威力偵察! 【スキル検証】【危険察知】【消音】
はじめてコウモリと戦ったあと、その生態を調べた。
コウモリの飛行能力は高い。
鳥類と比べても劣らない飛行能力を持っている。
哺乳類では唯一の飛行能力持ちだ。
ムササビなどは滑空するだけで、飛行とは言えない。
ちなみに日本に生息するコウモリは血を吸わないらしい。
だが、ここはダンジョン。
この大コウモリが同じとは限らない。
どんな能力をもっているか、わかったものではない。
コウモリのサイズは二階層よりも少し大きい。四十センチ程度か。
だが、大きくなっても動きが鈍くなってはいない。
サイズが増したことで牙や爪も相応に大きくなっている。
直撃すれば、大ケガだ。
だが、俺は忍者。回避に優れている。
直撃なんてしない!
腰袋から三寸釘を数本つかみ出す。
手のひらと親指で挟むようにして、振り下ろすように放つ。
素早く動くコウモリを狙うのは難しいが――
先を予測して、おおよその狙いで投げ放つ。
命中!
片翼を傷つけたコウモリがきりもみ回転しながら地面へ激突。塵と化す。
「キィ!」
――同時に別のコウモリが突っ込んでくる。
迎え撃つ余裕はない!
【回避】スキルが安全な位置を示してくれる。
俺は大きく跳びのく。
先ほどまで俺が立っていた位置をコウモリが勢いよく通りすぎる。
コウモリは地面にぶつかることなく、再び上昇していく。
素早い動きで、ひとところに留まらない。
やっかいな敵だ!
俺は壁を背にして、コウモリが襲ってくる方向を前方に限定する。
それでも、左右……上下方向も含めて同時に見ることはできない。
「目で見るだけではだめだ! 感覚をとぎすませ!」
コウモリが羽ばたく音に耳をすませる。
羽が打つ空気の振動を肌で感じろ。
獣のようなにおいを嗅ぎ分けるんだ。
五感を総動員しろ!
足りない部分は【危険察知】さんに頑張ってもらう!
たのむぜ!
【受け身】君もたのむよ! 期待してるよ!
いままで無能スキルと思っていてすまないね!
手のひらクルッ!
俺は成果主義なのだ。
使えるとわかったなら、頼っていく。
それに、わざわざスキルとして存在しているんだ。
ハズレスキルとか、無能スキルなんてないはずだ。
もしそうでも、役に立たせてやる!
使い方と状況次第。生かすも殺すも使い手次第だ!
「キィ!」
「キキッ!」
群れたコウモリは厄介だ。
一匹ずつかかってきてくれるわけじゃない。
敵だからな。親切さはない。
――連続して上下左右から飛びかかってくる。
極限の集中力のなか、わずかな安全圏に身をかわす。
かわした先に、後続のコウモリが襲いかかる。
「くっ! きりがない!」
攻撃をかわす。
わずかに稼いだ時間で手裏剣を投擲する。
狙いをつける暇はない。棒手裏剣を数本まとめて放つ。
数うちゃ当たる!
そして一本でも当たれば、撃ち落とすことができる。
俺の投げた棒手裏剣が次々とコウモリたちを撃ち落としていく!
コウモリは飛行に特化しているために歩行は不得意だ。
這い回ることしかできない。
とどめを刺すのは後でいい。
問題は手裏剣の残弾数だ。
ダンジョンに潜るたび、釘は補充している。
五寸釘を二十本、少し短い三寸釘を三十本だ。
出入口部屋まで戻れば在庫はある。
だが、今は手持ちが心もとない。
三寸釘はもう十本を切っている。
コウモリの攻撃は激しい。
俺はその攻撃をかわす。
「よっと!」
いまのところ、なんとかよけ続けている。
【回避】と【危険察知】のおかげだ!
【危険察知】は俺自身が知覚している攻撃に対しては反応しない。
俺が見落としている危険を、虫の知らせのように知らせてくれる。
背後や死角からの攻撃を受ける直前、何かヤバいと直感的にわかる。
これは、本当にギリギリだ。
もっと早く知らせてくれればいいとは思うが……。
このあたりはスキルのレベルが足りていないのだろう。
「ッお! りゃあっ!」
左手に持ち替えたバットで、向かってきたコウモリを叩き落とす。
右手には手裏剣を構える。
まとめて何本か投擲することで、精度は落ちるが当てることができる。
【投擲】スキルの補助と、高い敏捷のなせる技だ。
素早く飛行するコウモリでも急に方向は変えられない。
こちらへ攻撃を加える瞬間ならなおさらだ。
俺へ向かってくるのだから、自然と進路は限定される。
最後のコウモリを、バットで打ち払う。
「ギィ!」
なんとか、コウモリを撃退することができた。
ステータスの体力のおかげで疲れにくい俺でも、息が上がっている。
「よっしゃ! 全部倒したな。はあはあ……ちょっと疲れた」
休憩がてら、少し考えてみる。
コウモリは強い。
それは、俺との相性だ。
隠密系の能力が効きにくい。
【隠術】はおそらく、視覚に対して効果を発揮する。
しかし、コウモリは目で俺を捉えているのではない。
エコーロケーションは超音波の反射だ。
音の反射で地形や獲物の位置を知る。
潜水艦のソナーのようなものだな。
【消音】も発動させているが、これで隠れることもできない。
【消音】は自身の発する音を低減する、という効果だ。
俺が発する、衣擦れや足音が小さくなる。
呼吸音や心音すらも低減しているだろう。
もし俺がしゃべれば、その音も小さくなる。
意図して切ることができるから、しゃべりたいけど音が出なくなる心配はない。
だから、俺は音もあまり立てていないはずなんだ。
つまりコウモリは聴覚で俺を察知しているのではない。
【消音】でもコウモリは欺けない。
超音波も音――であれば【消音】は一定の効果がある気もする。
人間には聞き取れない音だとしても、音なのだ。
しかし【消音】は相手の出した音をかき消してはくれない。
相手や周囲の環境音を打ち消すことはできないんだ。
あくまでもこのスキルの効果は、自分で出した音を消すこと。
コウモリが出した超音波も消せないだろう。
だが、反射音はどうか?
俺の体にぶつけられて出る反射する音だ。
ならば俺が出した音、と解釈することもできる。
この音は【消音】で低減させている?
可能性はあるな。
完全無効化するわけではないから、コウモリは俺を襲ってくるわけだが。
この低減のおかげで、コウモリから見ると俺はぼやけて見えているのかもしない。
おかげで、直撃を食らわずに回避しきれるのかもしれないな。
地味に働いてくれている【消音】さん。
ありがたいね!
「ふう。周囲に異常はないな」
俺は壁際に後退して、壁を背に寄りかかるように休んでいる。
座り込むととっさに動けないから念のため立ったままだ。
もっと考えてみる。
【消音】がどこまでの音を消してくれるかはわからない。
人間に聞こえる音――可聴域にしか効果がないのか。
低周波や高周波など、範囲外の音に対しても効果があるのか。
このあたりの検証は、測定器具などを持たない俺にはむずかしい。
効果があると信じたい。
ゴブリンやコウモリの耳の構造なんて分かりっこないからな。
ゲームや漫画によくある【鑑定】なら教えてくれるだろうか。
そんなに細かい情報まで、鑑定できないような気はするけど。
俺の選択可能なスキルに【鑑定】は現れない。
ぜひ欲しいのに。必要性も充分なはずだ。
検証作業という行動も充分にとっているのに、なぜ取れないんだ!
喉から手が出るほど欲しい……!
エコーロケーションは【分身の術】でもあざむけない。
実体のない分身では、超音波も突き抜け、反射しないからだ。
つまり俺が必死に【分身の術】を出しても、相手は何も知覚していないことになる。
効果がないどころか、気づいてすらくれない。
強い、強すぎるぞエコーロケーション!
コウモリさん、絶対忍者殺すマンなの!?
なんだ、俺の天敵か!
コウモリ研究家に一歩近づいた。
なお、日本ではコウモリは鳥獣保護法で保護されています。
捕獲、処分してはいけません。ご注意を。
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