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2JDKのアパート……1JD1JK!?

 店での打ち合わせが終わって、俺は家に帰ってきた。


 打ち合わせの後半はオーナーが「ああ……」と頷くマシンみたいになっていたのが笑えた。

 ゾンビかよ。

 しかし、邪魔せずに承認してくれるだけで話は大いに進んだ。


 課題はあるが、店は大丈夫だろう。


 新店長のヤマダさんはしっかりしている。やる気も十分だ。

 俺もできる限りフォローするつもりだ。


 とにかく、これで店の問題は解決の道筋ができて一安心というところ。


 週に一度は店に顔を出す。

 それ以外はテレワークだ。毎日働く必要もない。


 紙でやらなきゃならない作業は、電子でもできるように切り替えていく。


 たまっている紙の作業はダンジョンの中に持ち込んで自律分身と一緒に片付けてしまうつもりだ。

 これぞスキルの無駄遣い!

 しかし効率は二倍だ!



 これで最低限の収入は確保した。

 フルで働くよりも収入は落ちるが、これで十分なのだ。

 社会人としての体面が保てて、このアパートの家賃が払えればいい。


 ハードであっても、命がけであってもいい。

 俺は、趣味のダンジョン攻略を続けていきたい。

 それには自由な時間がなきゃあね!


 時間をかけてじっくり向き合う。それが俺にとってのスローライフだ。



 トウコは店での打ち合わせのあと、俺の家へ来ている。

 リンが戻ってきたら晩飯だ。

 俺たちのほうが早く帰って来たので晩飯の準備をしている。

 ちなみにトウコは料理ができないので、簡単な作業を任せておく。


「とりあえず野菜を洗っといてくれ」

「リョーカイっス!」


 ん……考えてみればおかしな状況だな。

 俺のアパートに女子高生(JK)が上がりこんでるぞ!

 普通なら大事件なんだが……トウコだしな。

 まあいいか。



 料理しながら、これからのことを考える。


 御庭(おにわ)の言っていた公儀隠密の話も考えなきゃいけないなぁ……。

 大河(たいが)さんたちも、トウコのことを見守り……監視するという。


「保護、かあ……」

「えっ? なんスか?」

「御庭たちと、大河さんたち、それに俺とリンがお前を保護、監視するって話だよ」

「なんかあたし重要人物みたいっスよね! よくわからないんスけど……あたし、なんかやっちゃいました?」


 キョトンとするのやめろ。


「お前のダンジョン、変だったろ? 黒い腕が伸びて来たり、難易度が異常に高くなってたり。あれはダンジョンがおかしくなる前兆なんだってさ。悪性ダンジョンって呼ぶらしい。そうなったら、持ち主を殺すしかないって言ってたぞ」

「ええっ!? 殺す!?」


 はじめて聞いたようなリアクションしよる!


 って、トウコは寝てたから聞いてないんだった。

 リンにもあとで説明しなきゃな。


「本来は悪性ダンジョンになったらもう戻らないらしい」

「でも、冷蔵庫はおとなしくなったっス! あたしも殺されてないっス! それどころかあたしが店長を……」


 トウコがうつむいて暗い表情になる。

 俺の経験値を食った。

 ちょっと忘れられない体験だ。


「ああ、それは気にするな。忘れろ」

「忘れられるわけないっス!」


 トウコの口からヨダレがたれる。

 なに、味が忘れらんないの!?


「なんでこの流れでヨダレ!?」

「……えっ? あれれ……なんでっスかね!?」


 トウコも驚いている。無自覚か。

 ちょっと怖い!

 ひくわー!


「もしかして俺がおいしそうに見えてんの!?」


 俺は首のあたりをかばいながら後ずさる。

 トウコが目をそらす。


「……まさかあ。そんなことないっスよ!」

「間があったな。マジか……」

「ないっス! 冗談っスよ!」


 うそぉ?


 トウコは()()()()()()だと長身の女は言っていた。


 (にお)いで解ったらしい。

 おそらくは、スキルのようなものだろう。


 ……ほとんど人間。


「店長、あたしが……化け物だったら……」

「お前は人間だよ。心配すんな。違うとしてもトウコはトウコだし」

「て、てんちょぉー!」


 目に涙を浮かべたトウコが勢いよく飛びついてくる。

 すかさず頭を押さえる。


 そうそうタックルは食らわんぜ!


「っていうか、料理中にタックルすんな! (あぶ)ないわ!」

「ううー! ガードがかたいっス!」

「お前はいろいろユルいわ! またヨダレ出てるぞ!」

「おっと」


 じゅるっとヨダレをすするトウコ。

 大丈夫かなコイツ……。

 化け物かどうか以前にヤバいだろ。


「――大河さんたちは変異(へんい)と言ってたな。トウコ。自覚症状はないのか?」

「髪が白くなったのは、もっと前からっスよね」


 トウコの前髪は一房だけ白髪になっている。

 それは、ダンジョンを出ても治らなかった。


 ……学校で怒られやしないかね。


「俺がネズミにやられたあたりだったか?」

「だから、関係ないんスかねえ。そのときから既にヘンになりかけてたのかなあ……」

「そりゃ……わからん」


 ストレスのせいなのか、ダンジョンのせいなのかはわからない。

 そもそも、変異するとどうなるかを俺たちは知らない。

 大河さんたちは危険視していた。


 御庭たちはダンジョンが悪性になって、呑まれた所有者の()()()()()を殺すために来た。


 変異しかけた状態というのはレアケースだ。

 御庭すら知らないという。


 事態は思っていたよりも重い。

 しかし、トウコは軽い調子で言う。


「あとは、おなかが空いてるくらいっスねぇ」

「腹が減ってるのは俺もだけど……。まあ、様子見だな。なんかあったらすぐ言えよ?」


 まあ、重く考えてもしかたがない。


「そうするっス!」


 ホウレンソウは大事である。



「ただいまー! わあ、いい匂いですねー!」


 女子大生(JD)のお帰りだ。

 リンが壁の穴から俺の部屋をひょこりとのぞいている。


 かぶらないように、晩御飯は作っておくと連絡しておいた。


「おかえり。晩飯はチキンのソテーとサラダだよ」

「おなか減っちゃいましたー!」


 トウコがリンに言う。


「お邪魔してるっス!」

「……邪魔じゃないからね」


 ただの挨拶の言葉だけど、それ以上の意味がある。

 リンの表情はやわらかい。


「うん……。おかえりっス」


 リンが身支度を整えてから、晩飯となった。

 俺は再度、トウコをめぐっての一連の出来事を話す。


「じゃ、明日はトウコちゃんのレベル上げをしなきゃね!」

「たぶん、レベルはギリギリまで下がってるだろうしな」

「お願いするっス! ……ところで今日は、(とま)っていってもいいっスか? ほら、あたしの家はいま、アレなんで……」


 俺の顔色をうかがうトウコ。


 ダイニングキッチンは大惨事になっている。

 トウコの部屋は無事だと思うけど、安心して住める状態じゃない。


「……俺の部屋はダメだぞ。女子高生を家に泊めるとかいろいろマズい。リン、頼める?」

「はい。じゃ、トウコちゃんは私の部屋に泊まってね」

「パジャマパーティっスね!」

「いろいろと……お話しようね」


 女子高生と女子大生のガールズトークか。


「そりゃ、楽しそうだな」

「店長も混ざるっスか? 川の字になって朝までしゃべりまくるっス!」

「いや、混ざらんよ! 今日はいろいろとあったし、さっさと寝るつもりだし!」


 リンは俺の発言をスルーして続ける。


「……じゃあ、ゼンジさんが真ん中ですね!」

「え? あたし真ん中じゃないんスか? そこが居場所ってことで……」


 謎のポジション争いが勃発!

 俺の意見が反映されないね!?


「居場所はそうだけど、この場合は違います!」


 リンがキッパリと言う。

 おおう……妙に積極的だね!?


「じゃあ(なぶ)るの字になって寝るっスね!」


 なぶられながら寝るのか。

 なぶるは――(男女男)るとも(女男女)るとも書くらしい。


 男男男とか女女女とかは書かないらしい……。


 女女女だと(かしま)しい。

 二人でも結構、かしましいなぁ……。


 嫌じゃないけど!

 たわむれたくないわけじゃないけど!


「そんな状態じゃ、俺が寝れないだろ!?」

「いいじゃないっスか! 減るもんじゃなし!」

「減るよ睡眠時間が! いろいろと減るよ!」


 リンが目を(うる)ませて俺を見る。

 うぐぐ……破壊力は抜群だ!


「駄目……ですか?」

「ダメです! 上目遣いに見てもダメです! ――おやすみ!」


 忍べ俺。理性を保て!

 俺は自室へと退散(ドロン)した。



 とりあえず、今日はいろいろとあった。

 交通事故、トウコのダンジョン、御庭と大河さんとの一件、店のこと。

 長い一日だった。


 リンの部屋からは楽し気な声が聞こえてきている。

 俺は疲れからすぐに眠りに落ちた。

■没タイトルシリーズ

長い一日の終わりとパジャマパーティー!?


■調べてみたシリーズ

いろんな漢字があるそうです。

女女(横に並べる):いいあらそう

女女(縦に並べる):うつくしい

男男男(下二、上一):たばかる

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