三人で囲む幸せな食卓!
三章完です!
とりあえずみんな落ち着いた。
トウコの負傷も問題ない。ポーションはすごい。
これが冷蔵庫ダンジョンにもあればいいのに。
俺の手のケガはスライムからドロップした花蜜ゼリーを塗り付けておく。
少し痛みが和らぐ。
あとでポーションを使えば完全に治るだろう。
「トウコ……」
「はいぃ!」
トウコはびくりと身を震わせる。
俺も小言は言いたくないが、放置もできない。
さっきのはマズイ。
「リセットは今後、なしにしろ。少なくとも冷蔵庫の中だけにしてくれ」
冷蔵庫の中だって、おススメしないが……状況次第ではやむを得ないこともある。
あそこはヤバすぎるからな。
「そうするっス。心配かけてごめんなさいっス……」
「これがお前が言ってたカタをつけるってことか」
「そうっス……軽蔑したっスか?」
トウコの表情は消え入りそうだ。
「お前の前髪が白髪になったときのことだが――俺がネズミにたかられたとき……最後の弾丸を俺に使ったな?」
トウコがうっと目をそらす。
「そ、その……」
「つまり、カタをつけてくれたんだな? そのあとお前は……ネズミに食われた。それで、あのあと様子がおかしかったんだ。うろたえて、髪も白くなった」
地下倉庫の暗闇でネズミに襲われたとき、俺はどうしようもなかった。
あのとき……トウコが、いま助けると言った。
そのあとすぐに、俺の意識は途絶えた。
自分のための最後の弾丸を俺に使ってしまったんだ。
激痛の死から救うために、俺を手にかけた。その苦悩……。
「……しょうがなかったっス。あのままじゃ店長が……」
「ああ、責めてるんじゃない。感謝してるんだ。俺にはできない決断だ。ほんとに助かったよ!」
「店長……! あんな思いは、あたしだけでいいっス。あんな痛みを味わわせるなんて、できなかったっス……でも……店長をこの手で……!」
そして俺を助けたせいで、自分は生きたまま食われる激痛と恐怖を味わった。
どれほどの決意があれば、できただろう。
トウコのとっさの行動力は、尊敬に値する。
だからあのあと、トウコは心が折れかけたんだ。
「偉かったねトウコちゃん! ほら、ゼンジさんは生きてる! トウコちゃんはゼンジさんを助けたんだよ!」
「そうだな。あそこで俺が折れたら、そのあと持ち直せたかわからない。ファインプレイだったな!」
「うん……」
ネズミにかじり殺されたって、復活できる。
失った経験値も取り戻せるだろう。
だけど、精神的ダメージからはすぐに回復できない。
暗い気分で委縮して戦っては、生き残れなかった。
殺伐としたダンジョンの中で、少しバカをやりながら楽しく攻略できたからこそ、今がある。
結局、最善の行動だったんだ。
「ありがとなトウコ! でも、これからは俺が……いや、俺たちがついてる。だからもう、あんな目にはあわせない!」
「そうよトウコちゃん。自分を大切にしてね!」
「てんちょー、リンねぇー!」
またトウコが泣き出しそうだ。よし、気を取りなおそう!
「さて、飯にしようぜ! 腹減ったわ!」
「じゃ、ちょっと早いけど私が作りますね!」
リンが腕まくりをする。
ダンジョン産のチート野菜料理が楽しみだな。
「うっ。うん! そうスね! ところで店長はどうするっスか?」
「俺は朝練のあと風呂も入ってないし……朝風呂してくる」
リンが近づいて俺の匂いを嗅ぐ。
「別に匂いませんよ。というか、いい匂いですし、そのままでも……!」
「いやいや、ふつうに汗臭いっス!」
匂いフェチと失礼な奴がいます!
「ともかく、風呂行って来るわ。あ、トウコも薄汚れてるし、ヨゴレキャラだから風呂入ったほうがいいんじゃね?」
「ヨゴレだから!? ……あ、背中洗いっこするっスか!?」
「ほら、そういう下ネタみたいな感じがヨゴレだっつの」
「汚れひとつない、ぴちぴち女子高生っスよ! ……さっき店長に口の奥まで犯されたッスけど……」
口元を押さえてくねくねするトウコ。
俺は冷ややかな目線を送る。
「ほら、そういう感じがさ。残念だよね」
黙っとけばかわいい系女子高生としてやっていけそうなのに。
まあ、憎めない汚れ役。愛されポジションだな。
リンがくだらないやりとりをスルーして言う。
「トウコちゃんは私のバスルーム使ってね」
「はーい。リン姉も入るっスか?」
それなら俺も洗いっこしたい!
……じゃなくて! 忍べ俺!
「――店長、顔がヘンっスけど……」
顔に出ちゃってた!?
俺もヨゴレだったかもしれぬ。
「私はご飯作るから、二人はお風呂行ってきてね」
リンの笑顔は汚れひとつなかった。
風呂に入って、戻ったら食事ができていた。
戻ってきた自律分身も手伝ったらしい。
メニューは野菜炒めとチャーハンだ。
「げー。あたし野菜は苦手っス!」
「ダンジョンで自家栽培してる野菜なの。おいしいから、食べてみて!」
「チート野菜だぞ! マジ美味い!」
俺はもう、野菜だけでもいいくらいだ。
チャーハンもうまいが、うまさの種類が違うね!
味の濃さ……新鮮さ。普通の野菜にはない感動がある。
ファンタジー食材すごい。
自律分身もちゃっかり食卓に着いている。
……コイツも食事できるんだな。
カロリーとかどうなっちゃうの?
消えたとき俺に吸収されたりして……。
「だまされたと思って、食べてみ?」
と自律分身がトウコに促す。
「そんなに言うなら……うっ!? うまっ! うますぎるっス!?」
「でしょー? おかわりもどうぞ」
「やばいっス! うまいっス! いただくっス!」
美味そうに食うなあ。
嫌いな食べ物も食べさせちゃう美味さ。
それをリンはにこにこしながら見ている。
「なんか、いいですね。ゼンジさんと二人で食べるのもいいけど、にぎやかで楽しいです!」
「俺たちボッチ歴が長いからなあ……癒されるわ」
「あたしなんていつもデリバリーで一人メシっスよ! みんなで食べるのっていいっスね!」
トウコの食生活、どうなってんだ。
家が金持ちだからな。
両親はほとんど家にいないし、そうなっちゃうのか。
三人で囲む食卓は、にぎやかで楽しい。
いちおう、自律分身もいるけど。
まあ、こいつは俺がもう一人いるようなもんだからね。
クビと宣言されたとき、俺は一人になった。
その代わりにダンジョンが現れて、趣味……生きがいになった。
そのおかげもあって、リンとも親しくなった。
家にいなければストーカーからリンを救うことはできなかった。
自分のダンジョンとリンのダンジョンでの経験。
それぞれに違うダンジョンの個性とルール。
それがあったから、無理ゲーな冷蔵庫ダンジョンからトウコを救うことができた。
俺も、リンも、トウコも孤独だった。ひとりだった。
今はこうして、集まって美味い飯を食っている。
ダンジョンが俺たちを変えた。
俺たちを成長させ、強く結び付けてくれた。
もう誰も、ひとりじゃない!
これからも、俺たちはダンジョンに潜る。
そして、うまい飯を食って笑いあう。
最高の生活だな!
これだから、ダンジョンはやめられない!
―― 三章、完。
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そのまま四章はじまります!




