ボス部屋のブリーフィングと威力偵察!
自律分身がトウコに言う。
「トウコ。偵察に行く前に知っていることを教えてくれ。ボス部屋の状況説明だ。ボスと戦ったことがあるのはお前だけだからな」
トウコが一階のエントランスホールのドアを指し示す。
騎士鎧がいる暖炉部屋とは逆側だ。
両開きの重厚なドアで、閉ざされている。
「ドアを入ると食堂があって、その先が厨房っス!」
「ああ」
「で、ドアにはカギがかかってるっス!」
「カギだと……!? 今から探すのは――」
そんなことをしている暇はないぞ。
五ウェーブがはじまってしまう。
「あ、カギはなくても大丈夫っス! いつもはショットガンでぶち抜いてたっス!」
「ワイルドだな!?」
カギとか謎解きとか無視しちゃう系なの!?
カギがかかっているとはいえ、木のドアだ。
……破壊可能なのか。
まあ、ゲームじゃないし、アリなのか!?
自律分身が先をうながす。
「で、食堂はどうなってる?」
「大きなテーブルにロウソク立てとか食器が乗ってるっス。貴族のおしゃれテーブルな感じっスね」
食器があるならナイフやフォークなどがありそうだな。
投擲具として使えるかもしれない。
燭台はいくつあってもいいね。
トウコが続ける。
「で、食堂に入るとボスが入ってくるっス。ボマーよりもっと大きなゾンビで、エプロンしてるっス」
「エプロン……? なんだそれは」
「肉屋さんとか料理人さんっスかねえ」
「職業を持ったゾンビかもな」
俺のダンジョンではゴブリンが職を持っていた。
例えば斥候や呪術師のゴブリンだ。
システム的な職業を持っていて、それに応じた動きをしてくる。
呪術師なら魔法を使うといった具合だ。
「肉屋とか料理人だと、どういう動きになるんだろうな」
「でっかい包丁で襲ってくるっス! あとはスゴイ頑丈っスね!」
トウコはげーっという表情をしている。
苦い思い出があるんだろう。
……俺もデカいゾンビなんて会いたくない。
そうも言っていられないが。
「しかし、ざっくりした情報だなあ」と自律分身。
「じゃ、動きは自律分身がチェックしてくれ!」と俺。
げんなりした様子で自律分身が俺を見る。
「他人事みたいに言いよる……。ま、あとでお前も味わうことになるがな!」
単独でボスと戦えばまず死ぬはずだ。
自律分身が体験した出来事は、俺にフィードバックされる。
だから他人事ではない。
自分を使った決死の情報収集だ。軽い気持ちではない。
いつもなら自律分身にこんなことはさせない。
俺は自分に優しくしたい。
死ぬようなことはさせたくない。
でも今は別だ。
俺自身が死ぬ覚悟で挑んでいる。
実際に死にもするし、生き返りもする。
それなら、無茶な偵察だってさせられる。
させなくてはならない。
「じゃ、行ってくるが……。まずはこのドアをこじ開けないとな」
自律分身が食堂のドアを示す。
「今ショットガンはないっスよ。店長の力でド派手にドアぶち破っちゃってほしいっス!」
トウコはレベルが足りないためにショットガンは創れない。
なぜか期待に満ちた顔で笑いかけてくる。
「ド派手にやってどうする! 地味に堅実にこじ開けるわ!」
俺は忍者であって、アクションスターではないのだ。
ドアはこっそり開けるべきものである!
鍵開けするスキルや知識は俺にはないので、工具が頼りだ。
俺と自律分身は二人がかりで鉈や火かき棒をバールのように使ってドアをこじ開けた。
さすが工具!
――小さな音をたてながらも、ドアは開いた。
「じゃ、行ってくる。お前らは見つからないように隠れててくれ」
自律分身が燭台を手に食堂へ入っていく。
さすがに、その表情は硬い。緊張しているようだ。
食堂のドアの外から俺たちはそれを見ている。
食卓の上に置かれた燭台に火をつけ、視界を確保していく。
部屋には窓もあって、明るさは充分だ。
テーブルの上には片付けられていない食器が乱雑に置かれている。
食器には、黒っぽいものが乗っている。
カビか腐敗物のようなものだろうか。
自律分身がナイフをテーブルから数本拾い上げ、厨房へ続くドアを覗く。
そして厨房へと入っていく。
俺たちからは姿が見えなくなる。
厨房から、この世のものとは思えない怒号が聞こえてくる。
「――グォォォォァ!」
「ッ! 奴に気付かれた見たいっスね!」
「すげえ声だな……」
俺たちからは自律分身の姿は見えない。
激しい戦闘の音だけが聞こえてくる。
その音を聞いて、トウコが飛び出そうとするのを手で制する。
「やっぱりあたし達も一緒に行ったほうがいいんじゃないっスか!?」
「いや! 自律分身がやられるとフィードバックがある。俺が動けなくなって死ぬ!」
「うー。そうかあ! ……でも、待つのはキツいっスね……」
自律分身が死ねば俺にフィードバックが来る。
戦闘中のフィードバックは致命的な隙になる。
前回は、フィードバックの受け取りを遅らせることができた。
これは慣れや成長なのかもしれない。
スキルは思ったよりも融通が利く。
ある程度は俺の意思や要望に応えてくれる。
最初はもっとゲーム的なものだと思っていた。
だけど、もっとあいまいだ。そして柔軟だ。
これに気付けたのはリンのおかげだ。
想像力でスキルの限界を越える。
彼女はナチュラルな思い込みで、できてしまう。
ゲーム脳な俺とは違う。
俺は自分に言い聞かせてやっとできる。
できるはずだ。やれるはずだと。
フィードバックも柔軟に受け取れればいいんだがな……。
一度できたなら、今度もできるはずだ。
だが、危険は冒せない。ボス戦で試すことではない。
そんなことを考えながら、自律分身を待つ。
「――うぐあっ! か、解除しろーッ!」
自律分身の叫び声が届く。
苦し気なその声は、致命的なダメージを負ったように聞こえる。
俺は【自律分身の術】を解除する。
――と同時、俺にフィードバックが走る。
「ぐっ! やられたぞ……準備しておけ!」
「て、店長!?」
俺は自律分身の記憶を読み取っていく――
自律分身は身をなげうって情報を持ち帰る忍者の鑑!




