工具無双!? 調子に乗ってはいけません!
「しかし、窓女は怖かったな……。それに比べりゃ、ゾンビなんてかわいいもんだ」
鉈鎌とマチェットがあれば、ゾンビを倒すのは簡単だ。
俺はバルコニーから飛び降りて、ゾンビの群れへと突っ込んでいく。
落としたシャベルも回収しなきゃ。
まだ二ウェーブだからボマーはいない。
ほとんどウォーカーで、たまにランナーが出る。
「シャアッ!」
「ウウ……」
ゾンビたちは俺を見つけて、声をあげる。
まずはランナーからだ。
走りながら腕を振り回してくるが、狙いは大雑把なものだ。
俺は【回避】の示す安全圏に体をそらす。
かわしながら、マチェットでわき腹を切り裂く。
動きを止めたランナーの背後から、後頭部を一閃する。
倒れる前にさらに一撃。これで塵に変わる。
ナイフと違ってリーチのあるマチェット。
ゾンビは素手だ。つかまれたり噛みつかれる前に、攻撃できる。
【片手剣】のスキルが乗って、威力も加算される。
【ファストスラッシュ】が使えることも大きい。
今度は鉈鎌を使おう。マチェットはベルトへ戻す。
近いゾンビへと向き直る。
俺は特別な構えは持たない。自然体で武器を振るだけだ。
そうすれば、いらない力が抜けて状況に応じた動きができる。
構えてみることもあるが、ゾンビには必要ないだろう。
俺はウォーカーに無造作に近づいて、脳天に鉈を振り下ろす。
「うりゃっ」
「ア……」
重い鉈の一撃はゾンビを一発で塵に変えた。
銃弾やナイフのような点の攻撃と違って、鈍い鉈は面で攻撃する。
一撃で十分なダメージになるのだろう。そのため即座に塵となるのだ。
これで、倒した後にトドメを刺す工程が省略できる。
速さではマチェットに劣るが、ゾンビに対してはこちらが有効だ。
窓女にはマチェットの攻撃も効果的だったから、相手によって使い分けていこう。
この鉈鎌も、自分のダンジョンでいつも使っているナタと同じ、両面武器だ。
刃では【片手剣】、峰では【打撃武器】が乗る。
やはり鉈は強武器だ!
「ん……また、霧が濃くなってきたな」
俺は窓女に払われて落としたシャベルを拾う。
壊れたりしていない。問題なしだ。
だんだんと霧が濃くなってきている。
まだ、敵の姿は見えるが……こういう状況はよくない。
未知の体験は避けるべきだろう。
霧で視界の悪い中、大量の敵に囲まれるなんてのはごめんだ。
情報収集して次につなげるのもいいが、いまはボス討伐が目的だしな。
欲を出して死んだら元も子もない。
不運や想定外の敵は、もういらない。
このダンジョンにはあきらかに運の要素がある。
ツイてないことが起きるってことだ。
トウコはどうしようもないと言っていた。
運なんてのは、コントロールできない。
形のないものとは戦えない。
……そうだろうか?
俺は不運には対策できると考えている。
難しいが、どうしようもないことではない。
これまでと変わらない。
俺はいつだって逆境の中で戦ってきた。
仕事だってそうだ。そうじゃなきゃブラック労働はこなせない。
ミスや事故、クレームを減らすことと同じだ。
足りない人員と予算をやりくりして、なんとか突破していたんだ。
やることは、いつも通りの検証と対策だ。
試行錯誤して、原因を見つけていけばいい。
一度ダンジョンの外に出て準備のできる俺のダンジョンとは違う。
だが、死んでやり直せるなら、準備する時間はある。
何度くり返そうが、諦めなければ突破できる!
そう信じる。
不運は脈絡なく起きるわけではないようだ。
失敗する可能性のあることが大失敗になる感じだな。
つまりは失敗する可能性を減らしてやればいいんだ。
暗ければ足元を取られる。
靴を履いていなければ足をケガする。
ダンジョンのルールを知らなければドロップアイテムは得られない。
死体を残すとネズミがわく。
爆発する敵がいる。その爆発の威力と範囲。
見えないが無害な敵。
頭部を破壊しないと倒せないタフな敵がいる。
強固な鎧。頭部に攻撃しても倒せない敵。
情報がなければ、打開できない。
トウコが死に覚えた情報。自分で味わった体験。
暗さには明かり。ケガには服や靴。
ネズミには死体掃除。ボマーには距離や戦う場所の選択。
それぞれの問題に対策することで、いまは大きな不運には見舞われていない。
ひとつひとつ不安要素を減らしていけば、大事故は起こらない。
この霧は未知の要素だ。
館の外で戦うことも不慣れな状況だ。
これは、不運のつけ入る隙となる。
無理なく戦えているとはいえ、油断は禁物だ。
「撤退! 安全第一だ!」
俺はドアを通って一階のエントランスホールへと戻る。
外のゾンビがすぐに追ってくる様子はない。
二ウェーブで発生した敵を倒さないとどうなるんだろうな。
館の外に沸いたゾンビたちは、そのまま残るはずだ。
消えたりしない。
俺は【隠密】【消音】は常時発動している。
そのために霧の中のゾンビには気づかれにくい状況だった。
俺が館に移動したことに気付かずに、霧の中でうろうろしてたりしてな。
ずっとそうしてくれてもいいぞ。
いや、経験値のために入ってきてくれたほうがいいか。
「ウウ……アアア」
「お、来たな! 心配しないでもご来店だ!」
俺の通ってきた地下倉庫や中庭に続く扉から、ゾンビがぞろぞろと入ってくる。
二ウェーブにしては数が多い。
これはもしかすると、館の外は敵がわきやすいのか。
あるいは霧のせいか……。
やはり、外には未知の要素があるな。
でも、場所を移した今、不安要素は小さい。
ゾンビはしょせん、大した強さはない。
倒しきる火力がなかった前回までと違って、いまは武器がある。
「アアア!」
先頭のゾンビが俺に掴みかかろうとする。
シャベルを両手で突きだし、その顔面に突き立てる。
「アガッ」
しかし、致命傷には至らなかったようで、ゾンビはそのまま俺を押し倒そうとする。
俺はゾンビの顔面に突き立ったシャベルの足かけ部分に掌底を打ち込む。
顔面を深くえぐられたゾンビが塵になって消える。
後続のゾンビがわらわらと湧き出してくる。
「うりゃあ! フルスイング!」
俺はスコップを大振りして【フルスイング】を発動させる。
館の内壁にぶつけるように方向を調整する。
数体のゾンビがまとめて壁にぶつかり、倒れこむ。
「判断分身の術! トドメを刺せ!」
俺はマチェットを投げ渡し、トドメを指示する。
荷物持ちに使っていた分身はすでに効果時間が切れて消えている。
持たせていた荷物は床に落ちている。
ロウソクの火は消えてしまっている。
釘箱がひっくり返って中身が床にぶちまけられている。
……地味に不運か、これは。
拾うのが面倒なのと、踏んでケガするフラグだろうか。
靴があるから大丈夫だとは思うが……。
「判断分身の術! クギを回収して箱にしまえ!」
一応、対策しておこう。
【判断分身の術】は単純労働は得意だ。
釘を探して拾い、箱に入れる。シンプルな動作なら手際よくやってくれる。
もう一つの条件には回避を指定しておく。
俺は館へと入ってくるゾンビをスコップで切り、刺し、叩きのめす。
スコップは打撃武器の扱いになる。
先端の刃をたてて切ったりついた場合はスキルが乗らない。
さすがに【片手剣】とは見なされないらしい。
それでも【打撃武器】として使える長柄の武器だ。
柄の部分で打撃したり、持ち手側で突きを食らわすこともできる。
シャベルはそれを使った戦闘術があるほどの道具――武器だ。
軍隊にはシャベルがつきもの。そして、身近にあるシャベルは武器として利用される。
俺はまだ使いこなせていないシャベル初心者だが……可能性を感じる。
武器が増えすぎて、どれを使うか迷っちまうな!
ゾンビの流入は終わったようだ。
これで二ウェーブは完了!
敵が多い分、いつもよりも多くの魔石が手に入った!
クラフトがはかどるぞ!
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