クローゼットダンジョン・第三階層。偵察!
階層更新、バトル展開!
モノリスから治癒薬の小瓶をゲットした。
これが想像通りのモノなら、多少のケガを恐れずにダンジョン攻略ができる。
しかし、ちょっと考えてみたい。
薬草や水、食料と同じ心配がある。
ダンジョン産の物品は外に持ち出せない。
魔石で確認済だ。
では、食べ物を体内に取り入れたらどうなるのか。
体内にあるうちは外に出られない、というのはギリギリ許容範囲内だ。
消化されるか排泄されたら外に出られるだろう。
では、消化吸収したあとはどうなる?
ダンジョン産の栄養が体に取り込まれるということだ。
そうすると、俺の体の一部が「ダンジョン産」と判定されてしまうのでは?
これはアウトだ。
非常に細かい単位で判定されたら、二度と現実世界に戻れない。
人っ子一人いないこのダンジョンで死ぬまで暮らすのか。
せめて異世界転生なら現地人がいるのに。
ゴブリンと仲良く暮らすダンジョン生活……うーん。
楽しくなさそう。
よほどこの世に嫌気がささないと、そんな生活は嫌だな。
かなりの世捨て人感だ。
今の俺も、ほとんど世間から隔絶した世捨て人な気はするが。
この数日、オトナシさんとしか話してないじゃないか。
オトナシさんとの朝の会話のために外に出てる感はある。
それがなかったら、どんどんダンジョンの奥へ潜っていただろう。
ダンジョン永住ってやつだな。
このダンジョンがどれほど深いのかはわからない。
奥に行けば住みやすい場所もあるかもしれない。
居場所のない現実より、いくらかマシか。
食糧問題が解決してしまえば、ダンジョンに住むという選択肢も出てくる。
そうなれば、家賃なんて払わなくていい。
外で働かなくたっていい。
経済的問題も解決する。
完全な世捨て人、自給自足生活の始まりだ。
寝るときとオトナシさんとのふれあいタイム以外は、ほとんどダンジョン内にいる。
外へ出る必要なんてないんじゃないか。
ステイホームならぬ、ステイダンジョン……ありかもしれない。
ニュースで行方不明者が増えているというけど、こういうことかもしれない。
とはいえ、現実世界を無視するわけにはいかない。
バイトとメッセージのやり取りはしている。
仕事の質問や相談にはなるべく答えている。
辞めたからって、放っておけるわけじゃない。
前までの俺は仕事がすべてだった。
それを失った俺にはダンジョンしかない。
現代社会には未練がなくなってしまっている。
生活費の懸念はあるけど、当面は暮らしていける貯金はある。
外で働こうという気持ちはいまのところ湧いてこない。
もう、一生分働いたんじゃないかな。
ブラック労働で燃え尽きたぜ……真っ黒にな。
家賃さえ払っておけばダンジョンは安泰だ。
それだけは維持しなければならない。
有給休暇の件も、オーナーのことだからちゃんと払うかわからない。
法的には問題ないと思うが、あの無能ブラックオーナーだからな。
零細ブラック企業には、法の縛りや社会的制裁とか通用しないから困る。
有給休暇どころか、給料も大丈夫かな?
事務も経理も振り込みも俺がやってたからな。
専門の事務職は雇っていない。そんな余裕はない。
店に立つ人間すらケチって最小限だから、キッチンもフロアもレジも俺が埋めていたし。
盾も火力もバフも回復もこなすメンバーをパーティーから追放したようなもんだ。
俺が居ない状態で、オーナーにできるだろうか。
できない(断定)
俺の給料が入らないのは困るが、バイトのみんなも困るだろう。
うーん。心配だ。
でもまあ、要らないと言われたんだ。
結局、もう関係のない話だ。
知ったことではない。
「あー、考えてもしょうがない! とりあえず三階を偵察しよう!」
治癒薬は保険として持っておいて、いざというときにだけ使う。
死んだらおしまいだ。大けがをしたら迷わず使う。
外へ出られなくなる心配はそのあとでいい。
治癒薬の小瓶を布でくるんで腰袋に大切にしまう。
落としたり割れたりするようなくだらないミスは起こさない。
階段はモノリスから見えるほど近い。
「体調は万全。疲れもない。ケガは完治していないが戦闘に支障はない。安全確認ヨシ!」
チェックを終える。意識を切り替える。
さあ、探索の時間だ!
目標は三階の偵察。クリアは目指さない。
本格的な攻略の前に傾向をつかむ段階だ。
慎重に階段をくだっていく。
常時発動スキルはすべてオン。
【歩法】による忍び足で物理的に立てる音も抑える。
階段を降りきり、三階へ到着する。
そこは広い空間だった。
これまで通り洞窟風であることは変わりない。
天井が高く、開放的な空間になっている。
通路と部屋で構成されていた二階までとは違う。
一番の違いは、壁が少ないことだ。
今降りてきた階段は、壁に空いた穴のような入り口から二階と三階を繋いでいる。
つまり、後ろには壁がある。
前方はひらけた空間となっていて、壁がない。
「おお、広々したな! しかし、これはマズイな……」
俺の主戦術は【隠密】からの不意打ちである。
隠れるための出っ張りや、曲がり角が必要だ。
この階層にはそれが少ない。
かわりに、ところどころに大きめの岩が落ちている。
身を隠す場所がないわけではない。
とはいえ、少し立ち回りは変わってくるだろう。
下から伸びた鍾乳石……石筍もある。
タケノコのように、岩が盛り上がっている。つららの逆版だ。
天井からは鍾乳石が垂れ下がっている。
天井は起伏が激しいので、全体は見通せない。
「お、コウモリ発見! ここにも居るんだな」
遠くにコウモリが飛んでいるのが見える。
距離感はわからないが……デカいような。
「とりあえず、壁沿いに進んでみるか。広いところは危険だ」
俺は壁沿いを歩いて、様子を見ることにする。
今回は、左手側を壁にして進む。
前までは右手の法則でやってきたが、あえての左だ。
俺は右利きで、バットを右手に下げている。
【壁走りの術】を使うときも左手を壁にそえる。
右回りだと、少し動きづらい場面があったのだ。
これまでの探索での改善点である。
少し進んだところでゴブリンを発見する。二匹だ。
数は二階層と変わりない。
二階層にいるゴブリンより、少し大きいような気もする。
ゴブリンも成長……階層によって強化されるものなのか。
さて、戦闘開始だ!
でも半分くらいは考察回!
検証と考察が長いけどまあ許せる……と思う方はブクマ・評価をお願いします!




