異能者とダンジョン保持者……在来種と外来種!?
この世界にはダンジョンやスキルを隠蔽する力が働いている。
漏洩元を断つ、切り離し。追放。
漏洩先を消す、認識阻害。記憶の書き換え。
頭痛薬みたいだ。ダブル処方だな。
元と伝わりを断つ。
でもそこに優しさはない。
病気みたいに切り捨てられてしまう。
助けられるのは世界であって、俺たちは異物だ。頭痛の種だ。
だけど御庭は知っている。
なぜなら異能者は認識阻害されないからだ。
「この世界にとってダンジョンは異物でありイレギュラーなんだ。クロウ君たちダンジョン保持者は世界にとって都合が悪い存在だ。だから隠される。度が過ぎれば消される」
外来種みたいな、悲しき存在の俺。
特別な存在どころか、微妙な立場だった!
「度が過ぎなければ、大丈夫なんですよね?」
「そうそう。バレなきゃいいのさ!」
御庭は軽い調子で言う。
「バレないように気を付けていましたが……」
「それが正解だね。大丈夫だよ。自分から言いふらしでもしなければ、一般人に気付かれることはない。隠蔽の力は結構強いから世界の側が隠してくれる」
「ちょっと、安心しました。だけど……」
俺は口をつぐんで考えをまとめる。
俺はダンジョンのことがバレないか心配していた。
俺とリンはストーカーの件で、ダンジョンを知られる危険を目の当たりにした。
バレないように気を付けていたんだ。
でも……。
大河さんと猫を助けたトラック事故の件はどうだろう?
俺の分身は一瞬のことで見られていないと思う。
だけど、大河さんはトラックにひかれても無傷という異常さを隠せていなかった。
目撃者はいたはず。
それでもニュースになったり、SNSで拡散されたりしていない。
隠蔽されたんだ。
みんな、気にも留めなかった。異常は無視された。
これは認識阻害の作用だな。
じゃあ、切り捨て、追放の力は働かなかった……?
「どうかしたかな? せっかくだから疑問があれば答えるよ。ほら、君との約束で情報を提供することになっているからね。先払いだ」
「はい、じゃあ――」
俺は大河さんとの一件を話す。
そのとき、なぜ大河さんが追放されなかったのか?
「認識阻害だけで隠蔽できたからじゃないかな?」
「トラックの自損事故みたいに思われたってことですかね?」
「そうだね。あるいは大河君は轢かれなかった。当たり所がよかった。そんなふうに認識阻害が働いたんじゃないかな?」
交通事故で無傷ということはあり得る。
勘違いで許される範囲ってことかな。
「けっこう、大雑把なんですね」
「隠蔽によって大雑把にしてくれている、という感じだね」
案外、バレないらしい。
「なら、俺の分身がもし見られていても大丈夫だったってことですね」
「見間違いと思うだろう。――だけど、大河君と違って君の分身は見た目にわかる。充分注意したほうがいい」
「ああ、そうですね。気をつけます」
「うん。君が消えちゃったら困るからね!」
気を付けていてよかった。
これからも安全第一でいこう!
「この隠蔽のおかげで、たくさんいるっていうダンジョン保持者が世に知られていないんですね」
「半分正解。だけど、そんなに優しくない」
えっ?
半分はやさしさでできてるんじゃないの!?
「どういう意味ですか?」
「ダンジョン保有者になる人は多い。だけど、生き残る人は少ないということだよ」
「え……? なんでですか?」
「いくつかのパターンがある。順に説明しておこう」
御庭が指を一本立てる。
「まずはダンジョン保持者がその力を持て余してしまうパターンだ。特別な力を手にした人間はそれを使いたがるんだよね。調子に乗ったり悪用したりして、世間にバレてしまう。さっき説明した切り離しが起きる。君が言っていた消えちゃった人が、そうだね?」
これはストーカーのケース。
追放されて消える。
「なるほど……」
御庭が二本目の指を立てる。
「次に、ダンジョンに殺されてしまうパターン。ダンジョンはそもそも危険だからね」
「これは普通ですね」
ダンジョンで死ぬケース。これはある意味、普通の結果だ。
ダンジョンはそもそも命がけなんだ。
俺は安全第一で挑んでいる。
無理してケガしたり死なないよう気を付けて攻略する。
当たり前だけど、死ぬってこともあるんだよなあ……。
トウコもあやうくダンジョンに殺されかけていた。
いったん殺されたと言える。
御庭が三本目の指を立てる。
「そして、ダンジョンとの相性がよすぎるパターン。居心地がよくなってこの世界がどうでもよくなる。そのまま帰ってこない」
「……一時、俺もそうなりかけてましたね。ダンジョンの居心地がいいのもありますが、現実世界に興味が薄れるというか……」
ダンジョンにもっと潜りたい気持ちが強かった。
現実世界のことなんて忘れて、のめり込む寸前だった。
リンもこのケースかもしれない。
消えてしまいたいと言っていた。
ひっそりと、誰にも知られることなくダンジョンの中に消えてしまう……。
だけど俺もリンもお互いがいたから現実世界に留まることができた。
危なかったな。
御庭がメモを取りながら言う。
マメだな。
「ふむ。現実が嫌いというのもあるんだろうね。参考になるな」
「ちなみに、帰ってこないってどういう状態ですか?」
「詳しくはわからない。ダンジョンの出入り口が消えるんじゃないかな? こっちの世界からその人がいなくなってしまう」
「いなくなる……」
「案外、異世界に転移して向こうで楽しく暮らしているのかもしれないね!」
御庭は少し楽し気に言う。
この世界から消え、別の世界へ。
俺も異世界転移しかけてたとはね。
あぶねえ……!