【急募】忍者経験者歓迎! やりがいのあるお仕事です!?
スカウトするために来た? 働く……?
「ちょっとよくわからないな。……転職エージェントかなにか?」
「ある意味エージェントではあるが、違う。君の特殊な力を見込んでスカウトしている。普通の仕事ではない」
男がちらりと俺の背後――冷蔵庫を見る。
その目線はわざと見せたものだ。
「つまり、ダンジョン関係の力ってことか……」
「そうだ。具体的には忍者の力だ。ぜひ、君の力が欲しい」
「……」
予想外の言葉に、俺は口を閉じる。
何の反応も返さないように押し黙る。
だが、この反応では答えたようなものか……。
忍者だと?
俺の立ち振る舞いから、そこまでわかるはずがない。
ダンジョンの中に入って、俺の動きを見ていたはずもないだろう。
読心術?
いや……俺はここまで忍者のことを考えてはいない。
鑑定スキルか……?
「おや、余計なことを言って警戒させてしまったかな。でも、君は忍者だ。間違いない。きちんと情報収集をして、必要な道具を作る。戦うための鍛錬もかかさない。そういう人物だ。そして、その力を持ちながらも悪用しようとしない。街で喧嘩をしても、必要以上に相手をぶちのめさない。正義感にあふれ、それでいて独善的ではない」
「……」
これは鑑定スキルではありえない。心を読まれているのでもない。
この客観的な評価は、俺の頭からは引き出せない。
道具を作る? 鍛錬をかかさない?
なぜそんなことがわかる。
「だんまりかい? ああ、知られていることが気持ち悪いのかな。すまない。ちょっと興奮してしまった。とにかく、僕は君のことを前からマークしていたんだ。スカウトするためにね。今日ここに来たのは別件だったんだけど」
前からマークしていた……。
つまりこいつが俺のことを知っているのは事前に調べて知っていたからか。
すでに知られているなら、黙っていても仕方がない。
なるべく情報を聞き出そう。
「別件?」
「興味を持ってくれたかな? 別件とは、そこのダンジョンの件でね。僕らは悪性ダンジョンと呼んでいる。この世界を蝕むガンみたいなものだね。今日はそれを潰しに来た。でも君が解決……いや、沈静化したというところかな」
悪性があるなら、良性ダンジョンもあるんだろうか。
しかし、やたらと喋る男だ……。
なるべく喋らせてみよう。
「悪性ダンジョン、ってなんだ?」
「僕は君を仲間にするつもりだ。だから知っていることは答えるよ」
……こっちの考えはバレているらしい。
「そりゃ、助かるね」
「悪いダンジョン。害をなすダンジョンのことをそう呼んでいる。ダンジョンの所有者が死んだり、この世界に害をなそうとしたり……原因はいろいろある。周囲の人間をダンジョンに引き込んだり、モンスターがあふれ出したりする。そうなったらもう、ダンジョンを潰すしかない……はずだったんだけどね」
男は少し困ったように眉根を寄せる。
「はずだった?」
「これまで、悪性ダンジョンが元に戻ったことはない。そこの冷蔵庫は今、元に戻っている。これは僕が知る限り、はじめての例だ。どうやったのかな?」
この冷蔵庫ダンジョンは、悪性ダンジョンだった。
だが今はそうではない。
俺が解決――沈静化したという。
やり方は解っている。
だが、それを伝えていいものか。
「……答えないと言ったら、どうなる?」
「どうもしないけど、残念に思うね」
男は残念そうな顔をしてみせる。
この男にも知らないことはある。
あるいはそう思わせようとしている。
俺は答える代わりに質問する。
「急にダンジョンの難易度が上がることはあるのか?」
「ある。悪性になる前兆みたいなものだね。僕はその前兆をつかんだからここに来た」
トウコのダンジョンが凶悪化したのは今日の午前中のはず。
つまり、それを検知する方法がこの男にはある。
「所有者が死んだ場合にダンジョンが悪性になるんだったな」
「そうだね」
男は俺の質問に真摯に答えている。そう見える。
信用したわけではないが、情報を渋っていてもはじまらない。
渡していい情報かはわからない。
だが、俺の知りたいことでもある。
「この冷蔵庫ダンジョンの所有者はトウコだ。中で死んだ。たぶん、経験値がなくなったことで復活できなくなった」
「君たちは何度か出入りしていたからね。そうか。ちょうど限界だったか」
男は思案するように顎に手を当てて考え込むそぶりを見せる。
「復活できないのは経験値がなくなったからだと考えた。中にいたトウコは様子が……変わっていた。それで俺は、自分をトウコに倒させた」
「なんと! 君はまさか、自分の命を……経験値を与えたってことかい!」
男が大きく表情を崩す。それは驚きだ。
この反応は……演技ではなさそうだ。
そして、男は顔に手を当てて笑う。
「いや、そんな方法があるとはねえ……! いや、知っていたとしても実行できることが驚きだよ!」
「賭けではあったな」
「しかも、確信はなかったのか。いや、やはり君は見込んだとおりの人物だよ! どうしてもウチに来てもらわないとね!」
男はうんうんと頷き、熱心な目で俺を見ている。
なんだか、この男からの評価が高すぎて怖い。
「ウチ? スカウトと言っていたが……」
「ああ、言い損ねていたね。僕はこういうものだ」
男が名刺を手渡してくる。
そこには――特異対策課 御庭と書かれている。
「特異対策課。政府の非公式組織だ。言い方を変えるなら――公儀隠密ってやつだよ!」
「公儀隠密か……」
うさんくさいんですけど……!
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