表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

254/1462

【急募】忍者経験者歓迎! やりがいのあるお仕事です!? その2

「どうだろう。公儀隠密(こうぎおんみつ)として、この国を守ってほしい。興味を持ってもらえただろうか?」


 男が期待の目で俺を見つめている。

 いや……そんなキラキラした目で見られてもね。


 公儀ってのは幕府とか朝廷のことだよな?

 時代劇でしか知らないけど……。今だと日本政府のことを指すんだろうか。


 ここでいう隠密は、忍者とかスパイとか密偵……。

 諜報(ちょうほう)活動や陰働(かげばたらき)きをする者たちだろう。



「興味より前に、突拍子(とっぴょうし)もない話で理解しにくい……」


 俺としては困惑が強い。

 こんな話、困惑しない方がおかしい。


 忍者としての働きを求められているようだけど……。

 国を守るって、突然スケールがでかい。


「ああ。曖昧さが気に入らないかな。そうだな。具体的に話そう。やってもらいたいことはシンプルだ。さっき君がそこの冷蔵庫でやったことと似ている。悪性ダンジョンを()()のが主な仕事になる。他にもやってほしいことはあるんだけど、そこはおいおい詰めよう」


 まだやるとは言っていない。

 ()()()()もなにもない。


「悪性ダンジョンを潰す、か。つまり、誰かのダンジョンが凶悪化した場合の()()ってわけか」

「そう。対処方法は説明するし、ひとりでやれとも言わない。充実のサポートと危険に見合うだけの報酬も出す。まあ、君はあんまり金銭には興味がないかもしれないね」


 金銭に興味……ないわけはない。

 俺だって金はほしい。

 だけど、それより大事なことはある。


 ずっとブラック労働してきたから、少し落ち着いて過ごしたいのが正直なところだ。

 ダンジョンに入り浸って暮らす今の生活が気に入っている。


 それに、元の仕事のことも気になっている。

 今日これから、トウコが必死にセッティングした打ち合わせがある。

 店を立て直して、トウコやスタッフの居場所を取り戻さなきゃならない。


「悪性ダンジョンの対処方法、か。その内容にもよるな」


 この男は、俺がトウコを連れて冷蔵庫から出てきたことに驚いていた。

 悪性ダンジョンが元に戻るのは()()()()()()()()だと言っていた。


 なら、悪性ダンジョンの潰し方――対処方法というのは(しぼ)られる。


「もちろん、それは気になるだろうね。話すとも。その方法はダンジョンの中に(とら)われたダンジョンの持ち主……その()()()()()を殺すことだ。ほかにもいくつか方法があるけど、それが確実な方法だ」


 男は表情を真面目なものに変える。


 その方法は俺の想像した通りのものだ。

 そして、俺には許容できない。


「……やはりそうか。()()()()()……と言っても、それは元()()だろう。……俺は殺人に手を染める気はない」


 俺は忍者だ。だけどそれは、ステータス上の職業にすぎない。

 俺の考え方、生き方……それは忍者に近い。

 だけど、非情で冷徹(れいてつ)な忍者になりきれるかというと、違う。


 あくまでも俺は、忍者の()()()が好きなんだ。

 任務のために人を殺すことなんてできない。

 だましたり、裏切ったり……そういう世界に生きたいとは思わない。


「僕は君を無情な殺人マシーンだとは思っていない。任務だとしても非情な殺しをよしとしない人物だと確信している。だから無理強いをするつもりはない。それに、君の見つけたやり方でやってもいい。大事なことは、危険なダンジョンを無害化(むがいか)することだ。人々を守ることだ」


「人々を守る……か。ずいぶんと耳に心地のいい言葉だけどな。あんたはこの冷蔵庫を潰すために来たと言った。つまり、トウコを殺しに来た――そうだろ?」


 俺は男をにらみつける。

 御庭はひるむ様子もなく、表情を変えずに続ける。


「そうだ。そのために来た。否定はしない。でも、いまはその必要はないと考えている。彼女は貴重な生存例(せいぞんれい)だ。保護(ほご)は必要だと思うけど――」

()()だと? それはトウコを閉じ込めてモルモットにでもしようってことか!?」


 ひと一人を殺すと、平然と言う。

 そして今は貴重な生存例(ケース)として手のうちに置こうとしている。


 声を荒げた俺に、御庭は首を振りながら答える。


「いや、違う。すまない。誤解(ごかい)を与えてしまったな。君は少し冷静さを欠いてきている。落ち着いてほしい。最初に言ったけど、敵意はない。君のことも彼女のことも悪いようにはしない」

「……そうか、そうだな。落ち着いたよ」


 ついカッとなった。でも後悔はしていない。

 今は、相手に敵意はない。

 だからって、俺が敵意を持たないとは限らない。


 トウコを殺したり害するそぶりはないように見える。

 だが、そう見えるというだけで信用はできない。


「君にとっては大事な子のことだからね。それこそ命を賭けるくらいに」


 大事な子?

 うーん、そう言われるとなんか違うが。

 いや、違くないのか。


 ちらり、と背後のトウコを見る。

 すやすやと寝息を立てている。もう、悪夢からは抜け出したんだろう。


 ていうか、いつまで寝てる気だよ!

 この空気の中で寝ていられるとは大物だな。


「……まあ、そうだな。周囲のひとは大切だ。手出しはさせない!」

「そうだよね。だからこそ、君は僕と組むべきだ!」


 結局、その話に戻るのか。

 御庭は人のよさそうな笑顔を浮かべながら、俺の反応を待っている。


「……組んだ場合のメリットは?」

「まず、安全。僕らは君たちを仲間とみなして攻撃しない。これは脅迫しているんじゃないよ。当たり前のことだ」


 仲間でなければ攻撃する可能性があるってことだ。

 まあ、それは当たり前といえるか。


「いいだろう。他には?」

「情報を提供する。ダンジョンについて、スキルについて、他の異能力を持つ者たちについて」


 情報はすでにもらっている。

 だが、それを理由に首を縦に振ることはない。


「では逆に、デメリットは?」

「あれ? まだまだメリットはあるんだけどな」

「先に悪い話を聞いておきたくてね」


 都合のいい話ばかり聞いても仕方がない。

 悪い話をどう言うか、それこそが重要だ。


「君のそういうところ、実に忍者向きだよね。いいとも。デメリットは仕事には危険が(ともな)うこと。ダンジョンと関わることになる。それから異能者(いのうしゃ)ともね。僕らに敵対する連中もいる。僕らの味方になるということは、彼らの敵になるということだ」


 ダンジョンと関わる危険は、ある程度知っている。

 単純な身の危険だけじゃない。禁則事項もそうだ。


「敵って、誰だ?」

異能(いのう)を悪用するもの。犯罪者。我が国の敵。異能を隠そうとする勢力。ダンジョンを増やそうとする勢力。大小いろいろな組織や個人だね」

「ずいぶんと敵が多いんだな」

「敵と味方にはっきり分かれていない相手もいるけどね」


 そのとき、俺のポケットの中で端末(スマホ)振動(バイブ)する。

 男も耳元を押さえてなにごとか耳を(かたむ)けている。


「クロウ君、ちょっと失礼。――ああ、来たか。手は出すな」


 男――御庭(おにわ)は誰かに指示するような会話をはじめる。


 その間に俺はスマホを確認する。

 表示されているのは――オトナシさん(リン)だ。


 俺は目線を御庭(おにわ)から外さないまま、電話に出る。

 御庭は俺から離れるように歩きながら、小声で誰かと話している。

 内容は聞き取れない。


「もしもし――」

「ゼンジさん! やっとつながった! 大丈夫ですか!? トウコちゃんは無事ですかっ!」


 電話の向こうのリンは、心配さのにじむ声色で、(せき)を切ったように話す。

 連絡したっきり、音信不通にしてしまっていた。


「うん。無事だ。なんとか間に合った。連絡できなくてごめ――」

「――よかったぁ……! 連絡がないから悪いことが起きたのかと思って……」


 悪いことは起きていた。ずっとギリギリの状態だった。

 電話をする時間がなかったわけじゃないけど、余裕はなかった。


「まあ、いろいろあって……もうちょっとしたら話せるから――」


 今ここで長電話している場合ではない。

 彼女の声は耳に心地いいのでずっと話していたいけど……。


「――大丈夫です! もう着いたのですぐ話せますよ!」

「え?」


 そのとき、トウコの家の玄関ドアが大きな音をたてて開く。

 そして、息を(はず)ませ、顔を紅潮させたリンが飛び込んできた。


「――ゼンジさん、お待たせしました! トウコちゃん、助けに来ましたよ!」


 その後ろからマスクをした二人がドアをくぐって入ってくる。


 ――大柄な男と、長身の女性が一緒だった。


「えーと、リン。そっちの人たち……誰?」


 俺は戸惑いの表情でリンを見つめた。

ご意見ご感想お待ちしております! お気軽にどうぞ!

「いいね」も励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「冷蔵庫の中には死体が詰まっている」の作品から来たダンジョン? つまりその料理人のゾンビはトウコの母親? [一言] 殺人イコール悪い事
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ