寄せて、上げて、引き寄せる! 【スキル検証】【引き寄せの術】
久しぶりに一章っぽいテイスト!
新しいスキル【引き寄せの術】を検証していこう!
「単体の対象を自分の方向に引き寄せる、か。これって、モノにも通じるよな? 試しに――引き寄せの術!」
俺は拠点の壁に飾ってある展示ラックに狙いをつける。
引き寄せるのはトンファーだ。刃物は危ないからね。
――術が発動する。
引き寄せたトンファーが勢いよく飛んでくる。
俺の方向――体に向かって。
「おおっ――あぶねっ!」
きわどいところで飛来したトンファーを躱す。
背後の洞窟の壁にトンファーがぶつかって落ちる。
「この術は適当に使っちゃダメなやつだな。手元に飛んできてほしいから、こう手をつきだす感じで――」
他の術には構えやポーズは必要ない。
【入れ替えの術】は対象を指定するけど、モノを動かすのとは違う。
座標を入れ替える瞬間移動って感じだ。
【引き寄せの術】は空間を超えて瞬間的に手元に来るわけじゃない。
引っ張ったモノが飛んでくる。
念動力って感じだ。
俺は手元に飛んでくるようイメージしながら手をつきだす。
「引き寄せの術! ――よし!」
今度はキャッチできた。
引き寄せる力もコントロールできる。
鎖分銅の扱いに近い。
ひもで先端の重りを手元に戻すときの感じ。
強く素早く戻すこともできるし、ゆっくり弱く戻すこともできる。
引っ張れる時間は一秒ほどで、長く持続しない。
それでも、この間はコントロールできるということだ。
引っ張る方向に変化をつければ、軌道を変えることもできる。
「これで戻る魔球、止まる魔球、曲がる魔球ができるぞ!」
野球のピッチャーをやったら無双間違いなし!
野球忍者に一歩前進だ!
戻すときに軌道を曲げておけば、自分に武器がぶつかる心配はない。
トンファーを投げては引き戻す練習をする。
ひとりキャッチボールの術! これでボッチでも安心だ!
……俺はもうボッチからは解放されたんだった。
リンやトウコとダンジョンに潜るのが楽しみだな。
といいつつも、こうして一人でスキルを検証する時間も好きだ。
新技や新術ってのは人前で練習するもんじゃない。
まあ、どうせ二人には後で説明するんだけどね。
現代の忍者は情報共有も怠らない。
身内に秘密が多いと、連携が取れないからな。
手の内を隠すのは敵や別グループの相手だけでいい。
再使用可能時間は三秒ほどだ。
これはスキルレベル1にしては実用域だな。
距離は五メートルほど届く。
魔石や落とした棒手裏剣などを回収するにも便利だ。
「モノだけじゃなくて生物にも効くよな?」
先ほど通らなかったルートでゴブリンを探す。
いた。実験体一号!
射程距離の限界である五メートルの位置から術をかける。
手をつきだし、引っ張るように動かす。
「ていっ! ――引き寄せの術!」
ゴブリンは見えない力に引っ張られ、つんのめる様にして倒れる。
俺の元にぶっ飛んでくるほどのパワーはない。
「ア、アギッ!?」
「――もういっちょ!」
今度は全力で引っ張ってみる。
ずずっと、倒れたゴブリンが床を滑る。
さっきよりは動いた。
でもそれくらいだ。
引き寄せる力は対象の重さの影響を受けている。
ゴブリンの体重は軽いとはいえ、二十か三十キログラムはあるだろう。
もっとスキルレベルを上げれば重い敵を動かしたり、素早く引き寄せられるようになるだろう。
これは期待できる!
俺はゴブリンを【引き寄せの術】で引っ張り起して、トンファーを打ち込む。
こうして、姿勢を変えさせたり崩したりすることにも使える。
そして、塵になったゴブリンの魔石を空中でキャッチする。
「うーむ……魔力の消費は【入れ替えの術】くらいかな」
でも、軽いものを対象にすると使う魔力も軽くなる。
連発していけるコスパのいいスキルだ。
それに、音もたたないし目立たない。
忍ぶ忍者を目指す俺にはぴったりだ!
「よし! こりゃ使えるぜ!」
文章を書く時間より設定を考える時間が圧倒的に長い……!
新術を出すたび、強過ぎちゃうんじゃないかって毎回びくびくする。