びっくり人間になろ……トウコの失踪!?
トラブルメーカー気質。
危うく燃やされかけたが、俺は大丈夫だ。
無言で上着を着る。
ハリネズミの件はなかったことにして訊ねる。
「……リン。そんなに慌てて、どうした?」
「……ゼンジさん! トウコちゃんいますか!?」
スルーしてくれた。
リンの声には焦りの色がある。
「トウコがどうかしたのか? ここには来てない。まさか、居なくなったのか!?」
「部屋にはいなくて、私のダンジョンでも声をかけてみたけど、みつからなくて……もしかしてこっちかと思って!」
「草原は広いからなあ……。荷物とかはあった?」
「荷物はあるから、遠くには行ってないと思います。通話もつながらないから……ダンジョンにいるんじゃないかな。ゼンジさん、どうしよう……!?」
俺のクローゼットダンジョンのことは説明済だ。
リンのトイレがダンジョンになっていることも言ってある。
レベルが下がっているトウコが一人でダンジョンへ入るのは危険だ。
ダンジョンに勝手に入らないように言っといたんだけどな……。
入るときは付きそってやらないと。
通話がつながらないなら、ダンジョン内にいる可能性が高い。
最悪なのは誰かにさらわれたケースだけど――
――それはない!
御庭たちは保護するとは言っていたが……違う。
さらったりするメリットがない。
大河さんたちはもっとあり得ない。
それ以外の……未知の第三グループ……敵対的な集団。
とはいえ、知りもしない相手が急に現れてトウコだけをさらうとは考えにくい。
こんな余計な考えはリンには言わない。
心配させることはない。
「リン。草原ダンジョンを探そう。きっとそこにいる!」
「はいっ!」
服を着替えてリンの草原ダンジョンへ入る。
明るく、日が照っている。
アパートの外は冬だけど、ここは春めいて心地いい。
高台にある大木の陰に転送門はある。
見晴らしはいいが、トウコの姿は見えない。
「トウコちゃーん! どこー?」
リンが大声を上げてトウコを呼んでいる。返事はない。
「自律分身の術!」
「よう俺! あっち側見てくる!」と自律分身。
「よう俺! まかせる!」と俺。
初手から人手を増やしていこう。
何事もないとは思うが、いちおうだ。
「トウコちゃん、どこ行っちゃったんだろう!?」
「寝ぼけてトイレに入って、そのままふらふらしてるとか?」
リンのダンジョンの入り口はトイレだから、間違うこともある。
……寝ぼけたトウコのやりそうなことだ。
「そうかも! トイレ見てきます!」
ダンジョン内にもトイレはある。
解放感あふれるオープンスペースである。そこにいる可能性もあるか……。
そのとき、銃声が聞こえてきた。トウコだ!
広い草原に反響して、正確な位置はわからない。
方向的には、花畑があるほうだ。
花蜜スライムの群生地だ。
少し遠い。
「リン! 先に向かう! 念のためポーションを用意してくれ!」
「はいっ!」
俺は靴を脱いで走り出す。
「ぶっつけ本番だけど――反発の術!」
足の裏に反発力を生み出すイメージをして、踏み込む。
地面に足をつけると、弾けるように俺の体が浮かび上がる。
――バランスを崩す。
「うおっと!」
術の威力を弱めて、逆の足をつく。
【歩法】のサポートで、なんとかバランスを保つ。
反発する強さを調整しながら、草原を走っていく。
反発力によって踏み込む力が加わる。
バネの靴を履いたように力強く地を蹴って跳ぶ。
景色が後ろへ流れるようだ。
歩きにくさは敏捷のステータスと【歩法】でカバーする。
あっという間に、花畑へ到着した。
見える範囲にトウコはいない。
この辺りには丈の高い草藪も生えていて視界も悪い。
花畑の中も、しゃがんだり倒れていれば見通せない。
「トウコ! いるか? 返事をしろ!」
返事はない。
「判断分身の術! トウコを探せ! 見つけたら戻れ!」
俺は花畑に向けて数体の分身を放つ。
リンが追い付いてくる。
「ゼンジさん! いましたか!?」
「まだ見つからない! 魔力探知で索敵してくれ!」
「やってるけど、近くにはいません! ……あっ! いました!」
リンが指さした先、草むらをかき分けて、なにかが飛び出してくる。
トウコだ!
服はボロボロで、肌が露出している。
あれは、スライムが這った跡か。
地面に倒れたのか砂や泥で汚れている。
「う……うう!」
「おいトウコ!? どうした!?」
トウコの口からは意味をなさないうめき声が出てくる。
このダンジョンのモンスターに倒されて、また経験値がマイナスになった……?
まさか……変異したのか!?
嫌な予感が俺の胸をざわつかせた。