クローゼットダンジョン・第三階層。偵察……?
手裏剣で遠距離から始末することもできるが、ここは近接でいく。
この階におけるゴブリンの強さを確かめておきたい。
とはいえ【隠密】は切らずに不意打ちでいく。
舐めてかかって負けるのが一番ダサいからな。
二匹のゴブリンが横並びに歩いている。
背後から忍び寄り、両手で握ったバットを構える。
大きく踏み込みながら【フルスイング】を発動する。
右から左に振ったバットが、一匹目のゴブリンの頭部を捉える。
ノックバック効果によって、ゴブリンの身体が吹き飛ぶ。
バットの勢いは衰えない。そのまま振り抜いて、二匹目ゴブリンを吹き飛ばす。
二枚抜きである。
二匹のゴブリンは仲良く、左の壁へ激突する。
その衝撃でゴブリン達が絶命する。
ゴブリンの身体が塵と消え、その中心あたりに魔石が発生する。
魔石が地に落ちる前に、すくい上げるように空中でキャッチする。
この動作、俺のお気に入りである。
「……決まった。そして、ゴブリンはどっちにしろ弱い」
ゴブリンはたぶん、少し強化されているんだろう。
でも、小さな差だ。
弱いことには変わりがない。
俺だってレベルが上がっても劇的に強くなったりしない。
地味に、着実に強くなる。
ゴブリンも地味に強化されたのだろう。
だが……強敵になるわけではない。
ゴブリン研究家になりたいわけじゃないから、ほどほどにしておく。
【フルスイング】は条件がそろえば、一度に複数の敵をなぎ倒すことができる。
大軍相手に無双するゲームみたいに、周囲の敵をなぎ倒すこともできそうだ。
とはいえバットの長さでは、大きく踏み込む必要がある。
全周囲の敵は現実的ではないかもしれない。
前方小範囲、扇状の範囲攻撃といったところだろう。
さらに進むと、前方から二匹のゴブリンが歩いてくる。
今度は縦に二匹。
付近に隠れる場所はない。
少し戻って、岩陰に隠れるか。
それとも【壁走りの術】で頭上を走り越えて裏を取るか……。
隠れるほうがいいだろう。
ゴブリンに対して慎重すぎるかもしれないが、手は抜かずに行きたい。
少し後退して、壁から離れた位置にある大岩に隠れる。
ゴブリンが通り過ぎていく。
じれったい時間だ。じっと耐え忍ぶ。
……忍んでこそ忍者。これでいいのだ。
ゴブリンはだらだらと無目的に歩いているように見える。
とくに、二匹で会話をしている様子はない。
そういえば、ゴブリンが会話しているところは見たことがないな。
叫んだり驚いたりしてはいるんだが。
意思疎通とか、できてるのかな?
ゴブリンは全裸で歩いているわけではない。
腰回りには簡素な腰布や腰ミノを身に着けている。
一匹はナイフ、もう一匹は棍棒を手にしている。
これまでのゴブリン達は棍棒率が高かった。
ナイフゴブリンはレアだったのだ。
三階では棍棒と半々くらいか。
なお、ゴブリンを倒しても武器は手に入らない。
倒したとき、武器も一緒に塵と化してしまうのだ。
うむ、ゴブリン研究がはかどった!
ゴブリン達が通り過ぎる。
岩から出て後をつける。
俺に気づいた様子はない。
二匹のうち、後ろを歩いているゴブリンから片づける。
うまくいけば、前を歩くゴブリンには気づかれない。
右手に持ったバットを振り下ろす。
「グエッ!」
「……! ギッ!?」
頭部にめり込んだバットがゴブリンの頭蓋を打ち砕く。
【打撃武器】と【暗殺】【致命の一撃】の乗った一撃。
しかし、即死はしない。
ヒザから崩れ落ち、床に倒れたあたりで塵と化す。
二匹目のゴブリンが俺に気づく。
手に持ったナイフを俺に向けて構えようとしたところで、俺のバットが振り下ろされる。
ゴブリンは反応できず、頭部に直撃する。
「ギャア!」
倒し切れていない。
ダメ押しの一撃を加え、ゴブリンは塵となった。
二匹分の魔石を回収する。
「ふう。不意打ちなしだと少し手間取るな。でも結局弱い!」
あ、ゴブリンの変化がわかったかもしれない。
違いは武器だけじゃない。
二階までのゴブリンは腰ミノを付けていることが多かった。
三階では腰布ゴブリンが三匹もいる。
謎が解けたな!
ゴブリンの文明レベルがちょっと、進歩しているようだ。
なんだ。三階も余裕で行けそうだな――
――悪寒が走る。
何かがヤバい!
首の後ろがざわつくような感覚。
風を切るような音が聞こえた気がする。
嫌な予感がして後ろを振り返ると、すぐそばに滑空してきたコウモリが大口を開けて俺に齧りつこうとしている!
頭部を保護するヘルメットを脱いでしまったことを思い出す。
避けなければ!
振り返りかけた不安定な姿勢から、無理やりに体を投げ出す。
無理にねじった腰が悲鳴を上げる。
「……ッああああ!」
コウモリの牙が頭部を捉えることはなく、なんとか逃れることができた。
無理な姿勢での回避に、大きく体勢を崩す。
ごつごつとした洞窟の床が目の前に迫る!
「……っとお!」
地面に倒れかけた俺は手をついて、低い体勢で一回転する。
変則的な側転のようになる。
おお、かっけえ!
これは、これまで眠っていた無能スキルの【受け身】君ではないか!
やりおる!
そして直前のあの感じ、虫の知らせや悪寒のようなものは【危険察知】か。
初めて発動した。
これまでは危険がなかったから活躍の場がなかったのだろう。
わざと危険な目に遭う検証はやりたくなかったので、そのままになっていた。
少しあいまいな効果ではあるけど、ちゃんと危険を知らせてくれた。
これを取っておかなかったら今ので大ケガだったろう。
コウモリが戻ってくる。
そして、その背後には群れを成したコウモリが複数。
おおむね十匹!
「げっ!」
飛び立った状態のコウモリさんは二階層でもケガをさせられた相手だ。
コウモリの移動速度は俺よりも速い。
逃げ切ることはできない。階段に逃げ込むには離れすぎている。
くそ、戦うしかない!
スタイリッシュ忍者に近づいたか……?
ゴブリン研究家には近づいた。間違いない。




