死に覚えゲーで無理ゲーで運ゲー!?
道中のゾンビを片付けながら話を続ける。
「衣裳部屋についたら自律分身を出す。まあ、出せるかは試してみないとわからないけどな」
「あ、店長二号はクールダウンで出せないんスかね?」
「ああ。本来はクールダウンに六時間かかる。死んで復活した今なら、出せそうな感じがするんだよな」
不思議そうな表情でトウコが言う。
「じゃあ出してみればどうっスか?」
「そうだが、少しでもあとから出すようにしたい。効果時間の関係でな」
開始直後から自律分身を出しても四ウェーブが終わるまでは持つ。
少し遅らせれば、五ウェーブの少し前くらいまでは持つはずだ。
「なるほどっス」
トウコが頷く。
俺は説明を続ける。
「自律分身が出せたら、そこから二手に分かれる。三人で別々に探索する作戦も考えられるが……レベル上げに自律分身が必要だろ?」
「二号がいないとキビシイっスねえ……」
トウコが空中を見つめながら答える。
ステータスのレベル表示を確認しているのだろう。
「じゃ、トウコと自律分身は二階でレベル上げだな」
「二手に分かれるのはいいんスけど……二号はもっと遅く出してボスと戦うときに居たほうがよくないっスか?」
自律分身を出すのをさらに遅らせて、ボス戦まで残す。
そういう考えもあるが……。
「いや、ボスは強いんだろ? 自律分身がやられると、俺もフィードバックでやられちまう」
「ああ、弱点っスね……。そうなるとやっぱり、ボス戦前までに活躍してもらうのがいいっスね」
トウコが納得した様子で頷く。
自律分身は便利だけど使いどころが難しいんだよな。
「それから、衣裳部屋で出すのは、あいつも着替えが必要だからだ」
「靴とか服がないとケガするっスからね。あと、見た目が同じだと混乱するっス」
服と靴の効果は大きい。
自律分身の服を俺と違うものにするのも、地味に意味がある。
俺は、もう一人の俺がいても混乱しない。
でも人から見れば同じに見える。俺と自律分身は見分けられない。
リンも分身がやられるたびに心配して取り乱していた。
ツープレイヤーカラーなんてのは冗談だったが、ばかにできない。
「自律とトウコは二階でレベル上げ。俺はバルコニーから地下倉庫へおりて工具武器を手に入れる!」
「さすが工具フェチっス! あたしたちより工具が欲しいんスね!」
「……比べるもんじゃないだろ? お前を守るための武器だぞ!」
トウコがちょっとうつむいて、ごにょごにょと言う。
「……ちょっと、カッコいい返しはズルいっス……。じゃあ、あたしは着替えた後は店長二号と二階でレベル上げと弾かせぎっスね!」
「あ、クラフトで使うから今のうちに弾丸を何発かくれ」
「ほいっス」
弾丸を受け取る。
火炎瓶やマッチの素材に必要だ。
「ちなみに、ボスに挑むには最低どれくらいのレベルが必要だ?」
「あたし一人だとレベル8あっても勝てなかったっス。二人なら……わからないっス!」
「わからんのかい!」
「だって、倒したことないっス。どれだけやったら倒せるかがわかんないっス!」
たしかに、わかりっこないか。
ボスの強さが俺のダンジョンと同等だとすれば、俺ひとりでも勝てるはず……。
ボスですらない騎士鎧があの強さだ。ボスはどれだけなんだ?
まあ、やってみなければわからない。
「武器や装備があれば、俺がなんとかできるかな。まあ、試してみないとわからないのは同じだ」
「ほら、わからないじゃないっスか!」
「まあそうだな。試してみよう」
としか言いようがないのであった。
「今回は地下倉庫の武器があれば大丈夫ってことっスかね」
「まあ、いつもの武器とは違うけど。もし勝てなくても、次につなげられるさ!」
俺は無理にでも明るい考え方をする。
このダンジョンの厳しさは、俺たちの精神を削る。
死んでも復活できるとはいえ、心は消耗していく。
俺も疲れているのかもしれない。正常な判断ができていないのかも。
動く騎士鎧にだって、挑む必要はなかった。
でも、無駄ではなかったはずだ。
そう考えるしかない。やるしかないんだ!
逃げ続けていては……気持ちが後ろ向きになってしまう。
戦うことで、気持ちを保つ。
だからボスに挑む。
死んだとしても、情報が得られる。
経験値を失っても、経験は残る。
このダンジョンでは死んでも終わらない。
それなら、それを生かした戦い方をする。
死んでも次があるんだ!
「死に覚えゲーっスね!」
「でも、ただでは死なないぞ。レベル上げはしっかりしておく。つまりボスに挑むのは四ウェーブを越えた直後だ!」
「リョーカイっス!」




