笑顔で好印象を与えよう! ……ただしイケメンに限る!
衣裳部屋で【自律分身の術】を発動させる。
「よう、俺! ちゃんと発動したな!」
「よう、俺! 復活するとリセットされるらしいな」
「ようよう! あたしも混ぜてほしいっス!」
なんかトウコが混ざろうとしてくる。
「いいから早く着替えろよ!」
俺はいつも通りの黒いジャケット。
自律分身は前回と同じ白地に金縁の目立つ服。
今回も白いスカーフを首に巻いている。
あ、俺も首になんか巻こう。
マフラーがなくて首元がさみしかったんだ。
黒いスカーフを選ぶ。
豪華な刺繍。つややかな肌触り。高級品だぜ!
「これでよし! って、まだ決まらないのかトウコ」
「うーん……。今度はこっちの赤いのにするっス。オシャレタイムがこんなにも息吹を……!」
「はよせいって!」
トウコは今回は赤いロングコートを選んだ。
手早く頼むぜ。
「どうっスか? 黒はカッコいい系だけど、こっちはかわいい系っスよね!」
「ああ、そうね」と俺。
「いいんじゃね」と自律分身。
「なんか雑っス! 興味ゼロっス!」
トウコは不満げだ。
俺と自律分身はさっさと部屋を出る。
「さて、寝室へ行くぞ。物資を回収して、燭台を手に入れたら二手に分かれる」
「おう!」と自律分身。
「……りょー」
寝室。敵はいない。
まだ一ウェーブだ。
二ウェーブ前には地下に行きたい。
ここはサクッと漁ろう。
「自律分身はハーブを収穫してきてくれ」
「おう!」
自律分身は隣のバルコニーへ向かう。
まだむくれているトウコへ指示を出す。
「トウコは燭台を持ってきてくれ」
「りょー」
俺は窓際のチェストを開けて、シーツや宝石箱を取り出す。
ナイフを腰にさす。
何気なく、窓の外を見る。
窓の外で――顔色の悪い女が笑っていた。
「なっ!?」
俺は窓際から飛びのく。
「な、なんかいるぞ!」
「ほらっ! 言ったじゃないっスか!」
窓に張り付くように女がこちらを見ている。
口の端をつり上げて笑っている。
その表情は……笑うというには不気味すぎる。
自律分身は窓の外にはなにもなかったと言ってたのに。
油断したわ。心臓に悪いぞ!
「……トウコ、撃ってみたらどうだ……?」
「嫌っスよ! きもちわるいじゃないっスか! ああ、めっちゃ目があったっス……」
俺が動くと、目だけでこちらを追ってくる。
部屋に入ってくるわけじゃないようだけど……。
笑顔で見つめられてもうれしくない。
……ただし生きた人間に限るってやつだ。
「放っておくか……。下に落ちてネズミがわいたら嫌だしな」
「放置推奨っス!」
無視しよう……。
俺は部屋にあった物資でマッチと香炉をクラフトする。
さらに火薬着火式火炎瓶を作る。
他にも作りたいものはあるが、今は魔石が足りない。
燭台からロウソクを一本取っておく。
これはランタン用だ。
このあと、俺は地下に行くから最低限の明かりは必要だ。
窓の女の視線を感じる……。
やりにくい。ああ、さっさと移動したい。
トウコがマッチで燭台に火を灯す。
すると、窓の女が手で顔を覆うようにして、さっと窓から姿を消す。
「あっ! いなくなったっス!」
「明かりを嫌がったのか?」
「やっぱりそうっス! 暗いとネズミが増えるのと同じっス! 暗いとマズいことが起きる……」
「ああ、それで明かりを増やすために暖炉部屋に行こうって話だったな。暗さが敵を呼ぶのかもしれないな」
「そうっス! 明るくすればいいんス! もっと明かりを作ってほしいっス!」
トウコが期待の目で俺を見ている。
「魔石がもうない。ランタンを作るには魔石が十個いる。すぐには無理だな」
松明なら低コストで作れそうだが、手がふさがるからな……。
俺の場合は分身に持たせればいいが、トウコは銃に両手を使う。
ちなみに燭台は自律分身が持って移動している。戦うときは場合によって床に置く。
自律分身が戻ってくる。
「刈り取ってきたぞー」と自律分身。
ハーブを受け取る。
「おう。サンキュー。魔石が足りないから、あとで作るわ」と俺。
薬草丸を作っても、使う機会がなかったな。
不足するのは魔力かな?
状況に応じて、作る丸薬を考えよう。
「今回は魔石不足か。トウコ、弾丸は足りてるか?」と自律分身。
「弾丸は足りてるっス」
早い段階で物資を集めると、敵との交戦が少なくなる。
魔石が足りなくなってしまう。
逆に遅いと戦闘が激しくなって、物資を集めたりクラフトする時間が足りない。
トウコの弾丸と経験値も稼がなくちゃならない。
ジレンマだな。
「魔石は俺のほうで集めとく。そっちは弾丸と経験値を頼む」
「今、あたしのレベルは2っス……」
「また下がったなあ……」と俺。
「2か……マズイな。トウコの経験値優先で行こう」と自律分身。
俺のレベルは……。
ステータスウィンドウで確認する。
「俺は12に下がってるが、なんとかなるだろう」と俺。
「時間が惜しい。三ウェーブがはじまる前にエントランスホールに集合しよう」と自律分身。
「リョーカイっス!」
俺はバルコニーから飛び降りて、地下倉庫へ向かった。




