識阻害はしっかり働く。信じてもらえなくなる、という形でね」
「信じてもらえない?」
「たとえばクロウ君は宗教の奇跡って信じられる? テレパシーとか、霊能力でもいい」
「うーん。正直、信じてないですね」
だって、現代の常識からしてありえないことだ。
俺たちが学んできた歴史や科学……常識の中に、超能力の入り込む余地なんてない。
霊能力や呪いみたいなものは信じられない。
ダンジョンというファンタジーに触れている俺でさえ、眉唾物に思える。
「そうだよね。うさんくさく思えるだろう?」
「ああ、うさんくさい」
「だから、ちょっとくらいの異常は見逃される。信じてもらえないことによってね」
御庭がうさんくさい笑顔を浮かべる。
「信じてもらえないけど、異能力は実在するということですね」
俺の問いかけに御庭がきりっとした顔で答える。
「目の前の僕が、いわゆる超能力者なわけだ。現代忍者にして、異能力者だよ!」
なるほど!
どうりで、うさんくさいわけだな!
すごく納得した。
「で、御庭さんの異能力って、どういうものなんですか?」
「――それは、秘密。ほら、忍者は自分の手の内を明かさないものだよ」
御庭は片目をつぶってみせる。
俺は彼を半眼でにらむ。
「俺にはさんざん術を出させておいて、そういうのアリですかね?」
「だってほら、まだ君は仲間になってくれると頷いてくれていないからね。今の段階で全部は話せない」
結構ぺらぺら喋ってたけど。
俺が今、断ったらどうすんだよ。
「……」
「そう睨まないでくれ。フェアじゃないかな? じゃあ、少しだけ。――僕の能力は直接的な戦闘能力ではないんだ。分身したり火を出したりするものじゃない」
「――ごほん」
スーツの女性が咳払いする。
御庭がちらりと彼女の表情をうかがう。
そのあと、俺を見て言う。
「……まあ、今はこのくらいで勘弁してほしい」
「ま、いいでしょう。俺の術も一つじゃありませんしね」
彼らにとって俺は敵ではないが、味方とは決まっていない段階だ。
言えないこともあるだろう。
彼女についても聞いてみたい気がするけど、今じゃないな。
答えてくれそうもない。
「そうだろうとも! 忍者はすべてを明らかにしたりしないものだね! 誰にも知られないことが一番だ!」
忍者トークになると熱が入るね。
人の知る事なくして、巧者なる――それこそが優れた忍者、上忍である。
忍者は人に知られない。目立たないことが大切だ。
俺が目指す忍ぶ忍者はこっちの方向なのだ。
スパイと同じだ。名を知られている時点でダメである。
御庭は知られないことが一番といいつつ、めちゃくちゃ喋るけど。
「ダンジョン保持者、異能力について話した。隠蔽についても。これについてはいいかな?」
「正直、気になることはいろいろありますが……」
「細かいことは今後いくらでも説明するよ。長い付き合いになるからね!」
「……そうですね」
御庭は俺が仕事を受ける前提で話を進めようとする。
……まあ、俺もそのつもりでいるんだけど。
やることは決まっている。
でもその前に、いろいろと聞いておく。
別にもったいぶっているわけじゃない。
長い付き合いになるなら、最初にちゃんとしておかないとね。
「では前提の話はこれでいいね。クロウ君に頼みたい仕事について話そう」
「はい。悪性ダンジョンへの対処ですね」
やっと本題だよ!
俺が聞いたこととはいえ、前置きが長いよ!
「そうだ。まず悪性ダンジョン。これは昨日すこし話した。害をなすダンジョンのことをそう呼んでいる。覚えているかな?」
「トウコのダンジョンみたいなものですね。ガンのようなものだと」
「その通り! トウコ君の冷蔵庫は悪性になる手前の段階だった。もっと進むと悪性ダンジョンになる」
「ああ、前兆をつかんだから来たと言っていましたね。――そういえば、御庭さんはダンジョンに入れないんですよね? なら、どうやってダンジョンを潰すつもりだったんですか?」
前に御庭は、ダンジョンの中に囚われたダンジョンの持ち主のなれの果てを殺すことで悪性ダンジョンを潰すと言った。
でも御庭はダンジョンに入れない。
さっき冷凍庫に手を突っ込んでも、ダンジョンに移動しなかった。
入れないのに、中にいる敵を倒せるか?
「普通のダンジョンに僕らは入れない。――でも、悪性化すれば別だ」
普通のダンジョンと悪性ダンジョンではルールが違うのか!?